悪の組織
7悪の組織
僕達を乗せた高級外車は、夜の街を走っていく。
黒いフィルムが貼られた車窓からは外の景色が見えない、だからどこに連れていかれるのか、見当もつかない、
助手席の男は後ろを向いて、まだ僕達に拳銃を突きつけている。
こんな単なる子供達に、いったい何を警戒する必要があるのだろうか?
これからいったい何が起こるのかわからない、だから情報が欲しくて、僕は拳銃を構える男に聞いてみる。
「僕達をどうする気なの?」
「組長に会ってもらう」
いかめしい顔をした男はそれだけ告げると、拳銃を突きつけたまま、もう何も話そうとはしない、どうやら僕達は、非合法組織の組長の屋敷か事務所に連行られているようだ。
そこで組長とやらと御対面するみたいだ。
僕の隣に座る睦美はこんな状況でも何か楽し気に、こんな状況なのに落ち着いているようだ。
やがて車は目的地に着いたのか、完全に停車して運転手がサイドブレーキをかける。
僕達が座る後部座席のドアが開いて、
「降りてもらおう」
拳銃を突きつける男が僕達にそう告げる。
ドアの外には数人の気配がする。
僕は仕方なく車から降りていく、そこは工場の倉庫、そんな感じの場所だった。
どうやら拉致された僕達は、この場所に監禁されるのだろう、10人ぐらいの男達がそれぞれ刃物や拳銃を構えて、車から降りる僕達を取り囲んでいる。
僕の考えた展開と違うなとぼんやり考えて僕は周囲を見廻す。
そこはやはり人気のない廃工場の倉庫、そんな感じの場所だった。
非合法なことをするのにはおあつらえの場所なのだろう、剣呑な雰囲気の男達の中から一人が歩み出て、
「中に入れ」
僕達にそう命令する。
仕方なく僕達は倉庫の入り口から中に入っていく、倉庫の中は広くてガランとしている。
隅の方に工場で使う資材が、積み上げられてるだけだ。
工場の真ん中にはスーツ姿の一人の男が座っている。
「組長がお前らに聞きたいことがあるそうだ。さっさと歩け」
どうやら一人椅子に座る40代ぐらいの中年の男が、この組織の組長らしい、僕達は促されるままに、組長の前まで歩いて行かされる。
その周りをそれぞれ得物構えた男達が、取り囲むようについてくるのだ。
こんな子供達になぜそれほど警戒するのか、僕達はプロレスラーや相撲取りでもなく、どこにでもいるようなただの子供達なのに、まるで猛獣を警戒するようなそんな雰囲気なのだ。
「じっとしていろ」
男達のうちの一人が僕達にそう命令すると、手錠を取り出して僕の手を拘束する。
もう一人の男が睦美にも手錠をかけている。
こんなもので僕を拘束しても簡単に壊すことができるだろうが、今は素直に言うことを聞いておこうと考える。
拘束された僕達を見て男達は、少し安堵の表情を浮かべる。
「率直に聞くがおまえら能力者か?」
拘束された僕達を見つめて、組長が初めて口を開き聞いてくる。
(この組長は神の器に選ばれた存在の事を知っているのか?)
組長の質問に何故か僕は疑問を感じてしまう、警戒する男達、それが怖れるものは能力なのだろうか?
僕はどう答えたらいいのかわからず、ただ無言で組長を見つめるしかできない、
「斎藤の奴を痛めつけたのはお前だろう、あの猛獣みたいな奴を痛めつけられる奴はめったにいない、一番簡単な答えはおまえらが能力者だということだ。違わないだろう?」
どうやら僕が痛めつけた斎藤が、この組長に連絡してこんな事態になっているんだと認識できる。
「僕がその能力者だったらどうする気なの?」
僕はこれからの状況を組長に逆に聞いてみる。
「従わなければ殺す。従うのなら手駒にしてやる」
どうやら僕達の生殺与奪権を組長は、握っていると考えてるみたいだ。
「手駒にして何をさせるの?」
組長はにやりと笑うと、
「組織だ。この国を裏から支配する組織の手駒となり、その支配をさらに堅実とするために働いてもらう」
なんか急に話が大げさになってきたぞと、思わず僕は可笑しく思う、その時今まで黙って話を聞いていた睦美が、
「あら、そんな組織があるの?初耳ね、それでその組織で働いたらどんな報酬があるのかしら、貴重な能力者をまさかただでこき使うんじゃないでしょ、私たちを手駒にしたいのなら条件付きだわ」
なんか勝手に組長と交渉し始めた。
「金だ。働きに応じてちゃんとした報酬は支払れる。それにちゃんとした施設で飲食も寝床も提供される。さらにその能力に応じて階級も用意される。幹部になれば思いのままふるまえるのだ。悪い話じゃないだろう?」
組長が提案する境遇は、僕にはあまり魅力的には思えない、金などいらないし、飲食も寝床も必要しないからだ。
「あら、それはちょっと魅力的な提案ね、それで私達はどんな事をすればその報酬をもらうことができるのかしら?」
組長は笑いを大きくすると、
「なに、簡単なことだ。世の中には非合法で事を進めなければならない問題も発生する。しかも極秘にな、俺達のような者にも手を出せない問題を解決するには、常識に囚われない存在達を使うのが一番手っ取り早い、だから能力者の存在は重宝されているのだ」
組長のいう組織とやらは、能力者を非合法諜報員にでもしているのだろうか?
「安心しろ収容施設は厳重に警戒されていて、政府の犬共でも手出しはできない、だから安全だ。そこで能力者同士仲良く暮らし、時々、俺達の仕事を手伝ってくれればいいんだ。どうだ魅力的だろ?」
厳重に警戒する?厳重に監視すると言っているようにしか聞こえないだが……
「つまり私達は組織に管理されて、そして非合法な事をするように強要されて、さらに24時間常に監視されるってことなのね」
睦美が僕の考えていることを、代わりに代弁してくれる。
「能力者は我々普通の者には危険すぎる。その力を勝手に使われないように、常に監視して管理する必要がある。その組織が開発した束縛の手錠で常に拘束しておかないとならないのだ」
ん?束縛の手錠ってこの手錠の事かと、僕は両腕をにされた手錠をしげしげと見つめる。
しかしそれは別に特別な力があるようには思えない、単なる普通の手錠にしか見えない。
とりあえず組長は、僕達が組織に入るかここで死ぬかの2択迫っているんだけど、僕には死ぬという選択はできないし、だからっと言って組織に入るのもいい選択だとは思えないから困ってしまう、だから。
「ねえ、どうするの?」
睦美にこの選択を委ねてみようと思う。
「そうね、どうしょうかしら……もうちょっと時間がほしいわね」
時間稼ぎ?それは何のためかはわからないが、とりあえず言われて様にするしかない、僕は両腕を拘束する手錠を力を込めて引いてみる。
僕の怪力が手錠の鎖を難なく引きちぎる。
組長と僕を取り囲む男達が驚嘆の声を漏らす。
「栗原さんはここから離れて」
そう叫んで僕は動く、素早く動いて、僕を取り囲む男達を一人また一人と殴って倒していく、倉庫内に銃声が響き渡る。
何発かの銃弾が僕に命中したみたいだが、僕にはただ何かが触れた、そんな感触しかしない。
僕は疾風の様に動いて、まだ立っている者達を容赦なく床に沈めていく。
いつの間にか倉庫の中には、僕と倉庫の隅に逃げた睦美と、椅子に座る組長以外はみんな床にへたばっている。
僕は床の落ちた拳銃を拾うと、それを組長に突き付けて訪ねてみる。
「組織の事を詳しく知りたいんだけど?」
「……」
驚愕の表情を浮かべた組長は無口だ。
その時、睦美が僕の傍に駆け寄って来て、
「鍵よ、手錠の鍵、そいつが持ってるはずよ」
そう言って僕に催促する。
「鍵を出してくれないかな?」
組長にそう言って僕は左手を差し出す。
組長は仕方なさそうにスーツのポケットから、鍵を取り出して僕に手渡す。
僕はその鍵を睦美に渡してやる。
手錠を外した睦美は僕の腕の手錠の残骸も外してくれる。
「この手錠本当に能力を拘束する力があるみたいね、手錠をされた時能力が半減するような感覚に襲われたの、それで探知の能力だけに力を込めたら、大きな力がこちらに近づいて来るのを感じたの、でもまだ時間はありそうね」
僕達以外の能力者がこちらに向かってきている。それは一体何者ののだろう、それよりも組長に組織の事を聞く時間はまだありそうだ。
「組織の事を教えてくれないかな?」
僕は銃口を組長に向けて再び聞いてみる。
「……」
しかし組長はまだ無口だ。
「これにした方が効果があるかもしれないわ」
睦美は床に落ちた短刀を拾うと、僕に差し出してくる。
僕は拳銃を床に捨てると、短刀に持ち直して組長の首に突き付ける。
「うっ……やめろ、俺は組織の事はあまり知らないんだ……ただ上に指示されて、能力者を見つけたら捕えて報告しろと言われただけだ」
組長はようやく話す気になってくれたみたいだ。
「その上層部に僕達の事を報告したの?」
「いやまだ報告していない、お前たちのような能力者を見つけ出したら、組織から報奨金が出るんだ。ただ俺達は能力者を目にするのは初めてだから、その値打ちを見極めてみようとしただけだ」
どうやら能力者狩りは暴力団の資金源になっているみたいだ。警察も知らないだろうな。
「能力者ってお前みたいな化け物なのか?それを知ってたらこんなことには……」
組長はちょっと僕の気に食わない事をいっているようだ。
「僕は特別製の能力者なんだよ」
だからちょっと怒った振りをしてそう言ってやる。
「冗談じゃねえ、お前が倒した連中、俺の組の精鋭だぞ、それを一瞬で倒すなんて信じられるか」
僕があの連中を倒すまでに使った時間は20秒ぐらいだ。
この組長にはそれが一瞬の出来事のように感じられたららろう、
「それにあの拘束の手錠、あれがあれば能力者は大人しくなると聞かされていたのに、お前は一体何者なんだ?」
組長はあの手錠の効果を過信していたみたいだ。
「あんな物、僕には何も感じられなかったよ」
だから手錠をされた感想を言ってやる。
「信じられん、組織の言うことはガゼだったのか?どうしてこんなことに……」
「僕には神様が味方に付いているんでな」
僕は胸を張って組長にそう言ってやる。
「神様だと、ううっ俺が祈りたい気分だぜ」
「誘拐、拉致監禁するようなやくざの言うことなんか、神様が聞いていると思うのか?」
それに人身売買までするような連中なのだ。
罰が当たって当然のような連中なのだ。
「それを言うならお前だって障害事件の犯人じゃないか、この落とし前をどうしてくれる?」
凶悪な暴力団が警察に申し出るとは思わないけど言ってみる。
「障害事件?いや僕は正当防衛だと思うんだけどね」
「正当防衛だと?過剰防衛じゃないか……」
拳銃や刃物で武装しておいて、手錠に拘束された子供に反撃されて、それを過剰防衛だなんて言って誰が信じるのだろう?
「それじゃあ過剰防衛のついでにおじさんも殺してしまおうかな?」
僕はにこやかに笑い、組長にそう言ってやる。
「うっ!そんなことをしたらお前は刑務所行きだぞ」
組長は自分の置かれた境遇をあまり理解していないようだ。
僕は未成年者で刑務所には行けなくて、行けても少年院なるのになと考えてしまう、
その時今まで黙って話を聞いていた睦美が、
「来たわ」
僕、に能力者の到来を告げる。
倉庫の外で車が止まる音が聞こえ、車のドアが開閉する音が聞こえてくる。
そして倉庫の中に小柄な若い女性が入って来る。
女性は倉庫の中の惨劇を見廻すと、
「あら、もう終わってるの、つまらないわね」
そう言って何故か不服そうだ。
「あなたたちがこいつらを始末したの?」
僕達にそう聞いてくる。
「私は見ていただけよ」
睦美は自分の境遇をそう申し開きするが僕は立場を失う、だから、
「正当防衛です」
そう自分の無実を主張してみる。
女性は微笑みながら、
「ええ、正当防衛ね、そしてこれも」
女性は素早く上着に手を入れ拳銃を手にして発砲する。
組長が椅子ごと倒れ動かなくなる。
組長の手には拳銃が握られている。
隙をついて発砲して逃げようと考えていたらしい、
どうやら組長との楽しいお喋りタイムも終わりになってしまったようだ。
「ゴミの始末は終わったわ、屑共の片付けは部下共に任せるか、ちょっと持っててね」
女性はそう言うと携帯を取り出して電話をかけ始める。
「私よ、見ていたでしょ、至急応援をよこしてちょうだい、それじゃ」
そう言って通話を終えて携帯をしまい込む、そして、
「それにしても派手にやったわね、あなた一人で片づけたってわけね」
そう僕に聞いて来る。
「いや、拳銃や刃物で脅され仕方なく抵抗したんです。正当防衛なんですよ」
僕はもう一度自分の無実を主張する。
女性は微笑むと、
「安心して、この事件は警察は関与しないから、大丈夫よ」
そう言いながら床に散らばる拳銃や小刀を回収している。
「手加減しなっかったから、殺してしまっているかもしれないけど」
僕がそう言うと女性は一人の男の状態を確認すると、
「あら、生存者は無しって報告するから大丈夫よ」
そう言って一人の男の頭を拳銃で打ち抜く、
僕達はその様子を呆然と見ている事しかできなかった。
倒れている男達の状態を確認して、殺して回っているこの人は一体何者なのだろう、
拳銃を携帯し殺人を躊躇なく実行する。その行為は警察の関係者とは思えない、
「屑共は全部片づけたわ、これで落ち着いて話ができるわね」
女性はそう言うと僕達の傍まで歩んでくる。
「警察の人じゃないの?」
僕の疑問に女性は微笑むと、
「この件には警察は不介入よ、だから安心してね、私は篠原明美、JNH、日本能力者保護機構のエージェント、JNHは能力者であるあなた達を保護する義務があるわ、でもそれわ強制ではないのよ、今日の事を忘れるのなら家に帰ってもいいのよ、でも私達は保護の義務があるから、あなた達を監視する必要があるけどね」
篠原さんはなんか国家の重大機密的な事を言っているけど理解できない、
「JNHって言う組織があるなんて聞いたことがない、新聞にもテレビでもネットでも見たことも聞いた事もない、能力者の保護監視って一体何をするのかわからない?」
ぼくは疑問に思うことを率直に聞いてみる。
「能力者の存在は国の最高機密よ漏洩は厳重に管理されてるわ、だから一般人は誰もそのことを知らないわ、この国の総理大臣すら知らない組織なのよ、能力者が管理運営している組織なのよ、能力者の為の能力者の組織、それがJNH、もし保護を求めるのなら私達があなた達の力になるわ」
どうやらJNHとかいう組織は最高機密を超えた超機密組織みたいだ。
でもこの篠原さんはそんな重要な機密を、僕達に話してしまっても大丈夫なのか?
「もし僕達が家に帰ってJNHとかいう組織の事を誰かに話したらどうなるの?」
「そんなことを話して信じてくれる人がいればいいんだけどね、それはどこの被害妄想だと誰も取り合ってくれないでしょうね」
確かに僕自身が能力を得る前に、こんな話を聞いても誰も信ないと思うだろう、
「JNHはあなた達を歓迎するわ、あなた達の家族にも迷惑はかけないと約束するわ、うっ!ちょっとまってね」
篠原さんの携帯が小刻みに振動して着信を伝えている。
「えっ、警察に気づかれたって、何やってんのよ!さっさと妨害工作しなさいよ、使えないわね」
篠原さんは通話の内容から察して不機嫌みたいだ。
「わかったわ、いったん保護します。緊急要綱第一号発動ね」
篠原さんは通話を終えると、
「ごめんなさい、状況が変わってしまったのよ、この場はうちで抑えるから、今から一緒に来てくれるかな?」
どうやら一緒に行かないと篠原さんが困るみたいだ。
僕は睦美に聞いてみる。
「ねえ、どうする?」
「私は行ってもいいとおもうけど、なんか楽しそうだし」
睦美さんは乗り気らしい、
「詳しいことは車内で話すとして、ここをすぐに離れましょう」
そう言うと篠原さんは倉庫の入り口に向かい歩き始める。
どうやらもう僕の選択の余地はないみたいだ。
仕方なく僕達もその後ろの続いて歩き始める。
倉庫の外には男達が乗ってきた車以外に、スポーツカーそう言える自動車が止めてある。
「後部座席は狭いけど我慢してね」
車のドア開けて篠原さんは助手席のシートを倒して、僕達に乗り込むように促す。
篠原さんは僕達が後部座席に乗り込んだことを確認すると、ドアを閉め運転席に乗り込む、
「ちょっと飛ばすけど我慢してね」
そしてスポーツカーのエンジンを掛ける。自動車はタイヤを鳴らして加速していくいく、
夜の街に白いスポーツカーが疾走する。
こうして僕達はJNHという組織に保護されることになってしまった。
これから向かう先にはどんなことが待ち受けているのだろうか?
それは神様だけが知っている。
二転三転する状況はいったい僕にを求めているのか、そんなやりきれない気分に僕はこの状況を呑み込めなままに、これが試練というものかと考える。しかしそれにだけに何故か納得できないものを感じて、僕は疾走するスポーツカーの中で、初めて自分の神様を呪うのであった。