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なぜか水に好かれてしまいました  作者: にいるず


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29/80

27 距離が少し縮まりました

「 おいしかったです。ありがとうございました。 」


結局お昼も玉山が、払ってくれた。


また公園をのんびり歩きながら、駐車場に向かった。


敦子は、心地よい風に吹かれながら緑の中を歩いた。

気が付けば、家族の事や今の職場の事など自分の事を話してしまっていた。


玉山は、同じビルにある職場ということに驚きながらも、自分の家族のことなど話してくれた。


「 玉山さんも弟さんがいるんですね。一緒ですね。 」


「 けどうるさいよ。かわいくないし歳も近かったからよくケンカしてたよ。 」


「 へえ~、玉山さんもけんかなんてしたんですね。うちは、しょっちゅうしてましたけど。弟さんも玉山さんに似てるんですか。 」 


「 あ~、似てないかなあ。周りには、似てないってよく言われていたから。 」


似てなくてもきっと弟さんもカッコいいんだろうなと敦子は思った。

そのあとも母親やアパートを経営している叔母の話をしたり、いろいろ玉山のプライベートな話が聞けてうれしかった敦子だった。



それから駐車場につき、車に乗った玉山が言った。


「 ちょっとドライブしよう。 」




玉山の車は、都会を離れていく。


車の中は、この前とは違う曲が流れていた。

食後ということもあってか、ゆったりとした気分になり、どんどん変わっていく景色を楽しんだ。


しばらく走ると、海が見えてきた。




海の見える公園の駐車場に車を停める。


車から降りると、一気に潮の香りがした。


「 気持ちいいですね。 」


隣の玉山に笑いながら言った。

玉山はなぜか目を細めてうなずいた。


2人で長い遊歩道を歩いた。


目の前には、海が広がっている。


太陽の光に海がきらきら光って見える。


波は穏やかで、海岸に打ち寄せる波の音が、心地よいリズムで聞こえてきた。


地平線までの空には、雲一つなく真っ青い空が続いている。



不意に、玉山が手を差し出してきた。


敦子が、ついその手を凝視していると、玉山が得笑いながら、敦子の手を握ってきた。

  

突然握られた手は、大きかった。


敦子は、心臓のドキドキが玉山に伝わらないか心配になるくらい、心臓の鼓動がすごかった。


もう口から心臓が飛び出るんじゃないかと思ったぐらいに。


敦子は、その時から周りの景色を見る余裕もなくなった。


全神経が、玉山とつながっている手に集中しているのを感じた。


とうの玉山はと見てみれば、景色をのんびり見ているようで余裕を感じた。



が、少し視線を上にあげると、耳が真っ赤になっているのに気が付いた。


思わずくすくす笑ってしまった。


その笑いの振動が、手から玉山に伝わってしまったのだろう。


玉山が、敦子のほうを見た。


敦子の視線の先に、自分の耳があるのがわかったのだろう。


自分も緊張しているのがばれたと思ったに違いない。


玉山は、無理に笑おうとしたのだが、ぎこちない笑いだった。


敦子も敦子であまりの緊張のせいだろうか、笑いが収まらずに体が揺れてしまった。


「 ごめんなさい。こんなに笑ってしまって。あまりの緊張でおかしくなっちゃったみたい。

うっふっふっふっ__。 」


話しながらもつい笑ってしまった。


「 いや、僕も緊張しちゃってて。恥ずかしいな。みっともないところ見せちゃったね。 」


玉山も敦子につられて笑い出した。


それでも手は、つないだままだったが。


笑い転げている敦子と玉山をしり目に、何人もの人が、敦子たちを追い越していった。


ひとしきり大笑いをした後、二人は顔を見合わせた。


笑いのせいだろうか。お互い緊張が解けたようだった。


それがよかったのかもしれない。


そこからは、のんびりと景色を見ながら歩くことができた。


展望台に着く頃には、あたりは少しずつ暗くなってきて、西の空に大きな太陽がオレンジ色に輝いていた。


「 きれいだね。」


「 きれいだな。 」


どちらともなくそうつぶやいた。


「 これからも一緒にいろいろなところに行こう。 」


玉山が、夕焼け空のほうに向いていった。


「 あっはい。よろしくお願いします。 」


夕焼け空で、景色すべてがオレンジ色になっていて、玉山の耳も敦子の顔も赤くなったかはわからなかった。


しかもかみ合わない会話だったにもかかわらず、二人はその会話に満足していた。


しばらくその景色を見ていたが、太陽も沈みかけて、だんだん周りが薄暗くなってきたので、戻ることにした。


歩きながら、これからどこかで食べて帰ろうかという話になった。


「 何か食べたいものある? 」


「 う~ん、お昼豪華だったから、夜は普通のものでいいかな。 」


敦子は、言ってしまってから、あっと思った。


緊張がなくなった分、ついくだけすぎてしまったかもしれない。


おそるおそる玉山のほうを見れば、玉山も笑っている。


「 そうだね、じゃあそばなんかどう? 」


「 いいですね。 」


「 じゃあ行こう。 」


そういって二人は、車に乗った。

つないでいた手が離れ、暖かい大きな感触がなくなって寂しく感じた。


車でしばらく走ったあとついたのは、一軒の日本家屋の店だった。


「 ここの店、おいしいんだよ。手打ちぞばの店でね。 」


入っていくとごく普通の作りで、いくつかテーブルがあった。


夕方で人が何組かいた。


空いているテーブルの一つに座る。


「 ここは、仕事でこっちに来た時に教えてもらったんだ。 」


2人は、おすすめの天ぷらそばセットを注文した。


おすすめ通りてんぷらはカラッとしていて、そばはこしがありおいしかった。


お昼までとはちがい、二人ともなんだか前からの知り合いのようにいろいろ他愛ない話をすることができた。


その中で、玉山は、明日の日曜日は会社に出社しなくてはいけないと残念そうに言った。


敦子は、明日夕食でもごちそうしてもいいかなと勝手に思っていたので、少し残念だった。


しかしまた連絡するよと言ってくれた時には、思わず満面の笑みで玉山を見てしまい、玉山も敦子のその様子に嬉しそうだった。


二人の距離がずいぶん近くなったことを感じて、うれしくなった敦子だった。


その点では、敦子のあの笑いが功を奏したのかもしれない。


アパートに着いた時には、夜になっていて、楽しかった魔法が解けるのを感じた。




ただ家に着くまで一緒にいれるっていうのは、いいものだと敦子は思ったのだった。

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