名誉男爵になりました
「ソラさん、お客様ですよ。」
宿で夕食を食べてると、宿主さんが声をかけてきたので、入り口の方を見ると、侯爵様のところの文官のオリバーさんが立っていた。
「こんばんわ。ソラ様、侯爵様からの招待状をお持ちいたしました。」
「ありがとうございます。」
中を見ると、明日、午後に報奨を渡したい事と、夕食に招待したいことが書かれていた。因みに、服は無ければ用意してくれるらしい。
「了解しました。服はお願いしても良いですか?」
「はい。もちろんです。では、明日の午後に馬車でお迎えに上がらせて頂きます。では、失礼します。」
用件を伝えるとオリバーさんは帰っていった。夕食を食べてると、俺も明日のために、桶にためたお湯を使って布で体を拭き、ベッドへと潜り込んで寝た。
翌朝は朝食を食べると商業ギルドへ行き、ギルドマスターに侯爵様のところへ招待されたことを伝え、鉱山について少し話し合い、昼前には宿に戻った。昼食を食べて部屋で休んでると、侯爵家の馬車が迎えに来て、馬車へ乗り込むと侯爵家へと向かった。
侯爵家はセシリカ市のほぼど真ん中に建ち、とても立派な白い壁に緑色の屋根の巨大な屋敷で、玄関までの前庭には整えられた立派な生垣や彫像、噴水があった。
馬車は玄関前の噴水を中心としたロータリーを回り、玄関前で止まった。馬車を降りるとオリバーさんと初老の執事らしき男性が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。ソラ様。私、侯爵様の執事のセバスチャンと言います。」
「初めまして、ソラです。よろしくお願いします。」
「はい。では、こちらへどうぞ。」
中へと案内されると、大きなシャンデリアが吊られた吹き抜けのホールがあり、左右からカーブするように降りてきてる階段がホールの豪華さを引き立たせている。
まさに貴族の屋敷だな~でも、調度品が見当たらないな。置いてた跡があると言うことは、こないだまでの騒ぎで売ってしまったのかな。
2階に上がり客間へと案内されると、メイドさん達に早速、剥かれて上質な服へと着替えさせられた。
因みに、恥ずかしくて赤くなりながら我慢したら、メイドさん達の慈しむような笑顔が印象に残った。もう、お嫁に行けません.....
そんなことをしてると、準備が整い、侯爵様の執務室へと案内された。
「ソラ殿、よく来た。」
「侯爵様、お招き頂きありがとうございます。」
「うむ。早速だが、褒美を渡す。まず、ソラ殿を名誉男爵とする。そして、第12番鉱山の所有権と金貨10枚、そして、屋敷を褒美とする。」
「は、ありがたき幸せ。」
金貨10枚と言うと、どれくらいかな?
『銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚となりますから、1000万円となります。』
お~そこそこな額だね。
「では、堅苦しいことはここまでにして、ソラ殿、話をしようではないか。」
「はい。是非。」
執務室から談話室へと移動すると、プラチナブロンドの綺麗な髪と吊目ながら優しさを感じさせる厳しくも優しい母といった綺麗な女性がいた。
「紹介する。妻のレベッカだ。」
「初めまして、ソラ名誉男爵様。ハウバッセン侯爵夫人のレベッカ・ウェスタン・ハウバッセンです。」
「初めまして、ソラです。よろしくお願いいたします。」
「そう堅くなるな。私と妻しかいないのだから、もっと気軽でよい。」
「は、はぁ、では、そうしますね?」
「うむ。」
ソファーに座りメイドさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら、話を聞くと、ハウバッセン侯爵家には長男のカルドという跡取りがいたのだが、こないだの崩落事故で亡くなったそうだ。次男もいるそうだが、王国騎士団の騎士をしてるらしく、直ぐには帰ってこれないため、王都の侯爵邸で生活をしながら、次男と今後について話し合うそうだ。
「そう言えばソラ殿は出身はどちらで?」
唐突に話題が変わったが、まあ、いいか...
「私は異世界の日本という国が出身になります。」
「異世界?」
「はい。女神様に異世界へ転生させて頂いて、この世界に来ました。」
「そ、そうなのか。異世界か...」
何やら侯爵様が考え込んでしまった。どうするかな、異世界のことは話しても良いって女神様言ってたから言ってもいいんだよね?
「ソラ様、日本のお話し聞かせてくださいませんか?」
ああ、侯爵夫人。そんな眩しい笑顔でお願いされたら答えない訳にはいかないではありませんか。
「もちろんです。異世界の日本は.....」
日本について色々と話した。小さな島国ながら、国際的な地位が高い先進国であること、発展した技術と文化で世界的に見てもトップレベルであること、そして、日本が抱える問題を話した。
侯爵様は小さな島国が国際的に地位が高い事に興味があるようで、政治について聞かれたので、色々と話してみた。侯爵夫人は進んだ文化や日本独特の伝統文化について幾つか紹介してみた。
「うむ。ソラ殿の話からして本当にかなり進んだ国だな。民主制の国でそこまで発展するとは驚きだ。」
「私は一度、『着物』と言うのを着てみたいですわ。あと、和菓子も気になります。」
「私のいた世界では王政はかなり昔に無くなりました。今も王家や王政が残る国もありますが、民主主義の国が中心に世界を動かしています。あ、侯爵夫人。着物の種類で『浴衣』と言うものなら私が作れますよ。あと、和菓子も材料があれば出来るかもしれません。」
「王政は無くなるか...」
「まあ、では、期待して待っています。」
侯爵様は王政が無いことに思うところがあるようだ。侯爵夫人は日本文化の事で頭が一杯かな?
「皆様、ご夕食の準備が整いました。」
執事のセバスチャンが来たことで後の話は夕食後ということになった。
ああ、夕食は何かな?異世界料理ってどんなのだろうか。