青春(3)
駅の改札を通る。
チャラララララ♪ チャラララララ♪ チャラララララ♪ チャラララララ……間も無く一番線ドアが閉まります。ご注意下さい。
プシューといいドアが閉まる。
ゆっくりと電車は動き出した。
空いてる席を見つけ座る。それを見て、隣にミホが座る。
「そういえばもうすぐ夏休みだけどどこか行くの?」
「ん? 俺は……特に決まってないかな。というかどこも行かないと思う。バイトあるし。お出かけとか正直疲れるし。家でゲームしてる方がマシって考え」
「えー、勿体無いな。確か去年もそんなこと言ってなかったっけ……ダメだよ? 若いうちに青春謳歌しなきゃ」
「お母さんみたいなこと言うなよ」
苦笑する俺。
「じゃあさ、一緒にここ行かない?」
そう言いミホはバッとスマホを見せて来た。遊園地のホームページ、真ん中にジェットコースター背後には富士山がある。
「……どこここ」
「知らないの? 富士山ハイランド。実は割引券貰ったんだ。一緒に行かない?」
「なんで俺なんだよ。友達と行けば……ってか大体ミホ彼氏いるじゃん。同じ部活の彼氏。彼氏と行きなよ」
言いつつも内心嬉しかった。女子に遊園地に誘われるなんて考えもしなかったから。
一方でものすごい勢いで否定するミホ。
「違うってば、アレは……ヨシオくんは部活の友達であって彼氏なんかじゃないんだってば」
必死に言い訳をするミホ。でも俺は知っている。ミホがヨシオを家の中に入れて夕飯をご馳走してあげたということを。
「とにかく俺は止めとくよ。誘ってくれるのはありがたいけど忙しいから」
「……そう」
少し冷たかったかもしれない。でもそれ以上にこっちは傷ついたのだ。
半年前まで俺とミホは頻繁に帰りを共にしていた。俺は調子に乗っていた。女の子と一緒にいることでワンランク上の地位にいた気でいた。彼氏にでもなった気でいた。告白されてもないのに。一緒に話したり一緒に帰ったりしただけで彼氏にでもなった気でいた。
その思いはいつしか俺にいじらしい妄想をさせるまでに発展させた。このまま付き合っていってやがては結婚とかして、子供なんか生まれちゃって幸せな日常を送って、時に笑い泣き喧嘩とかもして、子供が大きくなる頃には俺達はもう爺さん婆さんになって穏やかな老後を過ごしていく。それでもいいなあ、なんていう妄想。今になってみれば妄想で未来を語るとか馬鹿な俺だったと思うけど。
でもそう考えるようになったのは、単純にミホが可愛かったからなのかもしれない。綺麗とか美しいんじゃなくて可愛いのだ。整った顔立ち、黒くて見つめられると恥ずかしくなっちゃうその眼。小ちゃくて抱きしめたくなるその身体。どうしようもなく守ってあげたくなる、それがミホだ。
俺の中に確実に恋が芽生えつつあった。
そんな時にヨシオだ。
ヨシオが現れた。
ヨシオは明らかにミホに好意があった。部活が一緒だということをいいことにミホに接触し一緒に帰るまでに漕ぎ着け俺からミホを奪ったのだ。しかも成績優秀スポーツ万能、まさに完璧なヨシオ……卑劣な奴め。
ミホもミホだ。俺という男がいながらあんな奴と付き合うなんて。
この時俺は完全に嫉妬していたと思う。
『次は南千住、南千住。お出口は右側です。The next station is Minamisennzyu. The doors on the right side will open……』
車内アナウンスが俺の降りる駅を告げる。
ミホの顔を伺う。やっぱりさっきのは冷たかったかな、酷い言い方だったかな。急に心配になってきた。
嫌われたくなくて、
「……なんかごめんな」
とりあえず謝る俺。
「え? なにが」
「や……」
なんか気まずい。
駅に到着し電車のドアが開く。
「ヒラク君降りないの? 乗り過ごしちゃうよ」
「あ、ああ……」
曖昧な返事をして俺は立ち上がった。
「またね」
手を振るミホ。
やっぱり俺の思い違いだったか?
なんか安心する俺。
「おぅ、また明日」
言って電車から降りた。