裏切り(6)
「一先ずそのロッカーを確認してみよう」
そのロッカーは見かけは他のロッカーと大差ないが触るとその材質の違いがありガッチリとした如何にも頑丈そうなロッカーだ、その壁も他の物よりも厚くて、だが本当にこんなもので爆破の衝撃を防げるかは謎。
中は確かに一人分しかスペースはないようで……
「生き残るとしたら1人だ」
「ーー……ッッッ」
俺のせいだ、俺がこんな事態を招いた。
「どうすんだよ……なぁッ?!」
アクタが俺の胸ぐらを掴む。だが抵抗はしない。俺のせいだーー
「俺は……」
「ヒラクくん、ロッカーに入るべきだよ」
ーー!
「ミホ? 何故だ、コイツはアクタ達を犯罪者に仕立てた上に……」
「分かってる。でも私達が生き残ってどうするの? この中で唯一ヨシオくんと戦えるのはヒラクくんだけ」
「だけど……」
「ねぇヒラクくん、お願い出来るかな?」
「ーー……ッッッ」
確かにこの中で戦えるのは俺だけだ。ヨシオを倒したいなら俺を生かすべき、だがそれは建前で実際のところ生き残るのは誰でもいいのだ。その相手に俺の持つCfがインストールされたスマホを渡せばいいのだから。だがそのことを何故教えない? 簡単だ、生きたいから。正直自分が生き残れることに喜びを感じているのだ。まだ生きることに執着している自分がいる。まだ貪欲に生きたいと思っている自分がいる。そんな心があるからこそ、言えない。
ーー卑怯者
なにもかも俺のせいだってのに
「ヒラクくん!」
振り向くとそこにはミホ。
何故だ、何故俺なんだ? だって俺を選ぶってことはミホは死ぬってことだぞ? それでいいのか? いいのか? 良い訳がない、だって俺はなにも守れてないから。
「クソッッッ!!」
ガムシャラにロッカーを弄り回す俺。
「何にやってんだヒラク、そんなことしたって」
右から順にダンダンダンと調べ、何も抜け出す手がかりがないことを知った俺はマリナの元へ行く。
肩を掴んでガタガタと慄わす。
「お前、何か知ってんだろ? 知ってんだろ?! なぁなあなあッッッ!!」
最早マリナちゃんが何を言っているのか分からないが、今の俺はとにかく暴れたかったのかもしれない。
「ヤメろッ!」
アクタに引き離されハッと我に帰る。
ーー……
昔心に誓ったんだ。俺がミホを守ると、だがその誓いは守れていない、護れていない、叶っていない。迷惑ばかりかけて、何に対しても面倒臭いばかりで……
俺はミホに近づく。ミホの心配そうな表情、だが今はそんなの関係ない。
ーーだから俺に叶えさせてくれよ
ミホの腕を掴み強引にロッカーの方へ連れて行く。
「ヒラクくん、ヒラクくん?!」
ミホは俺の名前を呼ぶ、だが俺はミホを強引にロッカーに入れ激しく扉を閉めた。
中からダンダンと扉を叩く音、だが扉は開かない。俺がロッカーに寄りかかっているから、だから女の力で扉を開けようとするなんて不可能。
「出して! 出して?!」
「……ヒラク、お前」
「アクタ、悪いが俺と一緒に死んでくれ」
タイムリミットはいつの間にかあと3分、3分後に俺は死ぬ。死ぬ、死ぬ? 死ぬ。ああ死ぬのか、悔いのない人生……とは程遠い人生だったのかなと思うけど……出会えて良かった、そして、ごめんなさいーー
途端に扉を叩く音が止んだ。数秒の静寂。だが俺には何十秒にも聞こえた。そして、ミホは言ったーー
「ヨシオさん、最後のお願い、聞いてください」
ーーえ?
「それはどういう……」
俺の言葉は無視して言葉を続ける。
「私の代わりにヒラクくんをこのロッカーに入れて下さい」
「分かった」
何が起きてるかよく分からなかった。ただ目の前に歩いてきたアクタはアクタじゃなくなって忌まわしいアイツになった。
ーーなんでヨシオが……
次の瞬間、痺れた。あまりにも突然で何が起こっているのかよく分からない、多分スタンガン。
ナゼヤツガココニイル?!
ロッカーから出てくるミホと目があった。あの黒くて見つめられると恥ずかしくなっちゃうその眼。小ちゃくて抱きしめたくなるその身体。どうしようもなく守ってあげたくなる……
ゴメンネ
彼女の口はそんな風に言ってる気がした。
俺の意識が途切れる。
ーー熱い、熱い? 暑い厚い篤い厚井圧い、熱い?
ハッと目が覚める。ギィとロッカーの扉が開いて、そこには燃え盛る部屋、あの部屋、さっきの部屋。
ーー爆発、本当に?
そこには燃え焦げた人間の死体、ソイツはスカートを履いているようで、さっきあの場でスカートを履いていたのは……
ーーミホ!!
「ウァァアアァアァやうな畑中はユムッフにim165€3「七_24÷8・#<!!!!!」
そこにヨシオはいなかった。