監視(4)
「監視カメラを仕掛けるってことは俺のこと信用してなかった訳か」
「念のためさ、ヒラクくんにコソコソ動かれても困るから。ねぇ、君は何をするつもりだったんだい?」
ーーそんなこと言える訳がない
「僕達を裏切る気かい? 分かってるよね、下手なことしたり裏切ったりしたらミホちゃんを殺す。簡単さ、1分もかからない」
ヨシオはスマホサイズの四角い箱を取り出す。
「分かる? このボタンを押したら今ミホちゃんのいるところに設置してある爆弾が爆破する、下手な真似しない方がいい」
ーー本物か? どちらにせよヨシオはいつでもミホを殺せるんだと思った方がいい
「ヒラクくん、スマホを見せるんだ」
だが、ここで全て台無しにする訳にはいかない。
俺は用意しておいたカッターナイフを取り出しマリナちゃんに突きつけた。
「……どういうつもりだ」
「悪いな、俺はヨシオとは行動出来ない」
「なぜ?」
「ミホを理由に動かされるのが嫌だからだ」
「……その手を離せ、さもないとスイッチを押すよ?」
大丈夫、ハッタリだ。この場でヨシオはスイッチを押さない、押せないんだ。もしスイッチを押すとしたら自分が死ぬ時だろう、俺がヨシオの言うことを聞いているのはミホを人質に捕られてるから、そのミホがいなくなれば何をするか分からない。だからヨシオはスイッチを押さない、俺が暴走するのを恐れてスイッチは押せないはずだから……と思っていたのは俺の間違いだったらしい。
俺がマリナちゃんをつかむその手を離さないと思ったのか、一呼吸置き仕方なしといった感じで、そのボタンをポチッと押した。
ーーえ?
一瞬見間違いかなんかだと思った。だがヨシオはしっかりとスイッチを押し、バッと俺に見せてきた。
ーー……現実
今、スイッチが押されたことでミホの小ちゃっくて可愛い体が、閃光と共に弾け飛んで、全て無惨に弾け飛んで、全てが燃えて灰になって、七野ミホという人間が全て崩れて台無しになって終わる……そんな光景を想像したら……
何者にも代えがたい怒りが俺を動かす原動力となる。
つかんでいたその手を振りほどき、ヨシオの胸ぐらをつかむ。
頭に血がのぼるというのはこんな感情なんだろう。憎しみとは違う、もっと単純に『殺したい』と言う実に動物らしい強欲。
黒目が見えなくなるくらいすごい勢いで睨みつける。
ーーなぜミホを殺した
俺はカッターナイフを握った手を顔面に叩き込む。その手を間一髪といった感じでヨシオがつかむ。結局暴力で全てを終わらすのはこの世の定めなのだろうか。
すると、ドグッと俺のお腹を蹴り飛ばすヨシオ。
「ーー……ッッッ!!」
はずみでカッターナイフを落としてしまった。だがヨシオの胸ぐらをつかむその手は離さない。
ーーせめて一発拳を入れてやらないと気が済まない
俺が振りかぶった時、ヨシオが叫ぶ
「マリナちゃん、落ちてるカッターでヒラクを刺すんだっ!」
突然言われて戸惑う彼女。だがヨシオの「早くっ!」の懇願に素早くカッターナイフを取り刃先をこっちに向けた。
ーークソが
このままじゃ刺されると、そう思った俺はヨシオを突き飛ばし走って部屋から出た。気づけばハアハアと息が切れていた。
ーー大丈夫、ユウタ達が来るまで部屋から出さなければいいんだ
俺は全体重をかけてドアを抑えた。
ーーミホ……
でも冷静になって考えてみればあのスイッチが偽物だって可能性もある訳か、あらかじめフェイクを用意しておいて、でもなんのために?……となるとやはりミホは、
ブーブーブーブー……
その時、スマホのバイブが鳴った。