商業ギルドでいいんだよね?
翌朝、朝食を別料金で食べて、商業ギルドへと向かった。商業ギルドは名前の通り、商人のサポートを主目的として商人が登録してるギルドなので、どこの町でも立派な石造りの大きな建物で、活気溢れる場所なのだが、セシリカ市の商業ギルドは廃墟のようなボロボロで、中もほとんど人がいない閑散とした場所だった。
「あの、すみません。商業ギルドはここていいんですよね?」
「はい。間違いありません。」
苦笑いで答えた受付のお姉さんは、疲れ果て、未来も希望も夢も何もないと言った雰囲気だった。怖い!
「昨日、セシリカ市に来たのですが、商業ギルドは以前からこの状態で?」
「いえ、前は活気があったんですよ?数日前の鉱山の落盤事故までも少しは活気があったんですが、もう、どうしようも無くて...」
うわ、何か、お姉さんの目がブラックホールのようで吸い込まれそうで怖いよ!!!
「あ、あの、自分、こう言う者なのですが、ギルドマスターにお会いする事って可能ですか?」
身分証を渡すと、お姉さんのブラックホールは人の目に戻り、驚愕の表情を浮かべ、「少々、お待ちください!」と言い、何かの道具で身分証を確認し、さらに驚愕すると、興奮気味に戻ってきて、身分証を返してくれた。
「今から、ご案内いたしますので、こちらへ!」
グイグイと腕を引っ張られて4階建ての商業ギルドの最上階の最奥にある部屋の前に着くと、「ギルドマスター!入ります!」と声をかけて、返事を待たずに中へと入ったら、天井から縄をたらし、首を吊ろうとしていたギルドマスターらしき老人と目があった。
「すまない。もう、どうしようもないと思ってたからの、変なものを見せてしまったな。」
「お、お気になさらず。」
ギルドマスターのポワンさんは、この道70年のベテラン商人で、12歳の時から商売をし、30歳という若さで商業ギルドのギルドマスターへと上り詰めた凄腕らしい。
「それで、ソラ殿、本日はいかがなされたのかな?身分証を見せてもらったが、女神様直々に発効なされたもののようじゃが。」
この世界では女神様直々の品というのは珍しくはあるが、貴重ではないようで、たまに俺のように、女神様が直々に発効した身分証があったりするそうだ。
「女神様とは少しご縁があって、特に何をどうしてほしいとは言われてないのですが、セシリカ市の近くの草原に落とされたので、この町で何か出来るかなと思ってやって来ました。」
「ほうほう。それは何とも面白いですな。これは女神様のお救いですかな。」
ああ。ギルドマスターの顔がやっと苦しみから解放されたかのような、穏やかな顔に...って、死なないで!!!
「危ない。危ない。ポックリ逝くところでしたわい。ホッホッホ」
「ビックリしましたよ。それで、セシリカ市の鉱山が全滅って聞いたんですけど、本当なんですか?」
「うむ。本当じゃ。世界最大の鉱山を始め、一攫千金を狙った小さな鉱山を含めて全滅じゃ。6日前の落盤事故が起きた鉱山が唯一の頼みの綱じゃった.....」
穏やかな楽しそうな顔から、真剣で隙の無いまさに歴戦の商人といった風格へ代わり、ギルドマスターは話し始めた。
「もちろん、あの鉱山が財政を支えるほどの鉱物を産出してた訳ではないが、セシリカ市最後の希望だったのだ。侯爵様も鉱物に随分と出資して下さった。その結果がこれでは、顔向けが出来ぬ.....」
鉱山の探索で新たな鉱脈を探すために侯爵家の知識人や、専門家を雇ったりと、今回の鉱山探索は最後の希望で、肝いりの計画だったようだ。それが、落盤事故で鉱山は使用不能。探索隊は全員生埋めとなり、よりによって、侯爵家の後継ぎである長男も亡くなったらしい。
「なるほど...あの、ギルドマスター。鉱山のどれかを見させてもらうことは出来ますか?」
「うむ。可能だが、危険じゃぞ?」
「大丈夫です。女神様から役に立つスキルを頂いてるので。」
「分かった。こうなったら、わしも一緒に行こう。」
その後、ギルドの受付のお姉さんに後を任せたギルドマスターと共に、町の横にある鉱山地帯へと向かい、鉱山の出入り口前へとたどり着いた。
今、目の前にある鉱山への入口は、直径3mほどの比較的大きめの穴で、この坑道を中心に、左右へ枝を伸ばすように坑道が掘られてるらしい。
「この先は地図がないと迷うから、はぐれるんじゃないぞ?」
「はい。分かりました。では、まず照明をつけますね。」
坑道には照明が取り付けられており、坑道の中でも真昼のように明るくなる。また、この照明は魔力を使ってるため、坑道内での引火や酸素不足の心配は無い。
そして、坑道を進み、最も深い場所へとたどり着くと、採掘道具があちこちに放り出され、採掘することが諦められた岩盤の前に立った。
「これまた固そうな岩盤じゃな。つるはしでは敵わんじゃろうな。」
「ええ、かなり頑張って掘り進めたようですが、力尽きたようですね...」
坑道の壁や天井を見ると、つるはしが敵わなかった岩盤の層が5mほどあり、何とかつるはしや魔法を駆使して、ここまで掘ったことがわかる。
「資金があれば、この岩盤も通り抜けられたんじゃろうな...」
悔しそうに岩盤を睨み付けるギルドマスターを横目に、岩盤を確認する。
『岩盤。セシリカ市西部の鉱山地帯の深部に埋まっており、黒龍岩と呼ばれる非常に固い石が主成分となる。』
うん。こらダメだ。スキルの魔法ならいけるかな?
「ギルドマスター、土魔法で岩盤が取り除けるか試しても良いですか?」
「構わんが、この岩盤は黒龍岩が主成分じゃからな、土魔法では歯が立たんと思うぞ?」
「ええですが、土魔法でレベル100なら出来ますよね?」
「レベル100じゃと!?そ、それなら可能じゃろうな。よし、ソラ!いけ!」
「はい!」
魔法の使い方は何となくわかる。イメージとしては、体の中に血管と別に張り巡らされた血管のような何かに魔力が流れていて、それを操作して、手に集めて操作する。すると、目の前の岩盤が溶岩のようにドロドロと動き始め、通路を作っていく。それを唖然とギルドマスターは眺めていた。