第四話 「父」
--チュンチュン
またもや鳥の囀りで目が覚める。
しかし昨日とは違い、今は朝8時を回った頃だ。
寝ていた時間は同じくらいだが、昨日は少し早い時間に始めたため今日はちゃんと朝に起きれたようだ。
そして今日も魔力の郎が増えたことを実感する。しかも昨日よりもさらに増加量が大きい。
昨日の2倍はありそうだ。
魔力を使い切ると元の魔力の倍になるのだろうか?
そうであったら今頃世界中の人達の魔力量は大変なことになっているだろう。
大人であるアーシャの魔力よりもマリナの魔力のほうが大きい為、魔力の増加量は練習法や個人の資質に関係してくるのではないか。
もしくは幼い時の方が魔力が成長しやすいという可能性もある。
どちらにせよ俺にとっては嬉しい事だ。
0歳児である今の時点で俺の魔力量はアーシャを超えているのではないだろうか。
この先数年も訓練を続けておけば大人になる頃には世界で並ぶ者の無いほど強大な魔力になっているだろう。
そんなことを考えてニヤニヤしていると、ドアがノックされる。
どうやらアーシャが授乳に来たようだ。
「あら、今日はちゃんと起きられたのね~」
予想通りのほほんとした口調でアーシャが現れた。
が、どうやら一人ではないらしい。
侍女のマリナがついて来ているのは当たり前だが、感じたことのない魔力がアーシャとマリナの後に続く。
警戒しながら扉越しに視線を向けていると、その視線に気がついたアーシャは一瞬驚いたような顔をするがすぐにその表情は微笑みへ変わり、扉の外の人物へ声をかけた。
「ふふふ。あなた、ノアちゃんにはバレてるみただから早く入っていらっしゃい」
アーシャに声をかけられ、ドアの外に居る人物の魔力の揺らぎが見える。
昨日はそんな細かいことまで気がつかなったが、昨日の訓練の成果か、さらに魔力を感知する力に磨きがかかったようだ。
魔力の揺らぎが困惑を物語っているが、その人物は意を決したかのようにゆっくりと扉を開け中に入ってきた。
入ってきたのは燃えるように赤い色をした髪の美丈夫だ。
身長は180cmほどだろうか? 細身だが引き締まった身体にはしっかりと筋肉がついており、長身で細身でありながらヒョロヒョロとした印象は受けない。
初対面のはずだが、どこかで見たことのあるような錯覚にとらわれるが、男性の次の言葉でその謎は氷解した。
「気配を隠蔽してたのに気づかれていたか。流石は俺の息子だ!! 将来は大物になるぞ!!」
どうやらこの赤髪の美丈夫は今世の俺の父、ヨセム=ハーストンだったようだ。
どうりで見たことがあるはずである。
昼間はよくアーシャに抱かれて散歩に出るのだが、エントランスには当代当主の絵画が飾られているのを見たことがあった。
それに息子のアレンと何処か雰囲気が似ている。目元なんてそっくりだ。
そして一番気になるところだが、ヨセフの見た目はどう見ても20代前半にしか見えない。
アーシャの年齢から恐らくは同じくらいのはずなのに。
どうしてこの夫婦はこんなにも若々しいのだろうか?
父の紹介が済んだところで、今日は授乳の後ヨセフが最近何をしていたか近況の報告を聞いた。
ヨセフはディルニア帝国との国境にある砦に駐在していたが、近々王都で催される王女様の誕生式典で警護する任務を受け、王都に帰還する途中で近隣まで来ていたため足を伸ばして一度帰宅したらしい。
最も任務の途中であるため夜には出発してしまうのだとか。それを聞いたアーシャはとても悲しそうな顔をしたが、それを見たヨセフがアーシャを抱きしめ何事かを囁くととたんに機嫌を直しいちゃつき始めた。
他にはヨセフの武勇伝を延々と聞かされる羽目にあった。
やれ初陣では敵の大将首を討ち取っただとか、戦争で不利になったとき10人で殿を努め1000人の大軍を押し返したやら。
挙句の果てには一周回って同じ話をし始めたので、俺が愚図って話を止めた。
ただ、聞いていた話の中にこれからの訓練に有用そうな情報もいくつかあったため、ヨセフの自慢話も全くの無駄だったわけではなかった。
夜になりヨセフを見送った後は就寝時間になる。
もちろん直ぐに寝る訳はなく、日課の訓練を始めた。しかし訓練を始めた直後に異変を感じとる。
昨日の訓練時に俺の魔力は確かに風属性の緑色をしていたが、今日はまた透明な魔力に戻ってしまっている。
俺の適性は風属性ではなかったのだろうか。
再び風属性をイメージして魔力に集中すると昨日と同じく魔力は緑色に変化した。
その魔力を使って魔法を行使すると昨日と同じく問題なく魔法は発動し、安堵にため息をこぼす。
魔力が透明に戻ったからといって風属性の魔法が使えなくなったわけではなかったようだ。
その時俺はあることを思いついた。
しかし今日はそのことを試すことはできないようなので、昨日と同じく限界まで風魔法を使い、魔力枯渇の気怠さを感じながら眠りに就いた。
次回更新は7/17 14:00です




