逃亡
『甲府、甲府、お出口は左側です』
車内アナウンスが鳴る。電車に揺られて約2時間、ようやく目的の駅が近づいてきた。
ミホはというといつの間にかぐっすりと眠っていた。昨日寝てないから疲れたんだろう、俺に身を任せコテンと頭が俺の肩に寄っかかりクークーと寝ていた。
平然を装っている俺だが実を言うとものすごい小っ恥ずかしかった。乗客の視線。なんだろう、彼女がいるという優越感が俺を支配していた。童貞なら分かるだろう。ちょっとしたことだけでも優越感を感じられる。
そんなミホの体をゆさゆさと揺すって起こした。
「もうすぐ甲府だぞ、目的地だぞ、起きろ〜」
起きるミホは寝ぼけ眼。
「着くよ?」
そう言うと「……あと5分」なんて言ってもう一度寝ようとしたから慌てて起こす。
ーーあと5分……とか
少しはふざける余裕が出来たようだ。昨日から回復したみたいで安堵する。昨日のミホは暗かったし大分精神がやられてたみたいで見てられなかったから、
とにもかくにももう駅に着くんだ。起こさなきゃ。ゆさゆさと肩を揺すって起きるよう促した。
『甲府ー甲府ー……』
電車を降り改札に繋がるエスカレーターに乗る。夏休みともあり少し駅は混雑していた。
「で、その友達とは連絡取れたのか?」
訊くが起きたばかりでまだ少しポケーッとしていた。
「……ううん、まだ返事が来てない」
「そうか」
正直安心する、だってミホは友達だからって言うけど俺にとって初対面の人を信用出来ないじゃないか。
ミホの発案で山梨に避難することになった俺達だが正直心配だ。山梨に行こうと言われた時あまり深くは考えずにいいよと言ったが今になって考えてみると人に会うという行為はかなりのリスクを背負うことになる。人の繋がりというのは恐い。
大袈裟に言えばたとえ一人でも真実を知る者がいればそれは瞬く間に世界に広がる。そうCfの力を知っている者がいればその人は放って置けなくなるのだ。
それにミホは多分捜索願が出されている。そんな中友達の家に泊まるなんて、その友達は匿ってくれたとしてもその子の親はどう思うか、まともな親ならすぐにでも警察に連絡するだろう。当然だ、自分の家に捜索願出されている人が来たらどう思うか。親が心配してるよ? なんてのはお決まりの言葉で呼んでもないのに人が泊まりにくるって結構面倒なことだ、別に自分の子供がその子と友達なだけで愛情も義理もないただの他人が来たって迷惑なことこの上ないという、それが友達の親ってもんだ。だから人に会うの嫌なんだ。
第一都心周辺にいては危険かもしれないが、だからと言って山梨が安全だとも限らない。ヨシオに後をつけられていたらそれでお終い。敵のいどころが分からない、なんという恐怖。
「なあ、ミホ……俺思うんだがやっぱり友達と会うのは……」
その時気がついた。ミホは聞いていないことに。聞いていないでずっと一点を見つめて、どうやらミホは俺の背後を見つめていて……
俺が振り向くと一瞬ビクッとしてしまう人達がいた。そう、警官数名が立っていた。
ーーなぜだろう、分からないけどものすごい嫌な予感がする
動くエスカレーター。改札口を取り囲むように立つ警官、その目はなぜか俺を見ている気がした。
なぜ? なぜ警官? なぜ俺を見る?
ーーなぜこっちに来る?
警官がこっちに来た。それはどう見ても俺達を狙ってる目だった。
「ミホ! 走れ!」
ミホをエスカレーターに逆らうように走れと言う俺。ミホも理解してるらしい、言った時にはもう振り向いていた。エスカレーターを必死に駆け下りる。「待て!」という声が聞こえた。やはり警官達の狙いは俺達らしい、