逃亡(4)
ミホの友達と言うからきっと女友達だと思ってた。ミホの友達だと言うからきっといい意味でも悪い意味でも良い子だと思ってた。
渋々といった感じでミホの変身を解いた俺は、待ち合わせ場所のコンビニで二人並んで待っていた。
ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン
どこからかうるさい音が聞こえると思ったらそれはだんだん近づいてきて、やがて3台のバイクが姿を現わす。
ーー暴走族か
そう思っていたらそれはコンビニの駐車場に入ってきて、なんか知らないけど後ずさり。暴走族とかパリピとか嫌いだし苦手だから。それは俺達の前で止まりバイクに乗っていた男の一人が俺達に声をかけた。
「お待たせ!」
ーーお待たせ?!
俺達の側に来て『お待たせ』はどういう意味か、俺はこんなバイクに乗ってぶんぶんやる男達とは面識ないし第一山梨に知り合いなどいない。つまりこれは……
「アクタ、久しぶり」
ミホは嬉しそうに言った。
ーーまじかよ
これがミホの友達……なんかやばくね? 金髪だし女みたいに長い髪してるしピアス開けてるしネックレスジャラジャラしてるしバイクなのにヘルメットしてないし、もうすっかりパリピじゃん。そんな俺の思いをよそに感動の再会を迎えるミホ達。
「で、どぅーしたんだよ。急に会いたいって」
「いや、その……ちょっとしたことで警察に追われててね」
「マジすか?」
「何したんだよ」
「いやその……警察?」
はははと笑うパリピ達。本気にしていないようだった。
「そりゃしべぇな、しべぇわ。で、逃げてきた訳か」
「うん、そゆこと」
「で、このアクタに匿って欲しいと」
そうアクタという男は言った。自分の名前で自分を呼ぶってなんかな……
「ところで……そこにいるソイツ、誰?」
そこにいるソイツとは俺のことだろう。
「彼は霧山ヒラクくん。仲良いんだ」
そうなぜか嬉しそうに言う。
「彼氏?」
「友達」
「彼氏?」
「友達」
「彼氏?」
「友達だってば、ヒラクくんも一緒に逃げてきたの。だから他の人に言っちゃ駄目だよ? 親にも学校にも警察にも」
「分かった分かった……じゃ、とりあえずウチ来る?」
「行く行くー」
乗れよと言わんばかりのポーズを取って席を一人分空けた、そこにミホがヒョイと座る。慣れているようだった。
「ヒラクくんは彼のバイクに乗って」
指差す先には目つきの悪いスカジャン男。髪はやはり金髪。
目が合った。なんか気まずい。適当に軽く「うすっ」と挨拶すると相手も「うすっ」と返してきた。
バイクの裏に回りぎこちなく跨った。
「アクタ、まだ警察がうろついてるかもだから見つからないでよ?」
「え? さっきのマジのすけ? りょーかい
「よし、行くべー」
アクタの言うのを合図に走り出すバイク。緊張する。なんて言ったって俺はバイクに乗ったことはないし二人乗りなんてしたことないから。
ミホを気づかってかブンブンブンと鳴らしたりはしなかった。
しかしバイクはすごいスピードで道路を駆け抜けていく。猪突猛進、ブワッという風の中ただ一つ切って走り抜ける、それは暴れ馬のような存在。
車の横をすり抜ける。車に当たりそうで恐い。
ーーヘルメットしてないし、落ちたら死!
思わず運転手のお腹を抱き抱える。触るなよ! とか言われるかな? と思ったが全然そんなことはなかった。暴走族とは言っても所詮は日本人なんだから、初めての相手には緊張するんだろう。