表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/80

1 ネイルで気分転換

 どうなっちゃったの?私。


 なにこれ? 誰か教えて?


 私、滝村敦子28歳。OL。

 今まで平凡を絵にかいたような人生を送ってきましたが、今日から、平凡な生活じゃあなくなるようです。



 滝村敦子は、机の上の書類をかたずけて、席を立った。



「お先に失礼します」


「お疲れ~」


「お疲れさま」


 いくつかまだ仕事をしている机の住人達から、声が上がった。


 滝村敦子は、フロアー隅にあるタイムカードを手にとり、タイムカードを押した。

 夕方6時。タイムカードには、別の日にも同じ時刻が、記されている。


 更衣室に行く前にふと、廊下の先の窓を見れば、もう薄暗くなっており、空がきれいなオレンジ色と紺色のツートンになっていた。


(この前まで、あんなに明るかったのに)


 8月も下旬に入り、日が短くなった気がする。

 同じフロアーにある更衣室に入ると、すでに何人かいた。


「お疲れ様で~す」


 敦子に、声がかかった。

 今年入社組の3人だった。


「今年の入社組は、かわいいよな」


 休憩室で男性社員が言っていた通り、その三人組は、かわいらしい子たちだった。

 おとなしめなメイクに、キレイめな洋服。

 女の敦子から見ても、好感が持てるような子たちだ。

 しかも性格もよさげで、すべてが、男性受けしそうだ。


「お先に失礼しま~す」


 三人組は、きちんと挨拶して、更衣室を出て行った。

 更衣室でも騒がないところが、また好感が持てる。


(なんだか私、男目線になってるなあ~)


 敦子は、ひとつため息をついた。 

 実用一点張りで選んだワンピースを着る。

 忙しい朝には、ワンピースは、重宝する。コーディネイトしなくていいからだ。 

 同じくコスパで選んだ、靴と鞄をもって更衣室を出た。




 敦子が、働いているのは、食品メーカーの本社である。高層ビルの8階から10階まで使用している。

 敦子は、経理部門に所属しており、10階にいる。

 開発や製造は、別の場所にあり、このビルには、主に営業や企画、経理部門が入っている。


 ここに努めて6年になる。

 自分でも希望したところに、入社できて満足していた。

 最初の一年は、無我夢中で、頑張ってきた。


 しかし4年たったころからだろうか。いつもと同じ業務、いつもと同じ生活に何か物足りないものを感じ始めたのは。

 お給料もそこそこにあり、今住んでいるアパートも、会社から2駅で近く、周りの治安もよく、満足している。


 しかしである。私生活に潤いがない。


 以前は友達と、週一でお食事や飲み会に行っていたが、27歳を過ぎたあたりから、徐々に減ってきた気がする。

 というのもみんな、彼氏ができたりして忙しくなったのだ。

 以前から彼氏がいた子もいたのだが、やはり最近では、彼氏が優先されてきたような気がする。


(男女とも30歳間際になると、結婚を意識するからなのかなあ)


 この前、一緒に食事に行った、友達とも話したばかりだ。


(今は、まだ友達がいるからいいけれど、どうなるのかなあ)


 漠然とした不安を感じるようになったこの頃である。

 仲の良かった同期の子たちも、次々に社内恋愛に発展しており、余計考えてしまうのかもしれない。


 敦子も他の部署の人たちと飲み会みたいなことをやってきたが、地味な外見と内気な性格で、彼氏ができない。

 というか、今までもこれからも、できる気がしない。


(みんな、どうやって結婚してるんだろう)



 最近では、電車に乗っている人たちの、指にはまっている指輪が、目について仕方がない。

 それを見るたびに、なんとなくすっきりしない気分になっている。




 今日は、金曜日。明日あさって会社はお休みだ。

 休みの間、何の予定もない敦子は、なんとなくまっすぐ帰りたくなくて、アパートに近い駅のそばの百貨店に寄ることにした。


 敦子の唯一の贅沢は、ネイルだ。少しだけお高いのを買うのが好きなのだ。

 今日も、お目当ての化粧品売り場に向かう。


 ネイルをいくつか見て、今日気に入った色を買うことにした。

 薄い桜色。

 この前買ったものと似ているが、メーカーによって、少しずつ発色が違うのだ。


 それを買って、ついでにデパ地下で、少しだけお惣菜を買って帰った。


 夕食を食べ、お風呂に入り、やっと一息つく。



 今日買ったばかりのネイルを袋から出して、眺めてみる。

 デパートと家の明かりの下で見るのとでは、ちょっと違うのだ。

 爪に塗るのも好きだが、こうやって眺めるのも好きなのである。



「あれっ?なんか光った?」



 いつものように、ネイルを目の高さより少し上げて眺めていると、ビンの中に何か光ったものを見つけた。

 今日買ったものは、ラメ入りではないので、光るものはないはずだ。


「目の錯覚かなあ」



 もう一度よく見てみたが、何度見ても、光るものを見つけることはできなかった。


「まあいいや。塗ってみるか」



 こうして、金曜日の夜は、ゆっくりと過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ