監視(2)
所有者は皆変人だってことが分かった。人をゴミとしか思わないサイコパス、すぐ人の言いなりになる多重人格者、ウソツキを自称するイタい奴。
そして俺はーー
「ボーッとして、何考えてますか?」
「え、マリナちゃん……いや、なんでもないよ」
マリナちゃん……パッと見は今時の女子高生なのに多重人格とか、彼女の過去に何があったのかは俺には分からないが酷く悲しいことがあったに違いない。
「ーーで、ヒラクくん。4人目の所有者はどうなったの? 見つけられなかったとかないよね?」
コップに入った飲み物を飲みながらヨシオが訊く。中身はコーラ、
「……実はそうなんだ、テレビ局ってデカイだろ? 4人目の所有者は見つからなかったんだ」
ーー半分本当のことだし
「……ふぅーん、とか言って面倒臭くて行かなかったんじゃないの」
「ちゃんと行ったし」
ーー大丈夫だ、ユウタと契約したことバレてない
まあここでバレる心配なんて最初からないのだが。あの時ヨシオは中央線の電車の中のはずだったから。
「まあ仮に行っていたとして、4人目の所有者には姿を見られてないだろうね?」
「ああ平気だ。あの時俺は他の人に変身してたから」
「ふぅーん」と、いかにも興味なさそうな返事、多分最初からヨシオは俺をアテにしてなかったんだろう。
「またまた、そないなこと言って本当はキャバクラでも行って可愛子とイチャイチャしてたんとちゃいますか? ちゃいますか? 何を言っても無駄や、ウチは知ってんやから……」
ーーは?
「え、ヒラクくん?! そうなの」
「いやいや行ってないから。ってかマリナちゃん? 何その関西弁みたいなの」
「多重人格って言ってたでしょ?」
ーーこれも人格の一つ?
なんか多重人格って色々大変そうだけど、さっきは女の子だったのに今は大阪のおばちゃんで……感慨深い物がある。
「マリナちゃん……は幾つの人格があるの?」
「そないなことウチに訊かれてもウチは分からん、ウチは星の数ほどいるやんね?」
?
よく分からない。何だよそれ……
「なんかマリナちゃんは特別でね、ざっと1億人以上の人格がマリナちゃんを支配してるらしいよ。だから一度出た人格はしばらく出てこないんだって」
ーー何その現実味のない数字、冗談言ってる?
「ーーで、ヒラクくん、マリナちゃん。これからのことだけど」
ブーブーブーブー……
ポケットの中でスマホのバイブが鳴ってるのが分かった。俺は座っていた椅子から立ち上がり数歩歩いたところにあるドアノブに手をかけた。
「どこ行くんだい?」
「……トイレだよ」
バタンと音を立ててドアを閉めた。
相手はやはりユウタだった。最もこのスマホは俺のスマホじゃない、昨日ユウタから借りたものでユウタ以外誰ともメアド交換していない。
『今どこにいる? こっちはいつでも動ける』
すぐにメールを返す。
『東京ザ・セントラルホテル2504号室だ。作戦通り頼むぜ?』
『分かった。こっちは金で買収した男5000人を連れてそっちへ行く、呉々もターゲットを部屋から出すなよ?』
『分かった……ってか5000人?! 多すぎね』
『ごめんごめん5人の間違いだった。あと30分でホテルに着く。着いたら一度メール入れるから』
『了解』
カラカラカラッとトイレットペーパーを引っ張りちぎり、便器にポイッと捨てる。今用を足し終えたフリ、こうでもしないと怪しまれるだろうから。
あと30分か……
ヨシオは持論を立てて独裁者になるとまで言った、だがヨシオには悪いが今日ここで終わらせてやる。そしてミホの監禁場所を聞き出す、それで終わりだ。
レバーハンドルを捻るとジャーッと流水音が鳴り水が便器の中で流れた。