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11 手料理をご所望です

 車が、再びビル群へと戻っていった。

 敦子は、なんだかそれが寂しく感じた。信号で、車が止まっているときに、不意に玉山さんが言った。


 「うちのおばさん、大家さんね。ときどきいいにおいがするんだけど、もしかしたら滝村さんかしらねって言ってたんだけど。自炊してる?」 


 「あっはい。毎回外食だとお金かかるので」


 「そうか。じゃあ明日食べたいな、滝村さんの手料理」


 「えっ~、私のなんておいしくないですよ。ただの田舎料理だし」


 「いい匂いって言ってたよ、おばさん」


 そうこうしているうちに車が、走り出してしまい、なんだか断りずらくなってしまった。


 「あまり期待しないでくださいね」


 「いいの?ありがとう」


 玉山さんがあまりにうれしそうに言ったので、敦子もなんだか食べてもらってもいいかなって思ってしまった。

 まあ今日は、ごちそうになったし、口止めの意味もあるしと、心の中で言い訳したのだった。

 それからは、車の中で、敦子は、明日のメニューを何にしようかと、ずっと考えていた。

 気が付けば、車は、駐車場に戻っていた。


 「明日ちょっと会社に出るから、夕食でもいい?」


 「いいですよ」


 「じゃあ楽しみにしているね。時間のこともあるし、連絡先交換しない?」


 「はい」


 いつの間にか敦子は、玉山さんと連絡先まで交換していた。

 玄関先で別れるときに、敦子は言った。


 「今日は、ありがとうございました」


 「いえ、こちらこそ。じゃあまた明日」


 敦子はビル群を見た時に感じた寂しさが、どこかに消えてしまったのを感じた。


 部屋に戻ると夕方になっていて、慌てて洗濯物をとりこんだ。

 テーブルには、カップが二つそのまま置いてあった。

 着替えやらお化粧やらで、片づける暇がなかったのだ。

 その置いてあるカップを見ると、あらためて玉山さんの存在を実感した。

 

 洗濯物やカップを片づけたら、あたりはすっかり暗くなっていた。


 「買い物は明日いこう」


 夕食には、冷蔵庫にストックしてあったものを食べた。

 お昼が豪華だったので、あまりおなかもすいていない。


 「明日なに作ろうかな」


 考え出すときりがなかったので、ひとまず塗ってあったネイルをとることにした。

 とるときにはもったいなくて、もう一度水の球を出して部屋に浮かせたりした。


 「とうぶん封印だね」


 敦子の心を読んだかのように、水の球は部屋中をいくつもまわっていた。

 原因であるネイルボトルは、ほかのネイルボトルとは、別の場所に置いておくことにした。

 しまう前に明かりに掲げてみると、やっぱりきらりと光った気がした。


 そしてお風呂に入り、リラックスした後明日のメニューを考えた。


 「何にしよう、って言ってもそんなに、レパートリーがあるわけじゃないもんなぁ」

 

 何かいいのがないか、ネットで検索してみた。

 しかしあんまり凝ったものにしたら気合の入れすぎじゃないかとか、玉山さんも負担に感じるんじゃないかとか、うだうだ考えすぎて時間だけが過ぎてしまった。

 結局いつものを作ることに決めて、寝ることにした。


 夢を見た。

 内容は、覚えていないが、見た夢が悲しかったのだけは、覚えている。

 

 翌朝の日曜日は、少し雨が降っていた。

 少し寝過ごしたようだ。

 時計を見れば、もう9時近くになっている。


 「玉山さん、もう仕事いったのかなあ」


 ついそんなことを考えてしまった。

 軽く朝食を食べ、スーパーへいく支度をした。


 スーパーにいき、いつもよりじっくり見ていたら、普段より多く買ってしまっていた。

 

 帰ると、もうお昼になっていた。

 買ってきたものを冷蔵庫に入れてから、お昼を食べた。

 それから、買ってきたもので出来るメニューを、紙に書いていく。

 書きながら、改めて感じた。

 思ったより食材買ってしまった!


 慌てて料理を始める。

 いくつか作って、ストックしておくものと、今日食べるものに分けておく。

 昨日玉山さんが、デザートをおいしそうに食べていたことを思いだし、スーパーでチーズケーキの材料も買ってきた。急いでそれも作って、冷蔵庫で冷やしておく。

 食べる分だけ切って、あとは、冷凍庫に入れておいてもいいだろう。

 午後の半日を料理つくりに費やして、あとかたずけなどすべて終わった時には、もう5時ちかくなっていた。


 「玉山さん、いつ帰ってくるのかなあ」


 スマホに、連絡は入っていない。

 敦子は身支度をした。

 同じ部屋着でも今日はちょっとだけ、おしゃれなTシャツにパンツという格好にした。

 今更着飾ってもという感はぬぐえないが、まあいいだろう。

 そうして、またスマホを見れば、連絡が入っていた。


 『六時過ぎに伺います』


 時計を見れば、もうすぐ時間になるところだった。

 手持ちぶたさで、テレビをつけてみていると、インターホンが鳴った。


 モニターを見れば、笑顔の玉山さんが映っていた。

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