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JNH

           8JNH


 夜の街を白いスポーツカーは疾走する。

 法定速度をはるかに超えて、まるで暴走しているみたいだ。

 こんな状況では落ち着いて話なんかできはしない、僕は平気だけど睦美は車内に発生する慣性力に、必死に耐えているみたいだ。

「ごめんなさいね、危険区域がら出るまで辛抱してね」

 運転する篠原さんが僕達に申し訳なさそうにそう告げる。

「危険区域って?」

「あんな男達を陰から操る連中の勢力圏、そういう場所を私達は危険区域に指定しているのよ」

 あの組長が言っていた組織と関係あるのだろうか?

「私達JNHと敵対する勢力、能力者を集めてそれを自分達の都合で行使させる連中よ、その組織の全貌はまだ解明されていないけど、何人かの能力者は彼らの手中に囚われてしまったわ、その解放も私達の任務なのよ」

 どうやらJNHは組長の言っていた組織と敵対しているようだ。

「僕達はどこに向かっているの?」

 どうやら篠原さんは運転に集中しなくても会話が出来るらしい、だから疑問を聞いてみる。

「オフィスよ県庁所在地にあるわ、JNHの支部の一つなのよ」

 僕達はそのオフィスとやらに向かってきているようだ。

 やがて車は高速道路に入っていく、そこでようやく暴走状態ではなくなる。

「追っ手もいないようだし、もう大丈夫よ、怖い思いさせてごめんなさいね」

 僕は別に怖くはなかったけど、隣の睦美は安堵の表情を浮かべる。

「ああ怖かった、私乗り物は苦手なの、もう少しで酔ってしまいそうだったわ」

 睦美さんはまた不機嫌そうだ。

「ごめんなさいね、あなた達の事を嗅ぎつけて、組織が動くかもしれないから、出来るだけ速やかに現場を離れる必要があったのよ」

「運転しているあなたから能力を感じたわ、その力を使って運転していた。そんな感じかな?」

「あら、あなた能力探知の力が使えるの?そうよ予知能力の一種かな、事前を予知することで起こる事態に対処できるの、だからこんな車も事故を起こさず速く走らせることができるのよ」

 どうやら篠原さんは予知能力が使えるようだ。

「でも私の場合3分後の未来しか予測できないから、予知って言ってもあまり役に立たないんだけどね」

 しかしその予知能力は予言ができるほどの力ではないらしい、

「所詮、私はBランクの能力者、だからこんな汚れ仕事を担当してるんだけど、あなた達は逸材ね、ダイヤモンドの原石って言ったところか、磨けば光り輝きそうなそんな可能性を秘めているわね」

 どうやら能力者にも、その能力に応じてランクが存在しているようだ。

「僕は神様にこの能力を授かったんだけど」

「あら、あなたは後天的な能力者なのね、その能力を生まれ持ってきた訳じゃないないのね、今まで探知に引っかからなかった理由はわかったわ、単なる掘り出し物じゃないって事か」

 どうやら篠原さんは、僕達のような神の器になった存在ではないみたいだ。

「後天的な能力者の存在は、JNHでも確認しているわ、自らを神の器と称する能力者達、それはほとんどの場合、あなた達のような少年少女なのよ」

 僕達の様に神の器に選ばれた者は、どうやら他にもいるみたいだ。

「その神の器達はどこにいるの?」

 僕は興味をもって聞いてみる。

「見つけたら当然私達JNHが保護するわ、事態がその子たちに悪影響するまでに保護しないと、深刻な事態になってしまったら私達でも隠蔽できなくなってしまう、野放しにはできない深刻な問題なのよ」

 どうやらJNHは神の器が勝手に能力を使って、事件を起こすのを恐れているようだ。

「それに組織の問題もあるわ、その子たちが組織に捕えられて、悪事に利用されるのを防がないといけないわ」

 僕達はその組織に売り飛ばされる所だったのだ。

「あなた達を保護して正解だったわ、監視だけではいつか組織に気づかれて拉致される危険があるわ、そのリスクは高くつくわ、能力者の街、そこで隔離する必要があるわね」

「能力者の街?そんな場所があるの?」

 僕は思わず聞いてしまう、

「能力者が集う、能力者の為の街よ、あなた達はしばらくそこで過ごしてもらう必要があるわ、そこなら組織の力も及ばないし安全よ、そこでなら能力を無暗に使う者もいないし、あ、でも、隔離するって言ってもあなた達の行動の自由は保障されているわ、街から出ても誰も文句はいわないわ、旅行とか観光とか好きに出来るし、別に閉じ込めて監視するって言うわけじゃないのよ」

 どうやら能力者の街とやらは、強制収用施設ではないみたいだ。

「街には映画館も飲食店も普通に揃っているし、それに教育機関もちゃんとあるわ、バスも電車も通じていて外の世界とは自由に行き来できるわ、もちろん一般の人も街に入る事が出来るわ、見た目は普通の街と変わらない、ただ住んでいるのが能力者とJNHの関係者だけって場所よ」

 そんな素晴らしい場所があるのなら、どうして篠原さんはそこに住んでいないのだろう?

「篠原さんはどうしてその街に住んでいないの?」

「私は志願してJNHのエージェントになったから、いい加減、温室暮らしにあきあきしたって感じかな、あそこはちょっとわたしにとって退屈すぎる場所だったみたい、能力も制限されちゃうし、だから自分の能力を生かす為に、外に出てこんなことをしているの、エージェント登録は能力者のなら誰でもできるわ、自分の能力をJNHのために使うのも、自分次第って事ね、もちろんあなた達もエージェントになる資格はあるわ」

「でも僕達はまだ未成年で街で暮らすにしてもお金も持っていないし、それに僕達の親が納得しないかもしれないし、その街で暮らすのは理想的だと思うんだけど現実では困難な状況だと思うんだけど……」

 僕の話を聞いて篠原さんはクスクスと笑い始めた。

「ふふっ……ごめんなさい、そんな時に使うのが能力よ、あなた達の親御さんには納得してもらう為に能力を使うのよ、自分の子供はもう死んだとかそんな風に暗示をかけるのよ、私達エージェントにそんなことを専門にしている者もいるわ、それに街に住む者達には生活に必要な資金も支給されるわ、街には仕事も学校もあるし、街に住む人達は生活に困らないわ、住む場所も提供されるし衣食住の心配しないで済むのよ」

 そう言われても僕には衣食住の必要はないんだけど……いや、住む場所と衣服ぐらいは必要か……

「魅力的な提案ね、特に親と離れられるっていうのが魅力的だわ、私はもうあの人たちと一緒に暮らすのに辟易していたの、私はそんな街で一人で暮らしてみたいわ」

 睦美さんはどうやら篠原さんの提案に積極的なようだ。

 僕もあの母親と別れて暮らすことに何の未練も感じないのだけど……

 車は高速道を下りていく、どうやら県庁所在地に着いたらしい、

 一般道に入ってから篠原さんは無口だ、始終ミラーを見て何かに警戒しているようだ。

 時間は深夜を過ぎた頃ののようだ。一般道を行きかう車も少ない、

「ごめんなさいね、こんな仕事をしているから注意は万全にする必要があるのよ」

 篠原さんは非合法的な事をしているような女性だ。敵対する勢力も多いのだろう、

 取りあえず今は成り行きに任せるしかないと、僕は考える。

 JNHとか言う組織がこの国でどれぐらいの力を持っているのかわからないし、それに能力者の街の事も気になる。

 もしもそんな街が実在して、そこを僕が牛耳れるようになれば、『世界征服』の夢が叶えられるかも知れない、まぁ『世界征服』しろと言ったのは僕の神様なんだけど……

 白いスポーツカーは一軒のオフィスビルの地下駐車場に入って行く、ここがJNHの支部なんだろう、篠原さんは駐車場の空きスペースに車を止めると、

「ついたわ」

 僕達に一言そう告げる。


 僕達の乗ったエレベーターはこのビルの5階で止まる。

 エレベーターの扉が開いて篠原さんが歩き始める。

 僕達もその後ろをついて歩く、薄暗い照明が歩く廊下を照らす。

 やがて、一つの扉の前で篠原さんは止まる。

 扉の入り口には『小林興信所』と表示されたプレートがある。

「ようこそJNH第12支部に」

 扉を開けた篠原さんがそう言って僕達を誘う、僕達は言われるままに部屋の中に入る。

 部屋の中は広い事務所、そんな感じの場所だった。

 並ぶ机、その上にはパソコン、どこにでもありそうなそんなオフィスの一室だった。

 オフィスの奥には腕を組んだ若い男性が目をつぶって座り込んでいる。

「能力を感じるわ」

 睦美が、そう言って座る男性を見つめる。

「小林室長、状況は改善したの?」

 篠原さんが座る男性に訪ねる。

「うん、警察の介入も未然に防げた。死体の処理も問題なく済んでいる。後は事後の処理だけでいいという状況かな、行方不明扱いにするにはちょっと人数が多すぎるのが問題かな、でもしょせんはみ出しているような連中だし、世の中の情勢に大した影響はないか、隠蔽工作もたぶん大丈夫だよ」

 小林室長はそう言ってから目を開けて僕達を見つめる。

「さて君達に自己紹介しておこうか、俺は小林健一郎、JNH第12支部の室長を務めているんだ。俺は能力探知と千里眼の能力に特化しているのさ、君達が能力を使った時から、監視してそして応援に篠原君を派遣していたんだけど、まさかあんな展開になるとは俺でも予想できなかったな、だから怖い思いをさせてごめんね、篠原の到着がもう少し早ければよかったんだけどね」

「小林室長、私はあれでも急いで現場に急行していたのよ、室長がもっと早く能力を探知していればあの事態は避けられたわ」

 小林室長の話に篠原さんは不服そうだ。

「俺も24時間不休とはいかないからね、それに小さな能力の発動まで探知できないから、初動が遅れたのは俺の責任でもあるから、まあ、今回の件は俺の管理ミスもあったと上には報告しておくよ」

 小林室長は自分の非を認めたようだ。

「さて君達の今後の処遇だけど、ここに来るまでに篠原から聞かされていると思うんだけどね、それでどうする?」

 小林室長はいきなり僕達に選択するよう求めてきた。

「私はその能力者の街に行ってみたいと思います」

 睦美はそう即答するが僕は考えてしまう、本当にそんな理想郷的な場所がこの国にあるんだろうか?

 しかしこのまま家に帰っても僕はまた家庭と学校での苦しみを味わなければならない、あんな生活に未練などないと考えてしまう、

「さて君はどうする?」

 小林室長はもう一度僕に訪ねてくる。

「その街に行けば僕もJNHのエージェントになれるのかな?」

「おや?君はいきなりエージェント志望なのか、俺達みたいなエージェントになるには街の特殊機関で講習を受ける必要があるんだけど、そこで認められたらこの社会の中で能力者の為に活動できるようになる。それには最低でもCランクぐらいの実力が必要だけど、君ならSランクを超えてしまうかもしれないね、つまり君は我々JNHにとって大変重要な存在といえるね、いいだろう、君の申し出を俺の一存でどうこうすることは俺の権限の範囲をこえているからね、大丈夫、君の身辺整理は担当者が迅速に行うから問題はない、君をこの社会に放置すれば俺達でも対処できない問題が発生するかもしれない、今は俺達JNHの意向に従ってもらうほうが両者のとって利益になると判断できるのだから」

 小林室長は僕の能力を高く評価しているみたいだ。

 そこまで言われたらぼくは選択を受け入れるしかないと考える。たから、

「わかった僕も能力者の街に行くよ」

「賢明な判断だと思うな、それでは早速君達を街まで案内する必要があるんだけど、あいにく瞬間移動の能力者は出払っていてここには来れないんだ。彼は今回の事件に対処する為、出かけているし、だから屋上のヘリを使おう、そのヘリで君達を街まで案内させることにするよ」

 どうやら僕達はヘリコプターに乗って能力者の街まで連れていかれるみたいだ。

「幸いなことにここから街までは、ヘリを使えば30分ぐらいの時間で移動できる。夜の空中散歩を楽しめばいいよ」

 ヘリコプターに乗るなんて初めての経験だ。それにしてもJNHは専用のヘリまで用意してるなんてかなり大規模な組織何だと実感する。

「大船の乗ったつもりでいればいいわ、こういうケースもあらかじめ想定しているから、それから身の回りに必要なものはないかしら?もしも大切にしている者があればメンバーに連絡してあなた達の家から持って来させるんだけど、どうかな?」

僕が大切にしている物、でもお金を貯めて買ったゲーム機やそのソフトも別に必要ならまた買えばいんだし特に持ってきてもらう必要はないと思う、特に愛着に思う品物もない、

「僕は家に残してきた物は特に必要なんて感じないよ」

「私も家に置いてあるものに特に未練があるとは思わないわ」

 睦美さんも僕と同意見のようだ。

「それならなるべく速くここから離れたほうがいいわね、先方には連絡しておくから今からヘリポート向かいましょう」

「ヘリポートってどこにあるの?」

「このビルの屋上よ、安心してヘリはもう待機させているからついてきて」

 なんとも手回しがいいように感じられるのは僕だけなのだろうか?

 とるあえず歩き始めた篠原さんの後ろを僕達は追うように歩き始める。

 オフィスから出てエレベーターに向かう、エレベーターに乗る僕達、篠原さんは屋上のRのボタンを押す。

 このビルはかなり高い高層建築物だ40階ぐらいあるのだろう、その各フロアーをエレベーターは通過していく、やがてエレベーターは屋上に到着する。

 エレベーターの扉が開くとへりのローターが回転する音が聞こえてくる。

 屋上はヘリポートになっている。

「先方には室長が連絡しているから安心してね、それじゃあ、機会があればまた会いましょう」

 篠原さんはそう言うとヘリの扉を開けて僕達に乗り込むように促す。

 ヘリコプターなんかに乗ったことは初めてで僕は緊張してしまう、

 睦美が先にヘリに乗り込んで、

「ヘリでも酔ってしまうか心配……」

 そうつぶやく、

「僕もヘリに乗りるのは初めててだよ」

「シートに座ってシートベルト着用してください」

 ヘリの操縦者が僕達にそう告げる。

 僕達は言われたようにシートベルトを着用する。

 それを見ていた操縦者が、

「それでは出発します」

 操縦者がそう告げるとローターの回転する音が大きくなりヘリは空中に浮かんでいく、ある程度の高さまで浮上すると水平に移動し始める。

 爆音を響かせて僕らを乗せたヘリは都市部を飛んでいく、眼下には夜の街の明かりが見える。

 僕は未だに自分が巻き込まれている状況を、ただ成り行きに委ねることしかできない、それを何かもどかしく感じて眼下に広がる夜景をただぼんやり眺めてるのであった。



 

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