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第一話 「転生」

(うぅ……)


 網膜を刺すような光に呻きながら意識を覚醒させる。

 ここはどこだろう。

 薄目を開けて周囲を観察する。事故にあったのだからここは病院なのだろうが、この部屋に置いてある家具や豪華な絵画がそれは違うと語っている。

 それに一人部屋にしては広いし、病院に置いてあるような医療機器は何一つ見当たらない。

 寝っ転がった状態ではこれ以上の情報は得られないと思い上半身を起こそうとするが身体をうまく動かすことができない。

 俺の脳裏に最悪な想像がよぎる。

 もしかすると事故で負った傷により全身不随になってしまったのではないか。それにしては動きは鈍いがちゃんと感覚はあるし、思ったよりは深刻ではないのかもしれない。

 

 いろいろ考えていると、空腹感を覚える。よくよく考えると夜中まで仕事をしていたため夕飯を食いはぐれていることを思い出した。

 とりあえず誰かを予防かと思ったが病院ではないためナースコールなどは見当たらない。

 仕方ないので近くに人がいるかは分からないが大声で読んでみることにした。


「あえあ、あうあうあ~(誰かいませんか~!?)」


 するとどこからか赤ん坊の発したような声が聞こえた。……いや、本当は気が付いてはいたが認めたくないため心がそれを否定していた。

 確認のためもう一度声を出してみる。


「あうあうあぁ」


 今度は聞き間違いようがない。

 その声は間違いなく俺が発したものだった。

 まさか声帯にまで後遺症があるのかと考えたがそれにしては発された声は幼く、声変わり下成人男性のものとは到底思えない。


 そんな考えを巡らせていると廊下からパタパタと複数の足音が聞こえてきた。

 やがてその足音は俺のいる部屋の前まで来ると止まり軽いノックの後ギギィと軋む音を立てながらゆっくりと扉が開き、二人の女性が部屋に入ってきた。


 その二人を見て思わず惚けてしまう。

 一人は腰まで伸びる黄金色の髪をした10代後半の女性。その顔立ちは大変整っているが美しいや綺麗というよりも可愛いといった感想だ。

 胸はそこまで大きくはないが均整のとれたプロポーションをしている。

 もうひとりの女性は一人目の女性よりもいささか年嵩に見える。つややかな黒い髪を後頭部でふんわりと結わう所謂シニヨンという髪型をしていた。

 身長は一人目の女性よりも高いが、悲しいこと位に女性の象徴は悲しいほどにペッタンコだ。

 そんな彼女だが興味を引く服装をしていた。

 足首までしっかり隠す真っ黒なワンピースにエプロンをかけている。第一印象はメイドさんだ。

 それも秋葉系の妙にフリルのついたいやらしいメイド服ではなく、作業をするのに最適な実用的なメイド服だ。

 また金髪の女性の一歩後を行くその姿はまさに主従といった関係と見れる。


「あらあら、ノアちゃんどうしたの~?」


 二人に見とれていると金髪の女性が妙に間延びした口調で話しかけてきたがノアとはなんだろうか?

 人の名前だと思うがそれが黒髪の女性の事なら俺の方に話しかけてくるのはおかしい。


「奥様、ノア様はお腹が減っているのかと」


 考えていると後ろに控えたメイドさんが金髪の女性に考えを告げた。


「まあ、それじゃあ直ぐにご飯をあげましょう」


 そう言うやいなや金髪の女性はベッドで横になている俺へと両手を伸ばす。

 何をするのか訝しげに見ていると、金髪の女性はあろう事か軽々と俺のことを抱き抱えてしまった。


「あう!?」


 突然のことに素っ頓狂な声を上げてしまうがそんなことに構わず金髪の女性はおもむろに肩をはだけさせると形の整った乳房をさらけ出した。

 金髪の女性の唐突な行動にもメイドさんはさも当たり前のように後ろに控えている。女性の胸を見るその目がいささか憎々しげだが……。


 抱え上げられたことによってさっきまで見えなかった部屋を見わたすことができるようになった。

 其の中で部屋の隅に大きな鏡が立てかけてあるのが目に入る。

 その中に映るのは3人の姿。

 メイドの女性、金髪の女性、そして女性に抱き抱えられている赤ん坊。


 その姿を見てようやく俺は理解した。

 俺、赤ん坊になってる。


 余りにも非現実な現状だが、薄々勘付いていた俺はそこまで取り乱すことはなかった。

 生前にそのような題材の小説を少なくない数読んできた俺は、今俺に起こっていることを理解した。

 つまり異世界転生。


 そうと決まれば俺のやることは決まっている。


「あん♪」


 俺は勢いよく金髪の女性の胸に激しく吸い付いた。


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