ヨシオ
「なあヒラク、分かるだろ? 金欠なんだよ」
ニヤニヤニヤニヤ気持ち悪い。またコイツか。
「何言ってんだよ。昨日財布盗った癖に、この泥棒め。もう金なんかねぇーよ」
っていうのは嘘だ。本当は鞄の中に3000円入ってる。
「おいおい泥棒はないだろ? 助け合いだよ助け合い。さっきも言ったろ? 金欠なんだよ」
ーー何が助け合いだ。
「いや悪いなヒラク。いつもオレのために働いてくれて、感謝してるよ」
ーーお前のためじゃねぇーし
「そんな訳でさ、これからもイイ仲でいようぜ……」
ーー!!
アキラの手がスーッと伸びてきて、その手はガッとオレの俺の鞄をつかんだ。
「見せろよ」
突然のことに必死になって鞄を抑える俺。
「よこせ」
「やめろ」
「よこせっ!」
「やめろっ!」
「よこせぇッッッ!!」
「やめろぉッッッ!!」
必死に抵抗する。だがやはりアキラの方が強かった。
また盗られた。毎度毎度金を盗られて、これで何度目だろうか。天井を正面にしてそう思う。
なんだかんだいっていつもやられっぱなし、こんだけやられて何も出来ない自分が嫌になる。まあアキラの方が力強いし足速いし、しょうがないと思うんだけど。
それでも今日は違う。
俺はポケットからスマホを取り出した。
見てろよ、これさえあれば……
男子生徒数人を前にワハハと笑うアキラ。すると体操服姿の女子達が近付いてきた。
「ちょっとアキラ、どういうこと」
ぶっきらぼうに言う。女子達の迫力、後ずさりするアキラ。
「……なんだよ、オレに何か用かよ」
「トボけるんだ……最低」
一人の女子が叫んだ。
「私のパンツ返してよ!」
衝撃の発言にみんなが振り向いた。
「私のもよ!」
私のも、私のも。だがなんのことやらという顔をするアキラ。その表情がより一層女子達の怒りを誘う。
「体育の時間更衣室に忍び込んだでしょ! そして私達のパンツを物色した。おかげで制服にも着替えらんない。ってか私達のパンツどこ!」
「ちょ、ちょっと待てよ。オレはそんなことしてねぇ! 第一証拠がないじゃねぇか」
「証拠もなにもアンタ私達が見てる前でやったじゃない!」
「私達が嘘を言ってるとでも?」
「ーーや……」
クラスの視線が痛い。
その時、ピンポンパンポーンと放送が鳴る。
「2年B組、鈴木アキラ君、職員室来なさい」
「知ってるか? アキラ謹慎になったんだって。何かパンツ盗んだとか」
「知ってる知ってる。女子のパンツ物色でしょ?」
「そうそう」
「度胸あるなー」
「変態を通り越してサイコパスだな」
「で、謹慎か」
「馬鹿だな」
「馬鹿だな」
はははと笑いトイレを後にする男子生徒。
ジャーと流水音が流れて個室から出てきたのは俺。霧山扉だった。
まさかこんなにうまくいくとは……
ニヤニヤニヤニヤ、今にも吹き出しそうな気持ちを抑える。
『凄いね、嫌いな人を謹慎にさせちゃった。一体どうやったんだい?』
ーー!
声はスマホからだった。見ると画面には例の顔文字。
「何だ? お前は画面がある所にはどこにでも現れるとかそういう設定か?」
『その通り。どこへ行こうがパソコン、スマホ、ゲーム機、テレビなんかがある所ならどこにでも現れるよ』
「へぇ、ストーカーめ」
言いつつも嫌な気はしなかった。
『そんなことより教えてよ、キミは一体どんな手を使ってアキラ君を謹慎にしたんだい?』
「簡単なことさ」