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31 いい人でした

敦子も考えるのをやめて、コーヒーを飲むことにした。


それからも彼女は、モテ自慢を始めたので、うんうんと適当にうなずいていた。


不意にテーブルに影が差した。


先に気づいた彼女が言った。


「 遅かったのね、待ってたわよ。 」


「 ごめんね、佐代子さん。すみませんねえ。 」


彼女あらため佐代子さんの待ち人が来たらしい。

なぜかその人は、申し訳なさそうに敦子に謝ってきた。


「 佐代子さん、関係ない人を巻き込んじゃあだめだよ。 」


「 関係なくないわよ。彼女当事者だもの。 」


敦子は、驚いた。

彼女あらため佐代子さんが、素直に彼の言うことを聞いているのである。


たぶん目の前の人が、今度結婚する人なのだろう。


しかしである。


目の前の人は、どう見てもごく普通の人だった。

10人が見たら10人とも普通というんじゃないかというぐらいに、平凡な人だったのである。


「 彼のことよく見てるけど、この人は、私と今度結婚する人なの。 」 


そんな平凡な人を、食い入るように見ている敦子に対して、佐代子さんは自分のものアピールをしてきたのである。


とうの平凡さんはといえば、それに恥ずかしがるわけでもなく、しょうがないなあという顔をしている。


いろいろなことにびっくりしている敦子をよそに、佐代子さんは言った。


「 修二さん、この人に忠告してあげてたのよ。もう済んだからいくわ。 」


「 修二さんだけには、あのこと教えてあげたの。 」


修二と敦子に、そういった佐代子さんの顔は、先ほどのたかぴしゃ姿とは、うって変わってやわらかい表情をしていた。


じゃあといって佐代子は、勝手に席を立った。

しかしそのまま行くかと思えば、最後の忠告とばかりにまた敦子にいってきた。


「 いい? 普通が一番よ。付き合うなら普通な人よ。 」


そう言い残して佐代子さんは、平凡な彼氏である修二さんの腕をとって出口に歩き出した。


修二さんはといえば、敦子にまたお詫びするかのように、頭を下げていた。


去っていく前に、テーブルの上に置いてあったレシートを忘れずに持っていってくれた佐代子さんだった。


敦子が気付いて、慌てて追いかけると、佐代子さんは、きれいに微笑んでいった。


「 あなたも素敵な人に巡り合えるように祈ってるわ。 」



敦子は、思った。


やっぱり玉山さんがデートしようとした人だけあって、その派手な見た目とは違ってなかなかいい人だったなあと。


一人残された敦子も帰ることにした。


アパートに帰り、寝る前に、先ほどの八頭身美人佐代子さんとの会話を思い出した。


「 確か彼の目が、金色になったって言ってたけど、以前ドライブしたときにはならなかったなあ。 」


もし暗がりで金色になるのだったら、食事の帰りなどに見たはずである。あの時、家に着いた時には、すでに暗かったのだから。

それに、最初ベランダに立っていた玉山さんを見た時にも、変わったところはなかった。


変わっていたのは、金斗雲もどきに乗っていた敦子の方で。


ただ気になるのは、敦子の夢の方だ。敦子の夢の中で、会う人は、確かに目が金色をしていた。

何か関係かるのかなあと思ったが、以前実家の事とか聞いた時に、あの神社周辺の生まれではなかったはずである。


また玉山に聞いてみようかなあと思ったがやめた。


あなたの目は金色になりますかなんて、とてもじゃないが、聞けない。


たぶん言われた方もびっくりするだろう。


そこで、玉山の事を考えるのはやめて、今日あった八頭身美人の佐代子さんの事について考えた。


佐代子さんの未来の旦那様は、ごく普通の人だった。

それでもふたりとも幸せそうだった。

お相手である修二さんという人も佐代子さんを愛しているようで、お互いに信頼しあっている様子がよくわかった。


ひとり、いいなあとつぶやいて寝た敦子だった。



その夜の夢は、当然また自分と玉山さん似のあのひとがいる夢だった。

なぜか今回は、二人で仲良く話をしていた。

ただ敦子が、あの人の顔を見れば、やっぱりあのひとの目は金色だった。


はっとして起きると、夢の中で何を話していたのか全然思い出せなかった。




月末に近づいてきて仕事が忙しくなった。

お昼も皆で買い出しをしてきたりして、会社で食べることが多くなった。


あわただしい毎日を過ごしているうちに、やっと週末の金曜日が来た。


昨日の木曜日に、お泊り会の連絡が来た。


友人の酒井恵美が、敦子のビルに来るというので、ビルの前で待ち合わせとなった。


仕事が終わり、ビルの前で待っていると、小走りに坂井恵美がやってきた。


「 ごめんね、まった~。 」


「 大丈夫。私も今きたところ。 」


敦子がそういうと、ほっとしたようだった。


じゃあ行こうかと歩き出したとき声がかかった。


「 滝村さ~ん。 」


敦子が声の方を見ると、営業の笹川が、走ってくるところだった。


「 あっ、お疲れ様です。 」


笹川は、外出先から会社に戻るところだったらしい。


「 ごめんね、帰るところ。この書類また机の上に置いておくからお願いしてもいい? 」


「 いいですよ。 」


ちらっと書類を見て、来週でもいいなと判断して敦子が言った。


笹川は、敦子が持っているお泊りの荷物が入ったちょっと大ぶりなバックを目に留めていった。


「 これから旅行? 」


「 いえ、友人の家にお泊りです。 」


敦子は、後ろに立っている酒井恵美を指さして言った。


笹川は、敦子に言われてはじめて後ろに立っている酒井恵美に気が付いたようだった。


「 こんばんは、初めまして。笹川です。 」


「 こんばんは、酒井です。 」


笹川が営業で培った人のいい笑みを浮かべていった。


「 ふたりで? 」


「 いえ、もう一人友人と三人で。 」


「 楽しそうだね。じゃあよろしく。 」


そういって、笹川は、会社に戻っていった。


笹川が、見えなくなったところで、酒井恵美が、いってきた。


「 あっちゃ~ん、さっきのひとかっこいいねえ。いいなあ。 」


「 恵美ちゃんのとこだって、かっこいい人いるでしょ。 」


「 いないよ。まあいるにはいるけど、かっこいいひとは、すぐ誰かに持ってかれちゃうのよ。 」





2人は、確かにそうだと笑いながら、当初の目的であるデパ地下に向かったのだった。

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