天然(6)
「何考えてんだよ、今そんなこと考えてる場合じゃねーだろ? スマホ奪うならさっさと奪うでそれでいいじゃないか」
「それじゃいいの? ミホちゃん殺すけど」
ーーコイツ
ミホを理由に俺にヤらせる気か、どんだけ変態なんだよ。
恐らくヨシオは独裁者になりたいだけじゃなくて、この状況を楽しんでいる。
そしてヨシオなら本当にミホを殺すかもしれない。
「ヤればいいんだろ、ヤれば」
彼女の前に立つ俺は緊張していた。ついさっき会ったばかりの女とヤるんだ当然だろ? 彼女の肩に触れる。
ーーどうしよう急にドキドキしてきた……いやいやいや! 何考えてんだ。これはミホを守るため、いやらしい気持ちなんてこれっぽっちも
うつむいている西条マリナ、少しの罪悪感を感じながらスカートに手をかける。スカートがめくられて長い足がスーッと伸びて、パンツがもう少しで見えそう……なところでハッとなにかを察する。
ピクッと足が動いたかと思うとバッといきなり立ち上がる西条マリナ。
ーーうぉ?!
思わず声を挙げてしまった。突然の出来事に驚きを隠せない。
「どうしたんだい? マリナちゃん、悪い夢でも見たかい?」
「……あひゃ」
瞬間悟った。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
彼女の頭がおかしくなったということに。頭を抱えてキチガイみたいな声出して狂ったように踊リ始めた。
ーーなんだなんだなんだどうした?!
出会った時は人見知りが激しい天然女子って感じだったのに、今はまるで酒を飲んでベロンベロンに酔った人みたいに、ギャハハ笑っていかれてる人みたいに態度が激変している。
「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……ふひ、ふひふひえひえひえひえひ」
ゆらゆらと危なっかしい歩き方。これがさっきまでの彼女なのか?
「どうしたのかな? 恐くなっちゃって発狂しちゃった?」
ヨシオの言葉に変化を見せる。ピタッと止まって片足立ちのまま首だけ動かしてニタァと笑って、その行為はまさに異常なこと極まりない。
「恐いって、なんでぇ?」
そしてまた「えひえひえひ」と笑う。
「態度がさっきと大分違うけどそれが君の本性かい? それとも演技かい?」
ーー!
本性? 演技? どちらにせよそれが本当なら故意にやったことになる。ならそれ相応の理由があるはず、俺達を罠にハメルためだとしたら……
「あひゃあひゃあひゃ残念三年また来年、あたしは演技はしてません。あたしは本性なんてありません。あたしは解離性同一性障害でしタ」
ーー?! カイリセイドウイツセイショウガイ、それはつまり……
「多重人格」
「ヨシオさーん正解。あたしの体にはいろんな人が住んでるの」
ケタケタケタケタと声に出して笑う。笑ったーーと思ったらまたガクンとその場に崩れ、眠ったのか気絶したのか分からない状態になる。
ーー多重人格、聞いたことある。過去の辛いことが原因で生まれた本当の人格とは別の人格が複数いる状態のこと
彼女と最初話した時から違和感のようなものを感じていたが、恐らく原因は多重人格という名の精神疾患。
すぐに彼女は目を覚ます。ハッと目を覚ました彼女はまるでまずいところでも見られたような、そんな顔で俺達を見た。