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29 みんなに見られてしまいました

月曜日からいつもの日常が始まった。


ただ一つ変わったこと。


机の上のマットには玉山からもらったポストカードがはさんである。


仕事中いつも見れるようにと持っていくことにしたのだ。

それを見ると仕事がはかどる気がする。




とはいえ、やっと月曜日は、元のリズムに戻るのに時間がかかる。


やっとお昼になり、いつものメンバー三人でランチに行こうとしたところで、玉山に会ってしまった。


ちょうど三人で一階のビルのロビーに来たところで、会社に戻ってくる玉山に遭遇したのだ。


敦子が気が付くと同時に玉山も気が付いたようで、玉山が急ぎ足で敦子の元へやってきた。


「 滝村さん、手をけがしたって聞いたんだけど、大丈夫? 」


玉山は、敦子のお財布を握りしめている腕をとり、急いで調べだした。


「 大丈夫ですよ。 」


敦子は、慌てて玉山の手を自分の腕からはがした。


「 あっ、ごめん。 」


玉山は、手をはがされて、敦子の顔を見て、焦ったように言った。

敦子の顔が真っ赤になっていたからだ。


「 心配してくれてありがとうございます。大家さんから聞いたんですね。ちょっと手をひねったかなっていうぐらいの軽いものだったので大丈夫です。今は全然痛くないですし。 」


「 それならよかった。 」


そういいながらも玉山は、まだ敦子の手が心配なのか手をよ~く見ていた。


敦子は、玉山を安心させるように手を振って見せ、やっとのことで玉山は納得したようだった。


「 大丈夫そうだね。じゃあまたね。 」


玉山は、笑顔を見せて、エレベーターのほうへ行った。


敦子は、じゃあ行こうかと二人を見れば、二人はなぜか固まっていた。


「 えっ、どうしたの。 」


視線を感じてあたりを見渡せば、なぜか周りもみな敦子を呆然といった表情で見ていた。


「 ねえ、行こう。 」


また敦子が、ふたりに呼びかけると、ふたりはやっと意識が戻ったようだった。


「 あっ......うん。行こう。 」


ふたりが敦子に促されて、歩き出すと、周りにいた人たちも動き出したのがわかった。



お店に着くまでなぜか二人は、無言だった。


ただお店に着いて、ランチを食べ始めると、ふたりが豹変して敦子に質問という拷問をしまくってきた。


きっと聞くのを我慢していたので、その分たまっていたのだろう。


「 ねえあっちゃん、さっきのなにあれ。玉山さんだっけ、すごく心配してたよね。 」


「 うんうん、こうやって、あっちゃんの手を取ってねえ~~。 」


見れば、先ほどの敦子と玉山の様子を、ふたりで手に手を取って再現までしている。


仕方なく敦子は、大家さんにあったところから、説明を始めた。


間違っても一緒に美術館に行ったことや、けがが嘘だったとは言えなかったので、なんだか説明も言い訳じみてしまって困った。


しかし当の二人は、さきほどの玉山と敦子の様子に、もう興奮しまくりだったので、敦子のつたない説明も気にした風ではなくて助かったのだった。


ふたりは、興奮冷めやらぬままランチを終わり、帰りながらもまだふたりで再現していた。


「 いいなあ、あっちゃん。わたしもあんな風に心配されたい~。 」


「 わたしも! 」


「 ふたりには、かっこいい彼氏がいるでしょ。それこそみんなうらやましがってるよ。 」


「 それとこれとは違うのよ!! 」


ふたりにすごい剣幕で言われて、たじたじだった敦子だった。



会社に戻り、仕事をしていると、やはり昼休みであの場面を見られていたのか、敦子がコピー機のところに行けば、誰かが来てさっきの事をいろいろ聞いていく。


トイレに立てば立ったで、わざわざトイレまで聞きに来る人もいて敦子もびっくりした。


同じアパートにいるというように、当たり障りのないように言っていたのだが、何回も説明するのが、めんどくさくなって、しまいには紙に書いて持っていようかとも思ったぐらいだった。


しかもみんながみんな最後の言葉が同じだった。


「 そんな偶然てあるんですね~。うらやましい~。 」


帰り際には、営業の笹川まできて言ってきた。


「 滝村さん、みんながいっている『 エレベーターの貴公子 』と知り合いなの? 」


仕方なく何度もした説明を笹川にもした。


「 そうなんだ。ただそれだけなの? 」


「 そうですよ。 」


半分うんざりして言ったのが、面白かったのか笹川が言った。


「 ただのご近所さんなだけなのに大変だったね。 」


笹川は、なぜか笑顔で自分の場所に戻っていった。




上司が言った。


「 何かよくわからないけど、滝村さん大変だったね~。 」


なぜだか妙に同情されていた敦子だった。




まだ月曜日が終わっただけなのに、玉山のおかげでなんだか、ぐったりとして会社を出た。



「 ちょっとそこのあなた。 」



どこからか声がしたが、まさか自分の事とは思わず敦子はそのまま歩いていた。


不意に腕を取られた。


「 待ってって言ってるでしょ。ちょっとお話があるの。 」



いきなり腕をとられて、驚いて腕の先を見れば、そこには、八頭身美人が立っていた。


「 えっ、私ですか。 」


敦子の腕をとっている八頭身美人をよく見たが、見たことがない人だった。

敦子は誰かと間違えたのかと思った。


「 あなたよ。お昼玉山さんと話していたでしょ。私、偶然見ちゃったの。 」


玉山という名前を聞いて敦子は、びっくりした。


「 この人って玉山さんの彼女? 」


「 あなた、声が出てるわよ。ちょっとお話があるの。私についてきて。 」


敦子は、思わず口を押えて、相手の手を振り払った。


「 すみません、私行けません。 」


敦子がそう言うと、八頭身美人がなぜか困った顔をした。


「 いきなりでごめんなさい。あの向かいのカフェならどう? 」


ビルの前にあるカフェを指さした。


「 これは、あなたにも重大なことよ。 」


そういって八頭身美人はさっさとカフェに歩いていった。


敦子は、迷ったが、結局ついていくことにした。

すぐ前のカフェなら、安心だろう。


ただ敦子は、思ったのだった。


___これって俗にいう修羅場?___

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