第七話 「ノア5歳」
よく考えたら主人公毎回意識失ってますね。
部屋を燃やした日から数年の時が経ち、俺は5歳になっていた。
「おはようございますノア様」
そう言って入ってきたのはアーシャの侍女であったマリナだ。
過去形なのは現在マリナは俺専属の侍女になったからである。
結局あの日の夜に俺が魔法を使えるということが完全にバレてしまい、それも部屋を半壊できるほどの規模となると流石に一人には出来ないと、監視兼付き人役として魔法の腕が立つマリナが宛てがわれた。
「おはようマリナ」
朝の挨拶を言いながら眠気眼を擦りながらモゾモゾとベッドで上体を起こす。
監視が付いたからといって俺は魔法の訓練を止めた訳ではない。
要は魔力を使い切ればいいのだから体内の魔力を放出しきって強引に魔力枯渇を起こしているのだ。
ただ魔力を放出するだけではもったいないので、形を変えてみたり属性を変えてみたりと色々と試した。
それにより魔力操作の技術は向上し、様々なことができるようになった。
まずは放出した魔力の形状を変えること。
今までは体内でしか動かせなかった魔力も、繋がってさえいれば体外にある魔力も操る事ができるようになった。
次に魔力の密度を変えること。
魔力を圧縮することによって高濃度の魔力を発生させることができるようになった。
濃度が濃くなるとどうなるかというと、魔法の威力が上がる。
魔力を圧縮したものなので圧縮率にもよるが同じ大きさの魔法でもこちらのほうが圧倒的に威力が高い。要は範囲を絞って言ってん集中型の魔法が使えるようになったという訳だ。
ただし圧縮しただけであって魔力の量は変わらないので消費する魔力量は普通に魔法を使うのと対して差はない。
そしてこれが一番重要なのだが、魔力の密度を極限まで圧縮すると魔力を物理的に障れるようになるのである。
つまり、極限まで圧縮した魔力を形状変化させることによって遠くのものを引き寄せたり、固めた魔力をそのままぶつけることもできるようになったのだ。
マリナに布団から起こされ鏡の前まで連れて行かれる。
「それでは脱がせてまいりますね」
マリナは俺の正面に屈むと寝巻きのボタンを外していく。上着を剥がれ、ズボンも脱がされると下着姿にされてしまった。
突然そんなことをされても俺もマリナもお互いに平然としている。
ただ着替えを手伝ってもらっているだけなので当たり前だ。
確かに始めの頃は恥ずかしくて自分でやるからと断っていたが「着替えのお手伝いも侍女の仕事ですので」と頑なに着替えさせようとしてくるので終いには俺のほうが折れた。
俺の正面の鏡にはそんなマリナの後ろ姿と寝起きでボケーとした締まりのない顔の俺が写っている。
そんな俺の容姿は当たり前だが田中だった俺の面影は微塵もなく、幼くも整った顔をした愛らしい少年が写っていた。
美男美女の両親のおかげで端整な顔立ちだが、何故か母親の面影を強く残し、少女と言われても違和感が無いほど女顔だ。
更に肩口で切り揃えられた銀糸の様な光に反射してきらめくサラサラな銀髪が少女らしさを助長している。
父のような赤でも母のような金でもない銀色の髪。
両親のどちらでもない色の髪を、最初は気味悪がられるかと心配したが、アーシャもヨセフもマリナも女神に祝福された子だとむしろ喜んでおり、いささか拍子抜けしてしまった。
「ん? マリナ、いつもの服と違うみたいだけど今日は何かあるの?」
マリナがジャケットを着せたとき、いつもと洋服が違うことに気づいた。
いつもよりも仕立てがよく生まれ変わってから初めて着る余所行き用の服装だ。
「はい、ノア様は5歳になりましたので近々洗礼の義が行われますので、今日は奥様、アレン様、エミリア様と共に王都へ参ります」
洗礼の義というのは5歳になった子供が教会へ行い女神様の祝福を受けるという行事だ。
そういえばエミリアが5歳になった時もアーシャに抱かれてそのような場所に行った記憶がある。
洗礼を受けるとどうなるのかというと自分の使える魔法やスキルなどが分かるようになるらしい。
いわゆるステータスという奴だ。
何故5歳になったらなのかは分からないが、マリナから聞いた話だと余りにも幼いうちに洗礼を受けてしまうと魔法やスキルが覚えにくくなるというジンクスが昔から有り、それが今まで続いているのだとか。
着替え終わりマリナにお礼を言うと朝食のため食堂へと向かう。
食堂までの廊下を歩いていると、生まれたての頃アーシャやマリナに抱かれてしか見れなかった場所を、自分の足で自由に歩き回ることができるようになり謎の感慨を覚える。
やがて食堂の前に着くとマリナが扉を開けてくれる。
先導に従って中へ入るとアーシャ達は既に席に着いていた。
「おはよございます母様」
と挨拶をすると。
「ええ、おはようノアちゃん」
「おはようノア」
「遅いわよノア!!」
と挨拶を返してくれる。
「それよりノアちゃん、今日の予定は聞いてるかしら?」
自分の席に着くとアーシャが問いかけてくる。
「はい、先程マリナから聞きました」
「それならいいわ。朝食を終えたらすぐに出るから準備してね」
いただきますと挨拶をすると談笑しながら朝食を取る。
ステータスか、俺も魔法を使えるようになって間もない頃、どうにかして見れないかと試行錯誤したが結局見ることは叶わなかった。
それをやっと今日見ることができる。
俺はまだ見ぬステータスに心を躍らせながら、楽しい長女区の時間を過ごした。
お読みいただきありがとうございます。
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