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14 帰省します

ながい月曜日が終わり、くたくたになった敦子が、アパートに戻り、夕食を食べていると、スマホが鳴った。


「 母さん? なに? 」


「 今度ね、聡が、一日そっちに泊まりたいんだって。それで連休に、もし敦子も帰るなら、一緒にどう?って。 」


「 いいよ。じゃあ聡に乗せてもらって帰ろうかな。聡に連絡する。 」


「 じゃああの子には、敦子も帰るってことを言っておくわ。 」


「 わかった。じゃあね。 」


「 楽しみにしてるわ。じゃあね。 」


敦子は、母親との話を終えた。


敦子には、聡という名前の弟がいる。


大学を卒業して、今年から地元の役場で働き始めた。

敦子が、夏休みに帰った時には、忙しくてなかなか休みを取れないと嘆いていた。

大学は、こちらのほうだったので、友人と会うのだろう。

行きだけでも、車に乗せて行ってもらえるなら、楽だ。

今度大家さんに駐車場を貸してもらえるように、お願いしておこうと思った敦子だった。


夜寝る前にまたスマホが鳴った。


「 ねえちゃん? 俺。母さんから聞いた。一日そっち泊まっていい? 」


「 いいよ。休みとれてよかったね。いつ泊まるの? 」


「 連休前の金曜日。それからねえちゃんのせて、帰るよ。俺一週間休みだから。 」


「 じゃあね、母さんによろしく。父さんも元気でしょ? 」


「 元気元気! もう祭りの準備やってるよ。まだ半年もあるってのにさ。 」


「 そう~。じゃあね。 」


敦子の田舎では、祭りが盛んだ。

父親は、もう60歳を超えているが、田舎では、まだまだ現役の部類に入るらしい。

急に田舎の空気が吸いたくなった敦子だった。





翌日火曜日は、会社を少し早く終わった。


老舗の和菓子屋さんにより、予約してあった羊羹を受け取り、急いでアパートに帰った。


アパートにつき、そのまま一階にある大家さんの家に行く。


インターホンを押す。


ドアが開いた。


「 こんばんは。303号室の滝村です。 」


「 こんばんは。どうかした? 」


「 今週の金曜日に弟が来るんですけど、駐車場一台貸していただいてもいいですか。 」


「 いいわよ。どうぞ使って。 」


「 ありがとうございます。それとこれ、よかったら、皆さんで召し上がってください。」


「 ありがとうね。いつも悪いわね。 」


笑顔で大家さんは、受け取ってくれた。


「 そうそう、隣の竜也うるさくしてない? 」


「 あっ、はい。大丈夫です。 」 


「 そう~、よかったわ。またよろしくね。 」


「 いえっ、では、おやすみなさい。 」


敦子は、親さんの玄関を後にしながら、玉山は敦子と出かけたことを言ったのだろうかとふと思った。


敦子のアパートは、一応来客用に2台分の駐車場がある。

玉山の車は、大家さんの家族用のところに止めている。


来客用を使用するときには、何も言わなくて止めてもいいのだが、大家さんがすぐそばに住んでいる手前、借りるときにはきちんと連絡したほうがいいと、親も言っていた。

しかも長時間駐車するのだ。言っておいたほうがいい。


まあ敦子が使うことはほとんどなく、今回で三回目だ。

一回目が、借りるとき親の車を。二回目が今回と同じ弟が。


翌日は、前の日に早く帰った分、ちょっと残業しようと思って意気込んで、会社に行くと、更衣室に同僚の大橋奈美がいた。


「 おはよう、奈美ちゃん。 」


「 おはよう、あっちゃん。急なんだけど、今週金曜日開いてる? 」


「 ごめんね、金曜日弟がうちに来て、次の日から実家に帰るんだぁ。 」


「 そうなの、残念。でも急だし仕方ないわよね。坂口さんが金曜日に、飲み会しないかって言ってきたのよ。同僚もつれてくるからって。 」


「 そうなんだ、ごめんなさいって坂口さんに行っておいてくれる? 」


「 わかった、また行こうね。でも誰連れてくる予定だったのかしらね。私も聞いてないのよ。 」


そういって、奈美は先に更衣室を出て行った。


坂口さんは、奈美の彼氏だ。二歳年上の素敵な人だ。


( 誰か紹介してくれる予定だったのかな。 )


ちょっと残念な気持ちになった時、なぜだか玉山さんの顔が思い浮かんだ。




そしてその夜、敦子が、寝ようとしたとき、スマホに連絡が入った。


玉山さんからだった。


『 今週土曜日、ドライブどうですか。 』

 

敦子は、思わず苦笑いが出た。


( なんで、今週ばっかり予定はいるんだろう。今までなんて予定あるほうが珍しかったのに。 )


『 すみません、予定がはいっていて。誘っていただいてありがとうございます。よかったらまたお願いします。 』


敦子は、メールが来てからああでもないこうでもないと、連絡する文面を考えて、やっと連絡したのは、一時間近くたってからだった。


‟実家に帰ること”を文面に入れようか、‟弟が来るから”を入れようかとか、うだうだ考えていたが、なんだかそう親しくもない相手にあまりに書きすぎるのもなあと、書くのをやめたのだが、また行きたいという気持ちには勝てず、また誘ってほしいという気持ちを書いてしまった。


メールを出してから、やっぱり違う文面にすればよかったと、またうじうじしてしまった敦子だった。


そのあとは、なかなか寝られずに、玉山さんからの連絡を待ってしまった。


『 わかりました。またお誘いします。おやすみなさい。 』


シンプルなメールが届いたのは、それから一時間もたってからだった。


待ちに待ったメールがあまりに簡単で、気が抜けてしまった敦子だったが、‟またお誘いします”の文字が、なんだかうれしくて、やっと眠れたのだった。

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