天然(3)
プープープープー……
電話が切れた。5分くらいの会話だったと思う。
どうやら彼女は西條マリナと言うらしい。八王子の学校に通っている高校生。そして俺達と同じ所有者のようだ。
電話はスマホからのようだったから当然着信履歴に連絡先は残っている。でもこれももしかしたら他人のスマホかもしれない。
「今日夜10時に新宿駅南口改札で待ち合わせ」
「今日って急だな」
「善は急げだ。支度しようか」
ーー善か?
「しかし向こうの方から連絡が来るとはラッキーだね。どうせ面白がった学生小僧がわいわい馬鹿にしてくるだけと思ったから」
「その学生小僧に相手したのは俺なんだけど……ってかさっきのマリナって人やけに素直じゃなかった? 個人情報まで他人にばらしちゃうとか」
「恐らく教えられた情報は嘘だと思う。相手は所有者、何を考えて何をしてくるかそんなの分かるはずがない。だから考えるだけ無駄なこと、今は僕達のことを優先に考えようか。僕達の目的は分かってるね?」
「……知ってる」
所有者からCfの押収、殺害だろ? 分かってる。なにも殺すまでしなくていいじゃないかと思うかもしれないがCfの存在を知っている者がいるだけで迷惑なのだろう。
しかし奴は本当に独裁者なんかになるつもりか?
新宿はいつだって賑わっている。建物から音、店から音、ガタンゴトンと電車が通りプップーパッパーと車が通る。人がガヤガヤ飲んだくれがゲロを吐きホームレスがそこらに寝そべる。
そんな新宿の夜、俺は名も知らない男に変身して西條マリナを待っていた。
『ヒラク君、分かってるね? 学生服を着ている茶髪の女の子だよ』
イヤホンからヨシオの声。ヨシオからは無料電話アプリを使ってこちらに指令を出すことになっている。
ああ、分かってるーーとは言ったものの学生服の茶髪なんてそんなに珍しくもないのだが。まあ時間も時間だし、すぐに分かるだろう。
しかし本当にその格好で来るかも分からない、嘘の情報を流し俺達を誘き寄せておいて……なんて罠の可能性もある。
俺が襲われたらヨシオは助けに来てくれるだろうか。近くで見てると言っていたが何処にいるかなんて分からない。
時刻はもうすぐ10時になる。
しかし蒸し暑いな、建物が多いせいで風もロクに通らないし。ボーッと突っ立っていると、
『ねえ、彼女じゃない? マリナちゃん』
ーー!
改札を通り出てくる一人の女の子。学生服を着ていて髪は肩にかかるくらいの茶髪、どこにいてもおかしくない普通の女の子。だが条件にはぴったり合う。
『ヒラク君、早く彼女がマリナちゃんかどうかを……』
ーーいや分かってるけど、でも……
なんて言って話しかければいいのだろう。アナタは所有者のマリナさんですかとか? いやいや他人だったらどうすんだ。じゃあ、アナタが例の彼女ですかとか? いやいやいや例のとか何だし、怪しい取引きする人達みたいじゃん。じゃあ……
こんな時にコミュ症が発生する。
すると彼女は俺がチラチラ見ていることに気付いたらしい。ヤベッと反射的に目線をそらす。
彼女は俺に近づいてきて、最初に一言。
「HEKAKINのマネージャーさんですか?」