1 婚約破棄
「私は、公爵家令嬢ステファ・フォン・カスタムとの婚約を破棄する」
煌びやかなシャンデリアが会場を照らす中、その場に似合わない声が響き渡った。いや、声色はいい。だが、その内容が問題なのだ。
「はい? 今何とおっしゃったのですか」
「だから、ローザ王国第二王子であるこの私、ジーク・シン・ローザとお前の婚約を破棄すると言ったのだ」
第二王子の婚約者であった私は、殿下が唐突に言い始めた婚約破棄にポカンとしていた。しかしすぐに立て直し、
「理由をお聞かせ願えますでしょうか」
と言った。
「理由、そんなものお前が王族の婚約者としてあまりにもふさわしくないからだろう」
殿下はそう言い捨てた。
「まず、お前が魔力を持たないこと」
この国の貴族はほとんどが魔力を持ちで、魔法を行使することができる。それも王族となれば、その魔量は最上位に位置するようなものだ。しかし、私はその魔力を持たないということになっている。
確かにそれでは、王族と婚約するには、ふさわしいとは言えないものだ。
「次に、学園での成績の悪さ」
確かに、私の学園での試験の成績は悪かった。それも、学年で最下位を取るほどに。
「更に、その容姿」
私の今の容姿は、髪の毛はボサボサ、肌は荒れ丸眼鏡をかけていて、とても貴族の令嬢、それも王族の婚約者とは思えない容姿だった。
一方殿下は、金髪の貴公子みたいな容姿をしており、何かの物語にでも出てきそうな容姿だ。
私の今の容姿とは、とても釣り合ったものではなかった。
「最後に、ここにいるラホリア・フォン・エマール男爵令嬢をいじめたことだ」
ああ、さっきから殿下にやけに馴れ馴れしくくっついている人がいると思ったら、噂のラホリア嬢ですか。
「お前は、ラホリア嬢に水をかけたり、服を破いたり、階段から突き落としたり、ついには、ラホリア嬢の命まで狙ったそうだな」
へ、何それ。私一切関わってないのだけど。
「しっかりとお前がそれらを行なっているところを見たと証言している者もいる」
殿下はそう言うと、近くにいた令嬢たちを指し示した。……ていうか、あの人達って私のことをいじめてた人達じゃない。
少し話をすると、私は学園で日常茶飯事にいじめを受けていました。それこそ、些細なものから、命に関わりそうなものまで。で、それらを特に行なっていたのが、彼女達なのです。一応私の方が名乗っている家の立場が高いのにね。
「そうですか……」
「何が、そうですかよ。散々私をいじめた癖に」
「ああ、可哀想なラホリア」
何ですかこの茶番。
あ、そうそう少しラホリア嬢の噂をまとめておくと、彼女は全くと言っていいほど貴族というものを理解していなくて、やりたい放題だとか。そのくせ、魔力は多い方だし、成績もまあまあいい方だしという、何ともやりづらいのが彼女なのだ。
「はあ、わかりました。婚約は破棄します」
私は、ため息をついて言った。
「さて、婚約を破棄されたこの身がここにいるのは場違いですから、私はここでお暇させてもらいます。それでは皆様パーティをお楽しみ下さい」
私は挨拶をしてその場を去った。