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茶師のポーション~日常編  作者: 神無 乃愛
妊婦のお茶と子供の珈琲
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妊婦のお茶と子供の珈琲 その七


 その顔を見た弟子が美味そう! と騒ぐため、マスターは一つだけ暴露する。そう、弟子の飲む薬草茶に入っているのである。

「……うげっ。あんなに美味そうなのに」

「当り前でしょう。あの方のは蒲公英単独、お前のは医師もお墨付きを出している特別ブレンドですよ」

「医師って……まさか」

「えぇ。お前が昔からよく逃げていた主治医ですよ」

「ここまでまずいの、ぜってぇ嫌がらせだぁぁぁ」

 あえて言わないが、その薬草煎餅を作っているのも主治医の親族だ。しっかりと弟子の治療包囲網が出来ているのである。

「お前が自分でしっかり出来るのなら何も言わないのですがね」

「俺、丈夫になったんだけど」

 アレルギーだけはどうしようもない。

「ここって症例に合わせてブレンドしてくださるんですか?」

「必ず、とは申し上げられません。主治医を相談の上、許可した場合に限りブレンドしております」

 妊婦としては気になるところなのかもしれない。入りにくいだろう、この会話に混ざってきた。

「あの産婦人科だと?」

「多少は融通がききます。ただ、万能ではありませんよ」

 薬が飲めない場合の軽減策として、あの病院は用いている。そのため、マスターが扱う薬草、もしくはハーブと呼ばれるものは、多岐にわたる。

「ただ、治癒ではなく症状軽減が見られる、程度に考えていただければ」

「ありがとうございます。そう言っていただけた方が嬉しいです。時々広告で『治った』とか書いてありますが……」

「個人差、でしょうねぇ。改善策として使用する場合は、薬との飲み合わせもあるので、医師や薬剤師との話し合いも必要なのですよ」

 ここまで知識を入れたのは、弟子の存在が大きいのだが。敢えて言わないでおこうとマスターは思った。

「そこまでするお茶屋さん、初めて見ました」

「個人経営と探求者稼業の強みですね」

「この店知れてよかったぁぁぁ!」

 薬膳としてのお茶を希望する場合は、医師・薬剤師と相談することを忘れずに。


 それを再度伝えれば、女性は笑いのツボに入ったようだった。


「ちなみに師匠、一つ聞いていい?」

「何でしょうか」

「薬と薬草茶ってどっちが効いてるの? 俺の場合」

「それ以前の問題で、お前は薬をほとんど服用していないでしょう」

 ぎくりと弟子の肩がはねた。分からないとでも思っていたのか。

「薬を服用していたのなら、もう少し美味しい薬草茶に変更できるんですけどね」

 間違いなく服用を忘れるし、主治医の元に行く回数も少ないはずである。

「……努力します」

 無理なのは、今までの経験則で知っている。


 弟子が固定パーティを組むようになって、ある程度定期的に飲むようになったのだから。


「また、蒲公英珈琲よろしくお願いしまーーっす」

「またのご来店をお待ちしております」


 普段は閑古鳥もいいところなのだが、今日は何故か忙しい。


 あの小さな少女が客を運んできてくれたのかもしれない。


 マスターはくすりと微笑んだ。


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