第五話 「兄と姉の実力」
翌朝、魔力の反応を探ってみるとその量は更に増しており、昨日の訓練時と同様に魔力の色は透明に戻っていた。
俺の予想が正しければ今夜の訓練の時面白いことが出来そうだ。
それはそうと、今日は天気がいいので庭に出てきている。
出てきているとは言っても俺はカゴに車輪をつけたベビーカー的な物に乗せられ木陰でアレン達がの様子を見ているだけだが。
そのアレン達だが、今日はなんと魔法の練習をするらしい。
講師役はマリナだ。
二人共魔法は使えるようで同年代の中では二人共ずば抜けて優秀らしい。
まあ俺の方が魔力量は多いんだけど。
ちなみに属性は先日感じた魔力の色のとおりアレンは水でエミリアは火らしい。
「ではアレン様、ウォータボールの呪文は覚えておりますね?」
「はい! 大丈夫です!」
どうやらまずはアレンが魔法を使うようだ。
やはり呪文の詠唱はあるらしい。俺はなくても使えるけど。そもそも言葉しゃべれないし。
「清浄なる水よ、我が魔力を糧に敵を穿て!」
アレンが詠唱を開始すると魔力の動きが変わる。
アレンの体内で緩やかに蠢いていた魔力源は渦を巻くように段々と動きを早くしていき、体の中を伝って構えられた右手から徐々に体外へ放出される。
青い魔力は体外に出ると水へと変化し、構えられた右手の前で停止し、ボーリングの球程度の大きさの水の塊になった。
「水球!」
アレンが魔法名を唱えるのと同時に勢いよく発射される水球。
その威力は衰えることなく20mほど離れた位置にある石の的に当たると霧散した。
よく見ると水球の当たったあたりの石が欠けていた。
「よく出来ましたアレン様」
その様子を後方から見守っていたマリナがアレンへねぎらいの言葉をかける。
肩で息をしていたアレンはその言葉に振り返るとニッと無邪気な笑顔を見せた。
「つぎはわたしね!!」
待ちきれないとばかりにエミリアがアレンの前に出ると、間も無く詠唱を開始した。
「しゃくねつのほのおよ、わがまりょくをかてにてきをやきつくせ!」
エミリアが詠唱を開始すると先ほどのアレンと同様に魔力源の動きが活性化し、構えられた右手へ向け流れ始める。
「!?」
それを見ていたマリナの表情が険しくなる。
俺の近くで一緒に見学していたアーシャも同様に表情が硬い。
その理由は俺にもわかった。
エミリアの手に集まる魔力の量が異常な方ど多いからだ。
それはエミリアの意図した事ではないようで、エミリアはどこか苦しそうな顔をしている。
それでも魔力を込め続けるエミリア。このまま魔法を発動すれば間違いなく暴発するだろう。
そうなれば至近距離にいるエミリアはタダでは済まない。
「いけませんエミリア様!!」
「火球!!」
すかさず止めに入ったマリナだが、その静止の声は聞こえていないようでエミリアは魔法を発動する。
となりではアーシャが何やら魔法を詠唱していたが間に合わないだろう。それは本人もわかっているのか苦々しい表情をしている。
--やれやれ、バレる可能性があるのでなるべく手を出したくはなかったが姉の命が掛かっているなら話は別だ。
俺は瞬時に自分の魔力を風属性に変える。
俺がしたことが分かったのかマリナがこちらを驚愕の表情で見ている。
そうこうしている内にエミリアの魔法は発現し、エミリアの目の前にこれもボーリング球程度の大きさの火球が現れる。
しかしアレンの魔法とは違い、火球は発射されることなくその場で収縮し、ビー玉サイズまで縮んだ。
「エミリアァァァァアア!!」
アーシャの悲痛な叫び声が鼓膜を揺さぶる。
大丈夫だよ母さん。俺が止めるから。
エミリアの魔法が暴走する。
ビー玉サイズまで縮んだ火球は急激に膨張し、術者のエミリアさえも飲み込まんとするが、それは現実にはならなかった。
俺の魔法の発動と同時に巨大化した火球はボシュン!! という音を立てて跡形もなく消え去った。
誰もがその光景に唖然とする。
まるで夢だったのではないかと思うが、先程よりも上昇した気温が先程までそこに熱源帯があったのだと如実に語っている。
「ノア様?」
いちはやく原因に思い至り、意識を取り戻したマリナは俺へと視線を向ける。
俺は狸寝入りを決め誤魔化した。
エミリアの魔法を消した方法は簡単だ。
魔法であれ炎は炎だ。炎は燃料と酸素がなければ燃えない。
俺の放った魔法の属性は風属性だ。魔法で空気を動かし炎の周りに真空状態を作り炎が燃え広がらないようにした。酸素の無い空間では炎は燃えず、その範囲を縮めることで握り締めるように炎を消したのである。
いくら不発に終わったとは言え至近距離で魔法が暴走したのを目の当たりにしたエミリアが心配なため、魔法の授業はお開きとなった。
次回更新は7/1814:00です。




