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青春

 一週間の内の大半を学校のために使う。朝早くに起きて午前中はずっと勉強、短い昼休みを挟んでまた午後も勉強。一年を通して延々とこれが続く。


現代学生の日常、よくやっているなと我ながら思う。


 義務教育だけで9年、それだけで辛いのに「このご時世高校くらいは卒業しておかないと将来無職になるよ」と周りから脅され渋々高校へ入りまた勉強。


 今後の進路なんて考えたくもないがやがて時は来るだろう。面倒臭い、大学とか専門学校とか入ったらまた勉強することになる。

 就職にしたらもしかしたら勉強は必要ないかもしれない。でも責任感とかコミュニケーションとか、上下関係とか社内恋愛とか影で悪口言うアイツとか。


 嗚呼日本はなんて面倒臭いんだ。あの空を優雅に飛ぶ鳥にでも生まれたかった。

 窓の外を眺め黄昏る俺。


「では先生の話はお終いです。皆さん気を付けて帰って下さい。それでは日直」


「起立気をつけ礼」


 さよーならー。

 みんな呪いから解放されたように動き出す。


 今日も学校が終わった。


 椅子から立ち上がりリュックを背負う。

 疲れた、今日はこの後家でゆっくり休みたいが5時からのバイトがある。


 シフト今日にするんじゃなかったなと後悔してみるが、時すでに遅し。急病だとか事故にあった訳でもないのに直前になってバイト休みます〜なんて言ったら、まあいい結果にはならないだろう。それに一昨日バイト遅刻して怒られたばっかりだし、さすがにマズイと思う。


ーー行くしかないか


 そう思い教室から出ようとした時、


「ヒラク君‼︎ ヒラク君⁈ ちょっと来て」


 唐突に呼ばれ先生の下へ向かう。


「なんですか?」


 先生は、教卓の上にある紙を一枚差し出した。


「このプリント、名前が抜けてるわよ。今書いちゃって」


 見ると漢字の小テストの名前の欄が抜けていた。わざわざ呼ばないでも先生が書いてくれればよかったのに、なんてことは言わない。


 俺はボールペンを取り出し、プリントに「霧山 扉」と書いた。扉と書いてヒラクと読ます、それが俺の名前だ。


 プリントを返す。名前があることを確認した先生は、はい大丈夫ですと言い「それではヒラク君気をつけて帰るのよ」と生徒の身を案ずるような言葉を残し足早に教室から去っていった。


 さて、バイト行くか。

 いよいよ教室を出ようとする。すると人相の悪そうな男が一人。


 ああ、またコイツか。


 男は俺の歩く道を塞ぐように待ち構えていた。

 男は親指と人差し指で丸を作る。


「おいヒラク、分かるだろ? 金欠なんだよ」


 ニヤニヤニヤニヤ気持ち悪い。金の亡者め。

 コイツの名前はアキラ。何かと文句を付けて俺に金を要求してくる人間のクズだ。


 だが無視は出来ない。何かとコイツしつこいし、力も向こうの方がある。俺は逃げられる程足は速くないし、言うことを聞くしかない。


 財布を取り出す。中から1000円札を抜いてアキラに差し出す。


「ほら、これでいいか? これからバイトなんだよ。行かせてくれ」


 アキラは受け取ろうとしなかった。


「お前ふざけてる? オレは金が欲しい、でもこんな端金はいらねーよ。俺が欲しいのはーー」


 アキラの手がスーッと伸びてくる。


「こっち」


 その手はガッと財布をつかんだ。


ーー!!


「お前万札持ってんだろ? よこせよ」


 突然のことに咄嗟になって抵抗する俺。財布を胸に押し当てるようにして守る。


「ふざけんな! 俺が働いて稼いだ金だぞっ! 渡すかよっ」


 グッと力を込める。

 だがやはりアキラの方が力は強い。アキラの腕力に捻じ伏せられそうになる。


「友達が困ってたら助けるのが筋ってもんだろっ?! いいからさっさとよこせよ」


 ググッと引っ張るアキラ。


「ーーんだよ、カツアゲだぞ?! コレ。知ってるか? カツアゲって犯罪なんだぞ犯罪」


 ギューッと堪える僕。


「はぁ?! どこが犯罪なんだし。友達が困ってるから貸してくれない? これのどこが犯罪なんですかっ?!」


 更に力を入れて引っ張ってくるアキラ。


「無理矢理取ろうとしてんだろ? 歴とした犯罪だよっ!! 刑法第249条で10年以下の懲役に処されるぞお前っ!!」


 バッと振り切るようにしてアキラの手から逃れた。


 今しかない。

 本能的にそう思い、よろけながらもこの場から全力で逃げる俺。


「カツアゲじゃねぇーって言ってんだろ」


 しかしやはりアキラの方が速かった。3秒後には追いつかれ、恐怖で思わず振り向いたその先には拳があった。


 全てがスローモーションになった。窓から外の景色が見えて、天井が見えてやがて頭が床に激突して意識が遠のいていくのを感じる。


 ああ、盗られたな。そう思った。


 アキラの気配は俺の頭上に。


「いいか? どれだけ頭がいい奴もな、所詮力には敵わないんだよ」


 この言葉を聞いたのを最後に、俺の意識は途絶える。

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