天然(4)
俺が場所を移動しようと言うと彼女は素直に着いてきた。タクシーに乗ってヨシオの言う通りホテルへ向かう。
「……君が西条マリナでいいのかな」
「はい」
「……そうか」
まあ彼女が西条マリナだというのは間違いないだろう。証拠として出会った時にスマホを確認したが確かにアプリ『Colorful Face』はあったが変身はしてなかった。
車内は静かだった。タクシーの走行音だけが鳴り響く。
多分この子と話そうとしても会話は長く続かないと、そう悟ったから。色々訊くのは後ででいい。
ーーそれにしても……
俺はふと彼女の発した言葉を思い出す。
HEKAKINのマネージャーですか?
この言葉にはどういう意味があるのだろう。そんなに深い意味はないのかもしれないけど、それにしたってもっと別の言葉があるはずだ……まあ人のこと言えないけど。
でもHEKAKINのマネージャーですかなんて、例のあの動画を見た人にバレたらどうすんだ。
いや、彼女は自分の個人情報を教える程の馬鹿正直者。何か俺達を陥れる罠でもあるんじゃないかと思ったがどうやらそれもなさそうだし……
ーーもしかして、単に天然なだけなのかもしれない
いかにもという感じの豪華なホテル。ゴージャスな内装、天井からはシャンデリアが下りていて、絶対このホテル高いと思ったのは言うまでもない。ロビーにあるエレベーターに乗り込み32階へ上がる。
……大人しいな。緊張してるのか?
彼女は大人しく付いてくる。
「こんにちはマリナちゃん」
部屋に入るとヨシオが迎えた。落ち着いた雰囲気の部屋、正面の窓から東京の夜景を一望出来た。雰囲気だけは様になっている。
俺達を椅子に座るよう促す。テーブルの上には卓上ランプと果物の入ったバスケット。
一方で彼女はキョロキョロと何かを探しているようだった。
「ごめんね目的の人はいないんだ」
『え?』というように一瞬固まってからようやく自分のいる状況に気付いたらしい。『わたしをどうする気?』そんな目で俺達をみつめる。
どこまで天然なんだか。
上目遣いに微笑するヨシオ。その表情からは何を考えてるのか分からない。
「こんばんは初めまして西条マリナちゃん、僕はヨシオと言います。よろしく」
会釈して口角をクイっと上げる。何とも言えない表情。
ヨシオがチラッと俺の方を見て何かの合図する。恐らく俺に自己紹介しろということだろう。
「……ヒラクです。よろしく」
「って、変身したままじゃ誰だか分かんないよ?」
ーーいちいちうるさいな、大体こんな簡単に変身解くなんて何のために変身したんだか
Cfの画面をタップして変身を解く。
グニャグニャと俺は俺の元の姿に戻る。
「はい改めて、彼は霧山ヒラク君。学校でロクな友達が出来なくて最近友達募集中なんだって」
ーーふざけてんだろ
だがそんなことは口に出さない。今は彼女をどうするかだ。
「さて単刀直入に言うよ。僕は君を殺したいんだ」
『?!』
彼女は驚いた様子を見せる。当然だ、君を殺したいんだなんて普通の人は言わない。しかしヨシオは本気で殺す気なのか?