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青春(2)

 誰かの声がする。気のせい? いや確かに聞こえた。


「……くん、起きて、ヒラク君」


 ほら、やっぱり聞こえた。なんだ? 天使か? 本当にいるのか天使って。


「ヒラク君、ヒラク君、ヒラク君!」


 次第にハッキリと聞こえるようになるその声。なんか聞き覚えのある声。


「ヒラク君?!」


 ハッと目が覚める。そこには2年C組の七野ミホがいた。


「ヒラク君、よかった。生きてたんだ」


 冗談ぽくミホは言う。


「びっくりしたよ? プリント忘れてたまたま通りかかったらヒラク君倒れてるんだもん」


「ごめんごめん。そっか、俺あの後気失って……って俺の財布!!」


 辺りをバッと見たがそれらしき物はない。


「え? 財布? 財布は……ないけど」


「……そうだよね。ないよね。やっぱり盗られたか」


 苦笑い、軽くため息を吐く俺。


「どうしたの? こんなところで」


「いや、色々と訳あってね……そういや今何時だ?」


 言いつつ教室の時計を見る。


「もう5時半だよ。何か用事でもあった?」


「ああ……用事ありありだよ」


 バイト遅刻だ。

 急いでポケットからスマホを出す。着信が何件か来ていた。


「ヤベー……」


 すぐに連絡を返した。






「理由聞かれて咄嗟に『え? 今日バイト入れてました? 実はバイトがあることすっかり忘れててー』とか言ったけど絶対怪しまれたよな」


 校門を出て駅へ向かい歩く。


「まあまあ、人生楽ありゃ苦もあるさだよ。元気出せ〜」


 そう言い笑うミホ。

 そんな様子をチラッと横目で見る。 今日はツインテールなんかくるくる巻いちゃって、可愛いかも……なんて、ちょっとドキッとしている高校2年生。


「店長がもうバイト来なくていいって、なんか罪悪感半端ないわ。これって謝りに行かなきゃ駄目かな?」


 大通りへ出る。東京の夕焼けが眩しい。


「別にいいんじゃない? もうクビって言われたんならわざわざ『私めが悪かったんでスゥ〜どうもすいませんすいません』なんて逆にカッコ悪いよ」


 悪戯っぽく言うミホ。


「なんか俺のこと馬鹿にしてね?」


「まあまあ、それより久しぶりじゃない? こうして2人で一緒に帰るの」


「ああ俺も思ってた。何年ぶりだ? 1年ぶりとかじゃない?!」


「半年ぶりだよ」


「あ、わり」


 そう言い軽くはははと笑う。






 七野ミホとは中学生の頃からの仲だ。出会いは部活がきっかけ。


 中学生になって初めて部活に入ることになった訳だが文化部は性に合わないから論外として、野球部みたいに堅苦しくなくて卓球部みたいにオタクがやってるイメージがなくて爽やかで女子ウケが良さそうな運動部といったらという理由でテニス部に入った。


 しかし俺は運動が苦手だった。それは普段の練習を見ればすぐに分かる。弱々しいサーブ、ボールを返すことが出来ず返したと思えば場外ホームラン。部員の白い目。練習しても全然上達しなくていつしか俺は一人で壁当てをする運命に。


 そんなある日男女混合ダブルスをすることになった。


 普段は男女別々に練習をしているが、たまに男女ペアを作ってダブルスをする時がある。こういう時ついつい女子に格好つけたがるのが男子なのだ。


 今回も異性と一緒にやれることに興奮して盛り上がっていた男子。「えーやだー」と言いながらも意外と乗り気な女子。もちろん俺もやる気満々でいた。


 だがその時俺は省かれた。理由は簡単、弱いから。「ペア組んだ女子が可哀想だ。一人で壁当てでもしてろ」と言われ渋々テニスコートの端で壁当てをする俺。


「どの世界でも、優れた者だけが業界を支配する。そんな世の中なのか……」


 当時厨二っぽい要素も持っていた俺はそんな言葉を漏らす。


「何をやってるの?」


 突然背後から声がしてドキッとする。振り向くと、髪の毛をポニーテールに結んだ一人の女子がラケットを抱いて立っていた。


 まさか今の台詞聞かれた? 


 聞かれたか聞かれてないかよく分からないけど恥ずかしくなる。


ーーあ……やべ。変な人って思われたかな? ってかなんで俺の所に? ダブルスやってるんじゃないの?


 そう思いながら戸惑う俺。その子は唐突に言ってきた。


「アナタのこと知ってるよ? 男子テニス部で一番の運動音痴、霧山ヒラク君でしょ?」


「え……」


 戸惑う俺。


「あ、これは別に馬鹿にしてるんじゃなくて実は私もテニス苦手なんだ。いつまで経っても上達しなくて」


「あ……へ、へぇ。そうなんだ」


「だから、一緒に練習……しませんか? 私とアナタと」


「え? 練習? 俺と?」


「そうアナタと。いいかな?」


「別にいいけど……なんで」


「同じくらいのレベルの人だったら安心して練習出来るかなって思って」


「……なるほど、そうだね。いいよやろう」


「じゃあ、あっちのコートでやろう。他の人達の邪魔にならないようにあっちで……」


 これがミホとの初めての出会いだった。この時のミホは、どこかあどけなくて正直そうでいい子そうで、好印象を持ったことを覚えている。


 それから一緒に練習をするようになり人見知りな俺だが会話も出来るようになった。

 ミホとは学年が同じらしくて気兼ねなく話すことが出来た。話す度に打ち解けていく2人の仲。やがては一緒に帰るまでの仲になった。


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