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9 説明しました 

 ピンポーン


 時計を見れば、朝の10時ちょうどだった。

 敦子は、飛び起きて、玄関まで走っていった。


 「寝ちゃったよ~」

 敦子は、一応インターホンで、来訪者を確認した後、ドアを開けた。

 やはり玉山さんが、立っていた。

 ラフな白い襟付きシャツと、チノパンを穿いていて、いかにも休日スタイルらしい。

 なんでも様になる玉山さんだった。


 敦子は、玉山さんに飛んでいるところを、見られてしまった後、少し仮眠でもしようかと思ったのだが、やはりというべきか眠れなかった。

 気分も落ち着かなかったので、早い時間に朝食をとり、洗濯も掃除もした。

 一応コーヒー、紅茶どちらでも出せるように準備しておく。

 それでも待ってる時間は、果てしなくながく感じて、つい横になっていたら、寝てしまったようだ。

 着替えようと思っていたのに、時間が無くなってしまった。

 ちなみに今着ているのは、よれよれのTシャツに、ひざ下までの綿ズボンだ。

 完全に部屋着である。


 玉山さんは、あんなものを目撃したのに、すっきりとした様子で、入ってきた。

 狭いながらも、二部屋あるので、キッチン兼居間として使っている部屋に案内する。


 ローテーブルの前に、座ってもらう。

 玉山さんがいると、部屋が狭く感じた。


 「昨日は、ごめん。びっくりしちゃって。夜遅かったのに、お邪魔しちゃって」


 「......いえ、びっくりされて当然ですから。お茶入れてきますね」


 いったん玉山さんの前に座ったが、お茶を入れに席を立とうとした。


 「いや、まずいろいろ説明してほしいな」


 催促されたので、仕方なく座りなおす。


 目の前の玉山さんも正座なので、敦子も正座した。

 なんとなく目を合わせずらくて、下を見ていると、強烈な視線を感じた。

 顔を上げると、真剣なまなざしで、こちらを見ている玉山さんと目があった。


 「昨日仕事で帰りが遅くなって、お風呂に入った後なんとなく星が見たくなってベランダに出ていたんだ。そうしたら見ちゃったんだけど」

 

 なるほど、それであんな時間にベランダに出ていたのかと敦子は納得した。


 敦子は、意を決してネイルを塗った時からの事を話し始めた。

 

 玉山さんは敦子の言葉をさえぎることもなく、ただ黙って、聞いてくれていた。

 敦子がすべて話し終わると、玉山さんはぽつんと言った。


 「不思議なことってあるもんなんだね。たぶん自分の目で見てなければ、信じられなかったと思うけど」


 「そうですよね~。私だっていまだに信じられないんですから」


 「そうだ!今水を昨日のようにできる?この目で見てみたいんだ」


 「できると思いますよ」


 敦子がそういうと、あらかじめ桶の中にはってあった水が次々に球となって浮き上がり、玉山さんのほうへふわふわと近づいてきた。


 玉山は球を凝視していたが、思わずといったように手を差し出した。

 ひとつの球が、玉山の手に乗った。

 残りの球が、玉山の周りをゆっくりと回っていく。


 玉山は立ち上がって、その様子を見ていた。

 しばらくしてその球が集まりだして、一つの球となって敦子の前に行った。球は、ボードのように平らになる。

 敦子はその上にのり、少しだけ浮き上がった。


 「すごいね~」


 玉山さんはひとしきり感心してまた座った。

 敦子も水のボードから降りて座った。

 するとボードはまた球になり、桶の中に戻っていった。


 玉山は、これにもひとしきり感心していた。


 「せっかくだから、お茶でもいただこうかな」


 「そうですね。コーヒーと紅茶とお茶、どれがよろしいですか」


 「じゃあ、コーヒーをいただこうかな」


 敦子はキッチンに行き、急いでドリップコーヒーを2つ入れて持っていきテーブルに置く。

 一緒に砂糖とミルクも置いた。


 「ありがとう。ブラックなんだ」


 玉山はそう言い、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。


 玉山はコーヒーを飲むさまも絵になるようだった。

 そこだけ切り取ると、まるでホテルのラウンジにいるみたいに思える。

 なんだかそこだけが、異空間のような気がした。


 敦子も一口飲む。

 先ほどの説明で緊張したせいで、のどが渇いていたのでおいしく感じる。

 

 玉山はカップを置いて、今度は少し顔を険しくしていった。


 「滝村さん、あれで何回ぐらい飛んだの?ねえ知ってる?飛んでる姿、ニュースになったりSNSにアップされているよ」


 敦子は飲みかけのコーヒーを、つい吹いてしまった。

 目の前の玉山さんに。

 清潔そうな白いシャツは、見事に茶色のまだら模様ができてしまった。 

 顔にもかかったかもしれない。


 敦子はあわててそばにあったボックスティッシュを、そのまま玉山さんに渡した。


 「ごめんなさい。すみません」


 敦子が平謝りする。


 「気にしないで」 


 玉山さんは申し訳程度に拭いたぐらいで、それよりと言ってポケットからスマホを取り出す。


 そして、あるニュース映像を敦子に見せた。




 『今日のニュースです。昨日遅く、視聴者の方が撮ったと思われる未確認物体が、SNS上を騒がせています。こちらがその映像です』


 アナウンサーがニュースを読んだ後、視聴者がとったものだと思われる映像が流れた。


 『なに~あれ?ねえ見て』


 流れた映像には視聴者の声に交じって、暗いビルの上を何やら光るものが映っている。

 映像がアップされると、光るものの上に何かのっているのがかすかに見える。


 『撮影された未確認飛行物体は、いくつかSNS上にあげられており、複数の目撃者がいると思われます。なおこの映像を専門家に分析していただいたところ、確かなことは言えないが、未知の生物の可能性もあり得るとのことです』


 そうアナウンサーの言葉で、締めく繰られていた。



 「これって滝村さんだよね。SNS上ですごく騒がれているんだ。みんないろいろなことをおもしろおかしく言っていてね」


 そういってまたスマホを見せてくれる。


 「なにこれ?妖怪皿ばばあ?血が滴る皿にのった妖怪?血の池地獄ばばあ妖怪?」

 

 敦子は思いっきり大声を出してしまい、玉山さんにびっくりされてしまった。


 SNSの記事には、妖怪だの皿ばばあだの血の皿だのいろいろ書かれていた。

 記事によると、映像の中に人影らしいものと長い髪の毛らしいものが、写っていたものもあったらしい。

 その映像を、写真のように切り取られているものが、いくつかあった。

 よく見ると、確かに人影や髪が見えたり、敦子が金斗雲もどきと呼んだものが、光っているように見えている。

 しかも赤く光っているように、見えているものまである。


 「さっきの滝村さんの話では、高層ビルに行ったそうだから、ビルの明かりが水に反射したり屋上についている赤いライトが水に反射して見えたんだろうね。

 それにしてもずいぶん騒がれているよ。僕も今日もしかしたらと思って、ネットを見たんだけど案の定見られていたんだね。顔までは見えなくてほんとよかったね」


 玉村さんは敦子が特定されなかったことに、ほっとしてくれていたようだった。



 しかし微妙なお年頃の敦子は、人物特定をされなかった安心ももちろんあるが、ばばあや妖怪呼ばわりされたことにすごく腹が立ったのだった。

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