監視(3)
「やあヒラクくん、うんちは沢山出たかい?」
ーーよく女子がいる前でそういうデリカシーのないこと言えるよな
そういうヨシオ達は一つのスマホをジッと仲良く見ていた。
ーー何やってんだ?
そっとヨシオ達の裏側に回る。
「動画を見てたんだ。ヒラクくんも見るかい?」
ーー動画?
そう言いヨシオは俺の見えるところまでスマホを持ってきて、再生ボタンを押すーー
真っ暗な画面がパッと明るくなり、そこがトイレだということが分かった。そしてガチャッとドアが開いて一人の男性が画面に入ってきた。
ーーどこかの監視カメラかなんかの動画か?
一瞬そう思った。しかし、そんなことはどうでもいいことだって、すぐに気がついてしまった。
その男はゴソゴソと何を取り出すかと思えばスマホを取り出した。それから数分、メールのやり取り。天井から撮ってる動画だから、誰とやり取りしてるかは分からなかった。しばらくして、その男はトイレットペーパーをカラカラとちぎって捨てて流して、結局用はたさずにトイレを出ていってしまった。
7分12秒の動画、それだけの動画、つまらない動画、だがその動画は俺の全身を凍らせた。心臓だけがやけに激しく鼓動して、自然と鼻息が荒くなる。
ーー俺
俺のさっきとった行動だった。つい1〜2分前まで俺がとってた行動だった。だって、その動画に映っている男は俺なんだから、動画に映っているその男は紛れもなく俺なんだから。
ーーバレた
冷や汗をかく。
「ヒラクくん、彼女でもいるのかな? ミホちゃんという彼女がいながら……二股かな?」
ーー……コイツ
「何してたんだか分かんないけど、多分メールだよね? 頻りにスマホ確認して、多分そうだよね?」
そのニヤニヤしながら人を問い詰めるの、やめてくれうざいから。
顔を背ける。
「あれ? どうしたの、僕達の間で隠しごとはナシのはずでしょ?」
ーーそんな約束してねーし
「ねぇヒラクくん、よかったらスマホを見せてくれないかな?」
ーー……マズイ、ここで渡したらアウトだ。メール削除しておくべきだった
気持ち悪い、胃がひっくり返るくらい気持ち悪い。
「どうしたのかな、どんなことがあっても僕は怒ったりはしないよ?」
ーー怒ったりはしない、じゃあなんだ今度こそ俺を殺す気か……
「……ヒラクくん、何か隠してるでしょ? メールの相手は誰だい?」
「ヒラク様、仲間の中で隠しごとはいけません。全て吐いちゃいましょう」
ーーマリナちゃんはいつ人格が戻ったんだし
だがスマホを見せる訳にはいかない、この部屋で最低でも30分は場を持たせなければ。
「ヨシオ、どういうことだ? 監視カメラを仕掛けたのか、なぜわざわざトイレに監視カメラを仕掛けた」
「別にトイレだけに仕掛けた訳じゃない。この部屋全体に仕掛けてある」
「……でもトイレに仕掛けるとか、犯罪級だぞ? マリナちゃんだってトイレ使えないだろう」
「わたしは全然平気です」
ーーマジか……
さらっと言うマリナちゃん。『だってさ』みたいな顔で俺を見るヨシオ。ちょっとドヤ顔なところがまたムカつく。
「最近の監視カメラは凄いよね、スマホで簡単に確認出来るんだもん。ちなみにドンキで一万円の防犯カメラ、安くね?」
「……ああ、安いんじゃねーの?」
ーー知らないけど
多分俺が来る前に監視カメラを仕掛けたんだろう、となると俺は最初から見られていた訳だ。