思い出(3)
ーー……超面倒臭い、もういっそのこと自分が犯人だって言ってしまおうか? でも渡す金なんかねぇーし、俺は犯人なんかじゃないから。
ため息、眉間にシワ、引きつった唇。自分の言うことが誰も信じてくれない、こんな虚しいことはない。
「やめなよ」
その時、その場に閃光の如く現れた存在、俺を庇ってくれた一人の存在。そう、それがミホだ。
「え、何アンタ……コイツの味方するの?」
「ヒラクくんが盗ったって確かな証拠がないじゃない」
「うわコイツ彼女に守られてやんの」
「ダッセー」
「みんな知ってるかー? ミホちゃんとヒラク、なんかデキてるって噂だぜー」
「マジかよ」
「ヒューヒュー」
ーー……ミホ
「茶化さないで。ヒラクくんが盗った証拠がないでしょ」
「あれれ〜ミホちゃん馬鹿ですか〜? ヒラクの鞄から財布が出てきた時点で十分な証拠になると思うんですけど?」
「……でも財布を盗んだ奴は別の奴で罪を被せるために財布をヒラクくんの鞄にいれたかもしれないよ? ヒラクくんの鞄から財布が見つかった、それだけじゃ証拠だとは言い切れないよ」
「そんなの分かんないね、そこまで計算してやった犯行だとしたら?」
「なら尚更だよ、証拠をヒラクくんが持ってただけで犯人だと決めつけるのは間違ってるよ。それにーー」
振り返り俺を見るミホ。
「ヒラクくん、4校時はどこにいたのか聞けてないね。教えて、どこにいたの?」
「……保健室だけど」
「出たよ、そんなの本当か分かんないって、だから訊くの無意味だって」
「なんでヒラクくんが犯人って決めつけるの? なんでヒラクを犯人にしたいの?」
「……別に?」
「それに保健室にいたなら確かめようあるじゃない、保健室の先生に聞けば一発だよ?」
「……」
「でも保健室にずっといた訳じゃないでしょ? 財布盗ってから保健室に行った可能性だって十分ありえる」
「それでも私はヒラクくんを信じる」
「信じる……って、どんだけ愛し合ってんですかっ」
「ラブラブカップル気取ってる、まじきも」
「アンタ自分の彼氏だかなんだか知らないけど彼氏だから守るって考え辞めた方がいいよ?」
ミホは攻められた。なんでそんなにソイツを庇うんだ、グルだなんだって……普通の女の子なら泣き出しちゃうくらい、
近くにいたから分かったけど、ミホの体は震えていた。それでも泣いたりせず懸命に戦ってくれた。守ってくれた。ミホは強かった。クラスの奴ら全員を敵にしてまで俺を守ってくれた。
なんでそこまでして俺を守ってくれたのか、それは分からない。本人には聞けていない。でも正直なところすごい嬉しかった。
女の子に助けられ情けないとも思った。同時に俺にある決心をさせる、ミホに何かあったらその時は俺が守ると……そう心に誓った。
それから俺とミホはクラスの奴らから無視され続けた。卒業するまで。
それからだろうか、友達作りが面倒臭くなった。また同じようにちょっとしたことで裏切られるんじゃないかって、そう思うとなんとも面倒で怠い行動だと思うようになった。
その代わりミホを強く愛した。今度は俺が守ると、何があろうと時が来た日には俺が支えとなると、だからミホは俺の側にいてくれ、一緒にいてくれ。
何があろうと俺がミホを守るんだと……