ヨシオ(4)
「こんにちは霧山ヒラク君。僕のこと分かるかな?」
男はニヤリと笑う。
数秒前までミホがいたその場所には代わりによく顔の見知った男が立っていた。
ああよく知ってるよ。長髪のくせっ毛パーマ、垂れ目でその奥は何考えてんだかさっぱり分からない。そのクセ俺からミホを奪った張本人、鳴上ヨシオ
「困るな、そんな恐い目で見つめないでくれよーぅ」
「ふざけてんのか、なんでお前がここにいる! なんでお前がそれを持ってる!」
「ってことはやっぱりヒラク君も選ばれたんだね? Cfを持つ5人の存在の内の一人に」
ーー5人?
「……あれ? 聞いてないの? そうなの、じゃあ教えてあげるよ」
ヨシオは得意げに話し始めた。
「どうやらカオモジは未来から来たらしいんだ、未来の世界は当然今より発達していて未来のアプリも当然ものすごいらしいんだ」
それは確かカオモジ自身が言ってた気がする。未来から来たんだって……。
「そんな中、カオモジは過去の僕達に『Colorful Face』というアプリを渡した。渡した意図はよく分からない。このアプリで何をするのか見てみたいって理由で渡したらしいけど本当のことは分からない」
それも確か言ってた。高みの見物していたいって……。
「けどそれはまあ大した問題じゃないんだ。問題はCfのその能力」
「……まあ、写真を撮って変身アイコンをタップしたらその人に変身だなんて確かに異常だけど」
「それだけがCfの能力だと思うかい?」
ーーそれだけ?
「あれ? ヒラク君分からないかい? しょうがないなぁ。いいかい、カオモジは未来から来たそれが本当だとすれば何故僕達に変身の能力しか渡さなかったんだろう」
「それは俺達が変身の能力を使って何をするか見たいからっていうだけで深い理由はないんじゃないのか?」
「僕は色々と聞いたんだ、その中でカオモジは言ったんだ。未来には数々のアプリがあるって。それなら何故変身する能力だけに限定したのか、だってカオモジは僕達が未知の能力を得てそれをどう使うかが気になるんでしょ?」
確かにそうかもしれない。Cfだけだとある程度行動の範囲も決まってくるだろうし俺がカオモジの立場だったら出来るだけ多くの能力を与える。その方が面白いから
「ここからは僕の予想だけど……カオモジはこの地球上から僕達を選び『Colorful Face』をどう使うか実験をさせてる。でもこれは第一段階でカオモジは更にアプリをダウンロード、あるいはCfをアップデートさせてくると思うんだ」
アプリの更新か!
「結果どうなると思う?」
「……どうなるんだ」
「変身、不老不死、催眠術、洗脳、ありとあらゆる力を得て地位も名誉も金も女も全て手に入れ、調子に乗ったCf所有者は国ごと手に入れようとする……そんなことしているうちに世界を牛耳る独裁者が出来上がる。笑える話だと思わない?」
「……ふざけるな」
「ねぇ、ヒラク君。カオモジの目的が独裁者の育成だったらどうする?」
ヨシオが不気味に微笑む。
「何言ってんだ。大体話が飛躍しすぎ……」
「だから予想って言ったでしょ? でも僕はこの考えを信じるよ、僕の予想って結構当たるんだ」
結構当たるからって……。
「だけどさ僕の予想が当たってたら面倒なことになるんだ。だって独裁者が5人もいるんだよ? 絶対戦争になるでしょ?……だからさ、その前にヤっちゃおうと思う」
「?! ヤっちゃうって、まさか」
「だって独裁者は一人だから独裁者でしょ?」
ーーコイツ殺す気だ。自分以外の所有者を、そして俺も……
思わず身構える。
「でもヒラク君は殺さない」
ーー?!
「どういうことだ」
「一週間前みんなから嫌われていたの僕がやったんだ」
ーーな?!
「どうせヒラク君は友達がいなかった、だから別にいいだろう。代わりに僕と友達になるんだ」
都合のいいことを言って、
「お前何が目的だ」
「協力して欲しいんだ。残りの3人の所有者を僕とヒラク君とで」
ーー勝手なこと言いやがって、俺の学校での地位まで下げてそのクセ協力して欲しいとかふざけんなよ
「出来る訳ないだろ、大体そんなのお前の予想にすぎない。間違ってる、そんなはずない」
「……予想にすぎない、それがヒラク君の答えかい? そんなこと言って協力とか面倒臭い、そう思ってるんだろう?」
ーー図星
思っていたがヨシオは頭がいい。
「ところでヒラク君はColorful Faceを使って何をするの?」
ーーえ
言葉に詰まる。
何をするのか? そう訊かれると急に困る。昨日カオモジからCfを貰ったばかりで何をするのかなんて……。
「答えられないだろう? ねぇヒラク君、生半可な気持ちでCfは使うべきじゃないんだ」
カチカチカチカチカチカチ
ヨシオはポケットからカッターナイフを出す。
断れば俺を殺す気か? でもそんなことは……。
「なんと言おうと俺はーー」
言いかけた時ヨシオがガラッとクローゼットを開けた。
「もう一度言うよ、僕に協力してよ」
ーー……ッッッ
今度は嫌だとは言えなかった。
クローゼットの中には横たわるミホの姿。両腕をグルグル、口をベタッとガムテープで止められたミホは涙を浮かべて俺を見つめた。