第二話 「新しい人生」
俺が異世界に転生したと発覚してから一週間が過ぎた。
その間いろいろな話を聞いていたことで俺を取り巻く現状をあらかた把握することができた。
まず、俺の名前はノア=ハーストンと言い、ハーストン伯爵家と言う貴族の子供らしい。
ハーストン伯爵とは俺が住んでいる国、イシスベーラ王国の貴族の一つだ。
俺に母乳をくれた金髪の女性が俺の母親であるアーシャ=ハーストン。黒髪のメイドさんはハーストン家に使えている侍女でマリナという。
父の顔はまだ見たことはないがヨセム=ハーストンと言いハーストン家当主でイシスベーラ王国の正規軍、白翼騎士団の団長を勤めている。
俺には兄と姉が居るようで、長男が今年8歳になるアレン=ハーストン、長女が今年4歳になるエミリア=ハーストンという。このふたりはよく俺の寝床へ来るが、見た感じアレンは大人しく兄弟を大切にしている優しいお兄ちゃん。エミリアは活発なおてんば少女といった印象だ。
そうなると三児の母であるアーシャの年齢が気になるが、どうやら今年で29歳になるらしい。
それを聞いたときは誤って授乳中アーシャの乳に歯を立ててしまうほど驚いた。
ちなみにアーシャより年上に見えるマリナは18歳らしい。これは決してマリナが老けて見えるのではなくアーシャの見た目が幼すぎるだけだ。
そして重要なのはこの世界にはスキルや魔法が存在するらしい。
お約束としては当然だが、初めて魔法をこの目で見たときは感動していつもより多くアーシャの乳に貪り付いたものだ。
それで、これからの目標をどうするかだが、魔法や剣を極めるのはもちろん。前世では友達もいなければ恋人もいなかった俺は今度こそ人との関わりを大切にしていきたいと思っている。
しかし、魔法やスキルに関してだが、やはり適正というものは存在するようで、適性のない魔法は使えないらしい。
まあ、俺ならなんとなくできる気がするけど。
目標も決まったことだし早速行動に出ようと思うが、生後半年にも満たない赤ん坊のやれることなどたかがしれている。
そこでまずは動かなくてもできる転生ものの定番である魔力を扱う訓練を開始した。
まずは自分の中にある魔力を見つけられなければ話にならない。
この世界では誰でも少量は魔力を持っており、それを利用した魔道具という便利な道具が生活に浸透しているらしい。
魔道具と言っても、攻撃的な魔法が出るものから冷蔵庫などの家電のような役割をするものに加え、ライターのような雑貨まで幅広い種類がある。
そのため、中世的な世界でも現代にも劣らない生活水準が保たれている。
これには正直助かっていて、もし汲み取り式の便所や冷暖房が使えない生活になっていたらと思うとぞっとする。
技術が進み何不自由なく暮らしていた現代っ子としては田舎暮らしでさえ辛かった。
閑話休題。
つまり俺の中にも魔力というものが少なからずあるはずなのだ。
たとえ少量だったとしても生後数ヶ月の赤ん坊の頃から鍛え始めれば大きくなる頃には莫大な魔力になっていることだろう。
俺は早速自分の体内へと意識を集中し、魔力を探し始めた。
ただ闇雲に探しても効率が悪い。こういうものは丹田--つまり腹の下らへんにあると相場が決まっているのだ。
案の定、数分もしないうちに魔力らしきエネルギーが丹田で渦巻いているのが感じられた。
今度はその魔力をどうにか動かせないか試してみる。
これも簡単に動かすことができた。体内で捏ねるように動かすと、ある程度形を決めることもできるようだ。
今度はその魔力を体外へ放出してみる。
一度移動させた魔力を手に集中させ、毛穴から細かい霧状に排出してみると手の先から透明なモヤが立ち上るのが見えた。
ただ体から放出するだけでは魔法は発動しないようで、今度は風をイメージしながら魔力を放出してみる。
なぜ風をチョイスしたかというと、火だと燃え移る可能性があるし、水や土では汚れてしまうので証拠が残らない風を選んだ。
が、今度は先程とは違い、なかなか魔法は発動しない。
魔力が足りないのか、詠唱など決まった文言が必要なのかはわからないが、色々と試行錯誤して魔法を発動させようとする。
「あぅ?」
30分ほどそれを続けていると急に体が重くなり魔力が出せなくなってしまった。
丹田にある魔力源に意識を集中してみると、先程までソフトボールほどの大きさはあった魔力源は豆粒ほどしか無くなっていた。
あぁ、これが魔力枯渇ってやつかと理解したとたん、意識は闇に飲まれていった。




