アクタ
なあミホ、奴とはどんな関係なんだ? そう訊くとミホはただの友達だと言う。ミホに男友達がいたなんて驚きだけど……
「風呂沸いたぞ」
「うん、じゃ私入ろうかな」
男の声にミホは立ち上がり浴室へと向かっていった。
今頃警察は俺達を探し回っているだろう。時刻は夜10時だというのに家の中は賑やかで、ちょっとした安心感も生まれていた。ここに隠れていれば見つからないんじゃないかと。でもちょっとした疎外感もあった。ミホにとっては顔見知りの相手でも、俺にとってはついさっきあったばかりの人達だ、当然だろう? まだロクに話してないし……ってかミホはずっとここにいる気なのだろうか? ここが安全だとも限らないのだし第一俺金髪とつるむ気ないし、早くここから出たいし。警察に見つかる前に早くここを出たいのだが……
「なあ、お前ーー」
気づけばアクタがこっちを向いて話しかけてきた。部屋には俺と二人だけ、
「警察から逃げてきたって本気か?」
「あれはミホの冗談」
「……そうか、まあそうだわな、警察相手じゃ敵わんもんな」
当然のように言う。まあそうだわな、本当のこと言ったら警察に突き出されそうだし。雰囲気的に、
「ならお前なんで来た? 一緒に逃げて来たって、一体何から? なんの関わりもないお前をなぜアクタが泊める必要がある?」
ーー……それは
正論過ぎて返す言葉もない。「帰れ」とアクタは一言。バイクに乗せてこんな見知らぬ所に連れ込んどいて帰れの一言、しょうがない……とは思えなかった。せめてミホの側にいてやらないと、ミホだけは俺が守るって決めたんだ。ミホは風呂に入っている、恐らくミホがいない間に俺を追い出す気なのだろう。
「聞いていいか? お前はミホのなんなんだ」
アクタにそう言われて、俺は「護るべき人ーー」と答えた。まじキメェと言われ家から追い出された。そんな彼は露骨に嫌そうな顔をしていた。
去り際に見たのは紙おむつを買ってきた知らない男。果たしてここにはどれだけの人が住んでるのか。しかし、
ーー紙おむつ?
不思議に思うも、ここは大人しく玄関のドアを開け出ていったフリをした。
家の中には一人のお爺さんがいた。寝たきりで起きないお爺さん。
「おいタカシ、オムツ買ったか?」
「ああ、ちゃんと買ったよ。爺さんのパンパース。あ、それとも履かせるおむつムーミーマンが良かった?」
「馬鹿にしてんのか?」
「や、ちょ、許せアクタ! あ、ちょ、痛い痛い痛い。よせ、そこは……」
隣では男達がはしゃぐ声。
俺はお爺さんにそっと近づいてみる。頭の先から足の先まで、まるで悪い呪文にでもかかったみたいに固まるお爺さん。これが植物状態というやつなのだろうか。他人だというのになぜか心を打たれる。
隣には風呂上がりのミホ。そして俺もミホの格好をしていた。
あの後アクタに見つからないようにそっとミホが風呂から上がるのを待ち、かくかくしかじか訳を話してミホに変身させてもらった。ミホは少しためらったように感じたがすぐに変身させてくれた。ミホは優しいと思う。普通なら自分に変身させてほしいなんて嫌だと思うから。変態じみた男とは違いミホだって女の子だから。
しかし驚いた。ヤンキーだらけのこの家に植物状態のお爺さんがいるなんて……
ミホはゆっくりと語り始める。