逃亡(2)
『間も無く2番線に、各駅停車塩尻行きが参ります。危ないですから、黄色い線の内側にーー』
駅構内にアナウンスが鳴り響く。
ーーなぜ? なぜ警官が? とにかく逃げなきゃ……
何も悪いことはしていないと思うのだが、確かにHEKAKINの家に勝手に入るとかそれなりの犯罪は犯したがあれは宅配便のお兄さんの犯行になったはず。なぜ? 俺何かしたっけ?
ーーとにかく逃げなきゃ
「ミホ飛び降りろ! それで右の方のフェンスまで走れ!」
右側のフェンスは低い、飛び越えようと思えば容易に飛びこえられる。俺はミホに線路に降りるよう言った。
だが動きが一瞬止まる。ミホは戸惑いを見せる。当然だ、普通はこんなことしない。線路に飛び込む奴なんて自殺を考えてる人だけだ。それだけに線路に降りるのは躊躇してしまう。
だが時間がない、
その時丁度電車が来た、プァッと鳴るクラクション。俺は意を決して線路に飛び降りる。大丈夫だ、俺がいるということをアピールするため、
既に警官は俺達の数メートル先まで来ていた。
ーー捕まる
「降りろ!」という俺の懇願の叫び、心からのお願い。俺の思いが届いたか、警官が迫る恐怖からか分からないが、やっとのことでミホは飛び降りた。
フェンスまで走る。
警官は追っては来れなかった。その時には電車がゴォーと通っていたから。おかげで俺達が電車に隠され見えない状態になった。今の内に逃げてしまおうとフェンスにしがみつく。
「大丈夫か? ミホ」
「……なんで?」
「分からない、でも考えるのは後だ。今は逃げよう、捕まったら全て終わりだ」
フェンスを越えた先にも待ち構えてる警官とかいたりして、でももう逃げるしかない。
なんで逃げる必要があるのかまだよく分からないけど捕まるよりはマシだ。だって捕まったらCfも当然取られる。やがてヨシオに取られる。それは駄目だ。これは俺のCfだから……
俺達はフェンスを飛び越え逃走した。
なぜ警官は俺達を捕まえようとしたのだろう。仮に俺が何か悪いことをしていたとして、なぜあの場所にいたのだろう。駅の改札に待っていましたとばかりに警官が待ち構えていた。誰かが通報したのか? 分からない。
ネットニュースにも俺達に感するようなことは載っていなかった。
まだ警察やパトカーがそこら辺をウヨウヨしていた。甲府市街を歩く俺とミホ、とはいえ見た目は男性が二人歩いているように見えているはずだ。ミホは俺がCfを使いそこら辺のガタイのいい男性に変身させた。対して俺はドンキで買ったカツラやメガネで簡易的に変装していた。遠くからなら別に怪しいポイントなど何もない。
まだ午後2時だった。朝が早かったから当然だろう。
野太い声が俺を呼ぶ。
「ヒラクくん、大丈夫かな? 私恐いよ」
震えるミホ。
「心配ない、俺はともかくミホは全く別人に見えてるから」
「……うん、それよりこれからどうしよう。友達からも返事来ないし」
「ミホ、友達は諦めろ。今の状況、分かるだろ? 奴らは俺達を捕まえる気だ。こんだけ派手にやったんだ、やがてニュースにもなるだろう。恐らく今夜辺りのニュースに俺達が出る、できれば出たくないけどな」
「私何もしてないよ?」
「……ああ」