天然(5)
ヨシオは言葉を続ける。
「僕はね、世界平和のためにマリナちゃんみたいなCfを持つ人を殺すんだ。分かるかい? 世界にごまんとあるお肉と世界に一つしかないお肉だったら特別感を感じるのはどちらか、そういうことだよ」
ーー何だよその表現、分かるような分からないような
「ところで質問していいかな? マリナちゃんはColorful Faceを使って何をするつもりだい?」
彼女は黙っている。当然だ、そんなこといきなり訊かれても困るのは彼女だろう。恐らく彼女もまだCfを手に入れたばっかりで何をするかとかそこまで考えてないはずだ。俺だってそうだし……
それでもヨシオは呆れたようにため息を吐く。
「……そう、それが答え? まあいいや、今度はヒラク君に質問がある。ヒラク君、君は はマリナちゃんのスマホを見せてもらったよね、その時に何を見たの?」
ーーえ、何を見た? どういう質問
「俺が見たのはCfのカメラ撮影画面だけど」
「それを見て何が分かった?」
ーー何言ってんだコイツ
「……彼女がCfの所有者だってこと、それと彼女が正真正銘のマリナさん、つまり変身じゃないってこと、当然だろ?」
ーー大体彼女が西条マリナだと分かったからここに連れてきたんだし
「ちなみにそれは実際にマリナちゃんがスマホを動かすところを見て判断した答えかい? まさかCfのカメラ画面を見ただけで判断した答えじゃないだろうね?」
ーー!
そこまで深く詮索はしなかった。確かにしっかりとは見ていない。
「マリナちゃん、君がヒラク君に見せたのはCfのカメラ画面じゃなくてその画面をスクショしたものじゃないのかい?」
スクショしていた?! でも確かに予め準備しておけば可能だ。まさか……
「もし僕の考えがあっていたら君はマリナちゃんじゃない、他の誰かなんだ」
彼女は必死になって抵抗する。
「それは違います。わたしは本物のマリナです。スクショなんてしてないです。そんなに疑うんならわたしのスマホを見ればすぐに分かる話ですよね?」
彼女はスマホをヨシオに向かって差し出す。
まあ確かにスマホでCfを確認すればいい話だろう、でもヨシオは違った。
「ここでサッとスマホを出すなんて、やっぱり怪しい。もしかしたらこれはニセのスマホかもしれないだろう?」
ーー?!
なんか随分と強引な気がする。
「ヨシオ、ニセのスマホかどうかなんてCfがあるかどうかで分かるじゃないか。彼女がCfを2個持ってるとでも言いたいのか?」
「そうだ」
『そうだ』その三文字で西条マリナは悪者扱いになった。
「恐らくマリナちゃんはこうなることを予測してスマホを2台用意していたんだ。いや、もしかしたら3台、4台、10台くらい用意してたかもしれない。なにしろ会ったこともない人達と会うんだもんね、用意周到だよ」
「違います。私はそんなの知らないです!」
はははと笑うヨシオ
「しかしようやく口を開くようになったねマリナちゃん。ここに来てから何も喋んないんだもん、嫌われたかと思っちゃった」
ヨシオはテーブルの上の果物ナイフを手に取りブスッと果物に突き刺した。果汁が飛び散る。
「それと、マリナちゃんが殺されるのは決定事項なんだ。何を言おうがマリナちゃんは殺されるんだ」
ヨシオが合図すると俺は西条マリナの背後から両腕をつかんで動けないよう抑えた。
「いや! 死にたくないです。私は何も知らないです。知らないです知らないです知らないです知らないです知らないです知らないです知らないです知らないです知らないです知らないです知らないです」
「ところでヒラク君、死体はどこに捨てようか?」
彼女のことはお構いなしに話を続ける。
私は、なにも知らないです。
瞬間ーーその言葉を最後にガクンと下を向きうつむいてしまった彼女。
「!」
気絶したのか? そっと揺すってみるが彼女は動かない。
「どうするんだ? 本当に殺すのか? 俺は血は見たくない、彼女のスマホを奪えばそれでいいじゃないか」
そう声をかけるが馬の耳に念仏、ヨシオは聞いてないようで、
「ねえヒラク君、女の子が無防備で君の側で眠っている。襲わないの?」
そう茶化して見せた。