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茶師のポーション~日常編  作者: 神無 乃愛
妊婦のお茶と子供の珈琲

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妊婦のお茶と子供の珈琲 その五


 白岡家の一行が帰れば、いつもの静寂に戻っていた。

 そうなれば、朔が再度飲むのはハーブティソーダだ。

「頼む前に出てくるってすごいよね」

「今日はこちらの気分かな、と思いましたので」

「正解。というか、マスターはいつも外したことがないよね」

義息子(むすこ)の好みぐらいしっかり把握しておかないと」

「嘘つかない」

 常連客が好む茶をすべて記憶しているマスターはどこ吹く風である。因みに、何が飲みたいかが分かるのは、長年培ってきた勘というものだ。

「朔君だって、主ご一家の好みを間違えたりしないのと一緒ですよ」

「さすがに使用人頭になって間違えていたら、部下に示しが付かないからね。細心の注意を払っているよ」

 そんな朔も主と親しい仲間内の好みはすべて把握している。五十歩百歩というやつである。

「今日のハーブティソーダはペパーミントに蜂蜜、レモングラスか」

「正解です」

「はぁぁ。癒される」


 もう一杯飲もうとしたところで、再度ドアベルが鳴った。

「師匠、薬草納入に……げっ」

「客に向かってその態度はいただけませんよ」

 いらっしゃいませという言葉も言わせないほどに、せわしない弟子が朔を見て顔をしかめた。

裕里(ゆうさと)君、久しぶりーー。パーティの皆様もお久しぶりです」

「先週依頼先でお会いしましたよね」

 顔が引きつっているのは、マイニである。何せ、妻と前夫の子供が絡むと途端に弟子は短慮になる。

「今日は久しぶりの休日ですので、お茶を仕入れがてら飲みに」

「そいつはいい偶然だ。そこの菓子屋でたんまりと茶菓子を購入してきたのでな」

「新規開拓……」

「あなたに勧められた店だが」

「おや、気に入っていただけましたか」

 クリフは一切気にしないどころか、ででん、とでかい箱を置いた。


 ここまであればハイティスタンドを出すしかない。今日は器がよく出る日だ。

「あ、適当なスタンドで。どうせならのんびり楽しみたいし」

「かしこまりました」

 紅茶の日に出す量販型ハイティスタンドを出すと、クリフは勝手に盛り付けていく。勝手知ったる何とやらで、ウーゴは「マキネッタ出して」とまで言ってくる。今日は何となく(、、、、)だが、出さないほうがいい。そういう勘は当たるのだ。

「なら仕方ないか。……えっと、あれなんだっけ。珈琲とお茶がミックスになっているやつ」

鴛鴦(えんおう)茶ですね。ホットとアイスのどちらを」

「アイスで」

 ウーゴが好む作り方は、二段方法と呼ばれる淹れ方である。まず紅茶(ウーゴの場合はここにプーアル茶も加わる)を先に淹れてから、珈琲の粉に紅茶液を加える方法だ。そして、紅茶五に対して、珈琲も五という割合である。

「やっぱりマスターは分かってるよなぁ」

 他の面子は注文すらしていない。にもかかわらず、好みの茶葉に好みの温度で作り出されていく。

「クリフさんにはアッサムティです。こちらがミルクピッチャーになります」

「thank you」

「マイニさんはダージリンティにしました。春麗さんには工夫茶です。お味はジャスミン」

「……俺は?」

「薬草茶に決まっているでしょう。また悪化しているようですし」

 一人しょぼくれる弟子に、朔が口をつけていないハーブティソーダを渡していた。おちょくるため苦手意識を持たれているが、誰よりも弟子を甘やかしているのは朔だったりする。

「買収かしら?」

 楽し気に春麗が呟く。

「いえ、さすがにあの店の菓子を食べるのに、薬草茶はいただけないだけです」

「なるほど。裕里には隣の店の薬草煎餅も買ってきたから」

「じゃあ、それ食べたあとに口直しで。美味しいからね」

 弟子がげんなりとしながら、薬草茶を飲んでいる間に、弟子の好物をいそいそを分けているのは朔だ。

「まったく……」

「いいじゃん。母がやっていたことを真似ているだけなんだから」

 それを引き継いでいるのが、マスターと朔なのだが。その辺りも似た者な二人だった。


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