表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶師のポーション~日常編  作者: 神無 乃愛
八十八夜とお茶と師範と

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/16

八十八夜とお茶と師範と その二


 それから数日後、閑古鳥の鳴く店に、一人の女性が訪れた。


 珍しい。マスターはそう思った。何せ、初めて来るという客自体が少なくなってきている。婦人科関連はまた別だが。そういう人でもたいていが誰かしら一緒に来る。

 看板があるとはいえ、小さいため見逃すという。

「いらっしゃいませ」

「おすすめの八十八夜のお茶をいただけるかしら」

「かしこまりました」

 風変わりな注文は、慣れている。


 先日関東地方にある某茶園から入荷したばかりの茶葉を使う。


 本日は煎茶。それゆえ、温度は七十度程度。湯呑にお湯を注ぎ、そこから急須に移す。湯呑を温めるという効果と、茶に注ぐ湯の温度を下げる効果を持つ。

 少し蒸らして湯呑へ。


「お待たせいたしました」

「素敵な香りですね」

 やはり、とマスターは思った。あえて難解な注文をしてきたのだと。

「どちらの茶葉かしら」

 農園の名前と茶葉の銘柄を答えた。別に隠しているものではない。

「てっきり隠していらっしゃるのだと思っておりましたわ」

「隠すのは作ってくださる方にも、飲んでくださる方にも失礼ですので」

「さすが『探求者の茶師』」

 久しぶりに言われた異名だった。



「ずっと探しておりましたのよ。まさか鷹司の方と嫁から聞けるとは思っておりませんでしたの」

 女性は柔らかく微笑むが、目は笑っていない。

「どこかで、お会いいたしましたか?」

「いいえ。お会いしたのは初めてですわ」

 なのになぜなじられる。マスターは頭を抱えたかった。

「一線を退いて店を開くというのは、夫の実家から聞いておりましたの。場所は不明。何人の茶人があなたの店をお探しだと思って?」

「……お名前を、伺っても?」

 普段は聞かないことを聞いてしまった。

「名乗るのを忘れておりましたわ。わたくし、白岡 静縁(せいえん)と申します。

 先日は嫁がこちらにお世話になったとか。ずっとお礼を申し上げたいと思っておりましたの」

 白岡 静縁。煎茶の流派、白岡流の家元だ。珍しく女系継承の家柄でもある。

「茶に興味のない息子が、お茶好きの女性を見初めたと知ってどれくらい嬉しかったか。わたくしの代で流派が終わるかもしれない、と覚悟しておりましたが」

 マスターの記憶では、女系継承とはいえ男性軽視ではなかったはずである。女児になかなか恵まれないときは、男性が継いでいた時もあったはずだ。

「あら、探求者の茶師でも知らないことがおありなのね。

 女性継承以外にも流派を継ぐ条件がありますのよ。茶を好きでなければだめなんですのよ」

 楽しそうに静縁が言った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ