第六話 「失敗」
あの後、エミリアは魔法の授業を終えて直ぐに泣き疲れて眠ってしまった。
アーシャやマリナでさえ驚く規模の魔法が目の前で暴走したのだ、四歳のエミリアが感じた恐怖は相当なものだっただろう。
このことが原因で魔法が使えなくなるなんてことにはならないで欲しいが、こればっかりは本人の気持ち次第なので俺に同行できる話ではない。
メンタルのケアは大人の二人に任せる他ないだろう。
それはともかく、マリナにはエミリアの魔法を止めたのが俺だということが完全にバレてしまったらしい。
どうやらマリナも魔力を見ることができる何かしらのスキルを持っているらしい。
俺が持っている時点で誰でも覚えられる可能性があることを見落としていた。
アーシャは「さすがは私の息子ね!!」と能天気な事を言っているが、あれからマリナが事あるごとに俺を観察するような目で見てくるのがなんとも居心地が悪い。
まあこうなること覚悟で魔法を使ったのだから後悔はしていない。
エミリアの命に比べれば俺が魔法が使えることがバレることなど些細な事、いずれ魔法を使うようになれば俺の力は嫌でも知られることになるだろう。それが少し早く知られただけだ。
しかし、俺の情報が家の外に漏れた時、俺の力目当てで近寄ってくる輩が出てくるかも知られない。
その時の為に対抗する力をつけなければいけない。
と、言うことで毎晩恒例の魔法の訓練の時間です。
ただし今日はいつもよりも遅めの時間だ。
理由はマリナの監視が厳しく、さっきまで部屋の外から監視されている気配がしていたからだ。
俺は壁越しに魔力の反応でそれを察知していて、今やっと解放されたのである。
早速魔力を感じてみると、昼間風属性に変換したため緑色の魔力になっている。
だが、それとは別に透明な魔力も少量だが感じられた。
一度属性を変換した魔力は透明には戻らないが、回復した魔力は透明らしい。
その透明な魔力の部分に今回は風属性ではなく水属性をイメージして魔力操作を行う。
最初はなかなか手応えが掴めなかったが、徐々に魔力の色が透明から青へ変わっていった。
透明な魔力がなくなっても青い魔力の侵食は続き、次第に緑の魔力も飲み込んでいった。
これは嬉しい誤算で、一度属性を変換した魔力も別の魔力に変換できるらしい。
ただしノーリスクというわけではなくてほかの色が付いた魔力をちがう属性の魔力に変換するのには多少抵抗があり、変換した魔力も純粋な色ではなく多少劣化した色になっている。
俺は水色の魔力を右手から体外へ放出するイメージをして昼間アレンが使った水球の魔法を思い浮かべる。
体外へ放出された魔力は想像通り水へと変換され、俺の目の前には俺の体よりも大きな水球ができた。
手加減したにも関わらずアレンの水球よりも大きいのはひとえに魔力量の違いからだろう。
しかしここで問題が発生する。
予想以上に大きくなってしまったために処理の仕方が思いつかないのだ。
当初の予定では少しの量の水を発生させ、床にでもばらまいておけば明日には乾くだろうと考えていたのだが、この大きさの水球では同じ手は使えないだろう。
と、いろいろ考えていたのだが、思ったよりも水球を維持するのが難しい。
早くどうにかしないと抑えきれない。
やばいやばいやばい。このままでは昼間のエミリアと同じ目に遭ってしまう。
どうにかして水球を消さないと。
しかしここでタイムアップ。
バシャンと音を立てて水球は破裂した。
幸いそれほどの爆発力はなく、水風船が破裂した程度の衝撃だったが、大きさが大きさだった。
俺は頭から水を浴びてしまい俺のベッドの周囲は大洪水だ。
この時の俺は魔法を暴走させてしまったこと、大量の水を急に浴びて溺れかけたことでパニックに陥っており早くどうにかしないとと正常な判断ができず、最悪の手段に出ていまう。
水を処理するにはど押したらよいか。
布で拭けば良い。そんなに大きな布はない。
外へ掃き出せば良い。動けないのにどうやって?
--なら乾燥させてしまえばいい。
俺は青い水魔力を変換させ赤の火属性に変換する。
そう、屋敷内では絶対に使ってはいけない火属性の魔法をつかてしまったのだ。
俺は右手から魔力を放出し、炎の球を作り出す。
それを周囲に複数浮かべるとジュウウゥゥゥウウという音とともに部屋の水が蒸発していった。
部屋の気温がグンと上がったが水を処理できてホッと安堵のため息を漏らす、だが鼻につく焦げ臭い匂いに気づき頬を引きつらせた。
案の定俺の発生させた炎は水を蒸発させただけには留まらず、燃えやすいカーテンや絨毯に燃え移った。
慌てて魔力の供給を止めたことで炎の球は消失するが、燃え広がった炎までは消えてくれない。
もう一度水魔法で炎を消そうと思ったが、水が炎に触れた瞬間ジュワッ!! と蒸発し、その熱気が俺を襲う。
水ではダメだと別の手を考える。
次は魔力を土属性の茶色へと変換させ、放出した魔力から砂を発生させる。
今度はうまくいったようで、なんとか沈下することに成功した。
しかし当然ボヤ騒ぎなんて起こせば誰かしら跳んでくるわけで……。
「ノアちゃん大丈夫!?」
「ノア様ご無事ですか!?」
とアーシャとマリナが必死な形相で飛び込んできた。
そんな二人に申し訳ないという気持ちが起こるが、危機が去った安堵と魔力枯渇の気だるさに襲われ、俺は意識を手放した。
なかなか話が進まない……。
プロットもなしに行きあたりばったりで書いているので仕方ないのですが。
ですが次回でノア君は少し成長しますのでお楽しみに!!
次回更新は7/19 14:00の予定です。




