思い出(2)
「……わたし知ってるよ、体育の途中で河村君が授業抜け出してどっか行ってた」
「え?!」
「本当か?!」
「ちょっと河村、どういうこと?」
「いやいやいやボク知らないよ」
「わたし見てたから、授業からこっそり抜け出して校舎に入ってた。何してたの?」
「う……それは」
「ほら、やましいことがあるから答えられないんだ」
「もしかして本当に……」
「ち、違うんだ……その、実はトイレに行ってたんだ。お腹痛かったから」
「休み時間にトイレ行けよ」
「そんなこと言ったって、腹痛は急に来るものだよ?」
「知らねぇし」
「それに腹痛って言ってるのも怪しいぜ? トイレに行くフリして教室へ行ったとか」
「ありえる〜」
「って言うか腹痛とか嘘でしょ」
「そうだそうだ!」
「はい、犯人はタカシで決定!」
「財布返してよ」
「わたしのも」
「ワタシのも」
「オレのも」
「ぼくのもだぞ!」
「え、え、そんなぁ〜……みんな酷いよ、ボクを犯人扱い。そんなに言うなら今ここで持ち物検査すればいいじゃないか」
「……その手があったか」
「名案だタカシ君!」
「そうだ、持ち物検査をすれば犯人が出てくるんじゃないか?」
「そうと決まれば全員持ち物を順番に持ってこい!」
こうして俺達は持ち物検査をすることになった。俺はやましいことなんてないから堂々と鞄を持って行ったんだ、そしたら……
ーー!
「これはどういうことだヒラク」
鞄の中には財布が複数個入っていて、それはなくなった被害者の財布だった。
みんなの目が俺を向く。
でも正直一番驚いてるのは俺だ、だって俺は財布など盗っていない。なぜ俺の鞄の中に財布が入っていたのか、それはいま考えたって分からない。
でもこれで俺が窃盗をした容疑者となってしまった。
矢継ぎ早に攻められる俺、
「なんでオレの財布盗んだ!」「ワタシのも」「ぼくのも」「最悪最低害悪害虫」「ってか財布から既に金だけ抜かれてるし」「うっわぁひでー」「マジないわー」「用はない財布は後で燃えるごみにポイッて魂胆?」「クソだな」「マジ害悪」「財布って燃えるごみで合ってるの?」「知らねぇ〜」「とにかく犯人はヒラクで決定、金返せよ」
みんなに詰め寄られる。
ーー金返せってか? 盗ってないものは盗ってないんだ
目のやりどころに困った俺は下を向く。なぜみんなに攻められなくちゃいけないのか。大体3校時はみんなと一緒に授業受けてたし、4校時は……
「そういえばお前、4校時グラウンドにいなかったな、どこ行ってた」
ーーそう4校時は保険室に行ってたんだ。頭が痛くて……
「まあどうせトイレだとか保険室だとか言うんだろうけど、そんな口で言ってるだけで嘘かもしれない」
「ってか証拠が出てんだから」
「もう認めちゃいなよ、自分がやったって。その方が楽だよ? それとも言い逃れ出来るっていうの?」
「もう犯人分かってんだって、もうバラしちゃえよ。なあーー」
「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」「ヒラク」
まるで呪いの呪文、頭が混乱する。クラスの奴らが悪魔に見えた。