思い出(5)
「ねぇ、ヒラクくんの方は何があったの? なんかさっき元気なかったけど」
「……ああその、話せば長くなるけどな、あの後ヨシオが……」
言いかけたところで、
「あ、待った。先にお風呂入ってきちゃっていいかな? その……監禁されてからシャワーにも浴びさせてもらえなくて」
ーーそう言われると確かに、いつものいい香りはしない
「ああ行ってきなよ、ミホの家なんだから」
うんと言って、そそくさと部屋を後にした。
ーー……そうだよな、女の子だもんな
早朝、まだ深夜と言ってもいい時間、そんな時刻だが俺達は静かにミホの家を出た。
「いいのか? 親の顔見るだけでも……」
「いいの、今見たら寂しくなっちゃうから」
「そうか」
「それに、今はヒラクくんがいるしね」
そう言ってニコッと笑った。ミホの笑顔を見るのは久しぶりな気がするが、どこか他人行儀な気がする。
念のためミホは麦わら帽子にマスクの格好、俺はそこら辺のおばちゃんに変身した。最も、家から出るところをヨシオに見られていたらアウトなんだが。
「多分大丈夫、誰もいない。まだ朝早いし」
ーーその『多分』は信用していいものか
「しかしさっき家帰ってからシャワー浴びただけで一睡もしてないけど、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。監禁されてる時やることなくて沢山寝たから」
「……そうか」
「それに親に見つかったら色々面倒でしょ? きっと捜索願い出されてるだろうから警察とか学校とかに連絡が行って、その中にヨシオがいるかも分からないし」
ーーまあ確かにそうだな
「しかし本当に変身出来るんだね、それ」
それと言って指差したのは俺のスマホだった。
「Cfのこと? まあ写真を撮ってボタンをタップすればその人に変身するなんて、確かに異常だよな」
「それヨシオくんとの会話で聞いた」
そう、あの時ミホの家でヨシオと対峙した時ミホも現場にいたんだっけ……
「でーーこれからどうするの?」
「ああ、それなんだけど……一先ず身を隠そうと思う。どこか、東京からそんなに遠くもなく近くもなく……」
「遠くもなく近くもなくって、ヒラクくんの基準が分かんないよ」
的確な指摘、
「……まぁまぁ、そこで他の所有者が動くのを待つ、動きがなきゃきっとヨシオが派手に動くだろ」
気づけば空の色はちょっと明るい。
そういえばミホとこんな時間に外を歩くなんて思ってもみなかった。
二人で揃って道の端っこを歩く、こんな些細なことが今となってはすごく嬉しい。このままずっと続けばいいのに……なんて思うが、まあそれは無理だろう。
「ミホ、監禁されてる時ってどんなんだった? さっき明かりがないって言ってたけど」
「うん、暗かった。というより真っ暗。少しでも光が差し込めば周りが見えたんだけど真っ暗で何も見えなかった」
そうか……真っ暗にしたのは意図的なものか? それとも光が一切差し込まない地下にある部屋とか、
「でもヨシオが出してくれた時に何か見たんじゃないか?」
首を振るミホ。
「駄目、目隠しされてたから」
そうか……目隠しされてたってことはやはり真っ暗にしたのも意図的なもの、だとするとそこはヨシオにとって俺達に知られたくない場所?
「ちなみにご飯はちゃんと食べてた? 歯磨きは? トイレは?」
「……それなりには対応してくれたよ」
言って『やべっ、セクハラじゃないよな』とは思いつつ適当に話題を変える。
「そいえばどこ行くか決めてなかったね、どこか行きたいところある?」
「そんな旅行感覚に言われても……」
数秒考えて閃いたようにこちらを向く。
「じゃあ行こうよ、山梨。私引っ越す前そこに住んでたんだ。向こうのことなら大体分かるし力になってくれそうな友達もいる」
ーー山梨、俺的にど田舎って感じだが
「力になってくれそうってCfだぞ? Colorful Faceだぞ? なんか色々ヤバいような……大体その人本当に信用出来るのか? 迷惑もかけられないし」
「なんで? Cfの存在バラさなければいいじゃん。親と喧嘩して二人で逃げてきたって言えば、色々力貸してくれる子だし」
ーーそれならいい……か?
しかし本当にその子信用出来るのか? ミホの親に連絡されたらお終いなんだぞ? そこら辺ミホは分かっているのだろうか。
でも全く知らない土地よりはいくらかいい、何か事件になること起こしたら東京から逃げる意味がないのだから。最悪その子には力を借りずにビジネスホテルでも借りて何泊はすればいいだろう。
俺達は山梨へ行くことにした。