監視(6)
「してやられたな、そのヨシオって奴に」
ーーどういうことだ?
その時、突然ヨシオはグニャッと曲がり体が変化した。
ーーこれはCfの反応……まさか!
ヨシオだと思っていたその人が座っていたその場所には、代わりにマリナちゃんがいた。
「ふふふ、哀れだね。ヨシオ君なら今頃電車に乗って遠くへ行っちゃったんじゃないかな〜?」
ふふふとマリナちゃんの新たな人格が俺達を嘲笑う。
なるほど、何をしたのかなんとなく分かってきた気がする。あの時、あらかじめヨシオとマリナちゃんは互いに変身し体を入れ替えた状態にしておいたんだ。
なぜか、俺達の目をヨシオに集中させるため。ヨシオに変身したマリナちゃんにカッターナイフで暴れさせ、より注意を引かせたんだ。
そうすることで全員ヨシオから目を離せなくなり、逆にマリナちゃんには手薄になる。ヨシオはその状況を狙ったんだ。
男達がヨシオに気を取られてる中、本物のヨシオは俺に一度渡したスマホを奪い逃走した。つまり俺のことをグーで殴ってきたのはマリナちゃんに変身したヨシオだった訳だ。
最も、あの時スマホは二つともマリナちゃんに変身したヨシオが持っていた。つまり、最初からマリナちゃんを犠牲にする気でいた訳だ。
結果、スマホは一つも奪えなかった。代わりに残ったのはマリナちゃん……
「マリナちゃん、なぜヨシオの言いなりになるんだ。なぜそこまでしてヨシオが好きなんだ」
マリナちゃんは目線を変え自分に言い聞かせるように言う。
「……ヨシオ君はわたしの人生の中で初めて好きだと言ってくれた、抱きしめてキスまでしてくれて、わたしを信用してくれた。人生の中で優しくしてくれたのはあの人だけ、だからその分わたしは尽くした」
分からない、それが女の性というものなのだろうか。その様子をつまらなそうに見ていたユウタ。
「どうでもいいけど、マリナちゃんとやらはこちらで預からせてもらうよ。万が一、人質としてね」
別に俺は構わない、元々赤の他人なのだから。
「で、君はどうするんだい? ヒラクちゃん、選ばれたもの同士これからもーー」
「それは辞めておく」
もう面倒なのに関わるのはごめんだから。それに、今は1人になりたい……
「……分かった。困ったことがあったら言ってね? 力になるから」
ユウタはスッとスマホを差し出す。
「中はイジってないよ。パスワードロックがかかってたから」
ーーロックがかかってなかったらイジるつもりだったのかよ
「それじゃ、バイバイ」
手を振って去っていくユウタ、それに続き5人の男達はマリナちゃんを連れてその場を後にした。