第5.5話 誠一視点:制服販売
俺の名前は暁誠一。自分で言うのもなんだが、極普通の高校生だ。
俺は今日幼なじみの綾音の荷物運びとして一緒に制服販売に来ている。
ただ、制服販売と言っても実際は事前に申し込んであるためその場でやるのは最低限の試着くらいだ。そのため何故俺を呼んだのか全く分からない。
昨日の夜、いきなり「明日制服販売行くから! 一緒に来て!」と送られて来たので、
制服を取りにいくだけなのに俺はいらないと思う、しかも一緒の高校に入ったことだし彼氏とかなんだとか噂がたったら嫌だろと普通の事を言ったら、
「うるさい馬鹿! 黙って荷物持ちしてて!」と罵られた。理不尽だ。
まあ自分も制服を取っていなかったのでいい機会ではあったのだが…
そんなわけで、販売に来ている俺と言う訳である。
倉庫の中に大量にあるらしい女子の制服とは違い、人数が少ない男子のはすぐ店員さんが持ってきてくれた。
「先に試着するからー」
一応声はかけたが聞いていないのか反応はなかったので試着室で上着だけ脱いでブレザーを着てみる。
……んー、少しだけ袖が短いかな? 分かんないから綾音に見てもらおう。
「綾音ー、これサイズ合ってる……?」
「きゃっ!」
「うわっ!?」
カーテンを開けたらすぐ目の前に綾音がいて凄く驚いた。
「なんでここにいるの?」
「よ、呼ばれたから来たんだけど!?」
「いや、呼ぶ前からそこにいたよね?」
「はあっ!? 何言ってんの!?」
「まさか覗いてた……なんて。」
さすがにイケメンならともかく、俺の半裸とか需要なんてあるわけないよね。
なんて自説を否定していると、
バシンッ!
「いたっ?!」
「うるさい変態っ! こっちみんな!」
「なんでそんなキレるんだよ……」
それは変な疑いかけて悪かったけど、顔真っ赤にしてバッグ投げつけられるほど何か悪いことした訳じゃないのに……
◆―――◆ ◆―――◆ ◆―――◆ ◆―――◆
「覗かないでよ?」
「誰がのぞくか!」
そのまま冤罪だと叫んだがすべて無視された。というか確かに覗かれたと疑ったがそもそもそれだと俺が被害者なのだが。
「失礼しまーす、制服の受け取りに来ました……」
入り口で体育会系風挨拶をする誰か。見た目年齢は俺と同じくらい……ということは同期の?
そんなことを考えていると、なぜか俺の顏をじっと見つめてくる。なんだこの人……。
「……いきなり初対面でじろじろ見て、どうしたの君。」
「……君、凄いイケメンだね?」
……。
「いきなりどうしたの、もしかして不審者?」
「それは悪かった、でも僕が一番驚いてる。」
そういうと自分が一番驚いたかのように肩をすくめる。初対面なのに自然体で話してくる。
「へー……ここに来たってことは、君も天之川学園の?」
「新入生さ。君もってことは君も?」
「うん。天之川学園高校新一年、暁誠一。」
なんというか凄く雰囲気がいい。
多分この人は友達多くて、誰からも好かれるような人なんだろうな。そんなことを考えていると不意に彼は真剣な顔になる。
「君にのその人徳を見こんで質問がある。」
「……何かな?」
唐突に話しかけてくる彼を、人によっては不快だと思うのだろう。だが、それをそう思わせないのが彼のキャラなのだろうか。
……なんて、何で俺は初対面の人間にここまで傾倒しているのだろうかとそれを振り払い質問を聞く態勢に入る。
「きのこたけのこ?」
「きのこ。」
「同志よ!」
君もきのこだったのか! 姉も母も、ついでに綾音もたけのこ派だったので、自分としては凄く嬉しい。
別にそれしか食べないわけでもないのだが、なぜかたけのことは気が合わない気がしてくる。これもきのこの魔力……
彼も相当嬉しかったようで名前も知らない彼ときのこの里談義をする。
「きのこのチョコは……」
「あの食感が……」
気持ちよく話していると後ろの方から綾音が呼びかけてくる。
「ちょっと誠一? 何話してるの?」
「ごめん綾音。この人とちょっと話してたんだ。」
「私の話より初対面の知らない男が大事なの!?」
「そんなわけない、綾音のことは大好きだよ?」
「…っ、そんなこと言って誤魔化せるわけないから!」
まぁ実際幼馴染だし悪友? とは言わないけど結構好きだしね、女子として好きになることは……ないだろうけど。
って言ってどうやって殺されるか予想もしたくないので言わないけど。
「じゃあ、まず今はいいとするわ。で、その人は?」
「この人は「僕は山田裕介、天之川学園高校新一年です。好きな食べ物はアボカド、所属部は中学ではソフトテニスをやっていました。よろしくお願いしますね。」……だって。」
「……どうも、よろしく。」
綾音いきなり不機嫌になるのやめてくれないかな……この人だって不快に思うかもしれないじゃん。
というか俺の話がぶった切られたのは……きにしてはいけないんだろう、うん。
彼がいきなり虚空に虚ろな目を向ける。
「どうしたんだい?」
「いや、なんでもないです。そちらの彼女の名前は?」
「彼女は高崎綾音。小学校が同じで、中学に天之川学園に入った内部生。君とも同級生だよ。」
「おや、彼女さんではないので?」
「かっ、彼女……!?」
「はは、まさか。ただの幼なじみだよ。俺の彼女とかお断りだよな?」
「……っ!勝手に言ってろ馬鹿!」
やたら不機嫌になっていつも通りの罵倒。というか綾音が俺の彼女とか想像すらできないな……そもそも中学でも彼氏いたみたいだし。
「じゃあ、暁……誠一って呼んでも?」
「大丈夫さ。それで、どうした?」
「彼女とか、中学いた?」
「告白は何度かされたけど……俺には釣り合わないし何かのいじめでやらされてたんだろうね、一応きちんと断ったら泣いてたな…」
ブサイクが告られて本気にして馬鹿にされるなんてのはよく聞く話だからな、俺もそこまで馬鹿じゃない。それをやらされてたあの子が本気で泣いてて一案驚いたけど。というかそれが何度も全部女子がっていうのが……。
……ボソッ
「何か言った?」
「いや何でも。じゃあチョコは?」
チョコに固執するタイプか……地雷踏まないように答えないと。
「去年は貰ってないよ?」
「ゼロと?」
「いや、全部断った。最初からね。」
「……念のため理由をお聞きしても?」
「一昨年のバレンタインが酷かったんだよ……髪の毛入ってるようなのがたくさんあったり……変な味するのがあったり……酷いのだと食べた瞬間寝てた……薬でも入ってたのかな……」
それ以外の普通のチョコも多かったけど本命の味見要員なのか結構おいしかったなー、美味しいって言ったらみんな安心してた。手紙は前記の理由でスルーだけど。
「……最後のどこで貰った?」
「校舎裏の人気のない所。卒業する前にって上級生が渡して来て驚いたなぁ。」
しみじみと語るとなぜか気味悪いものを見たかのように見てくる。
「その場で食べてって言われなかったの?」
「その時お腹一杯だったから……あの人達必死でちょっと怖かった……」
「……oh.」
あの時は本当に怖かった……逃げようとしたら押さえつけてこようとしてきたし……
「ってか髪の毛なんてなんで入ってるの……」
「事故だよ事故。どうせ全部義理チョコだろ?」
「え、なんで全部義理チョコって分かったの?」
なんでもないと手を振って店の奥に行く彼。俺も取らなきゃと思い奥の方に向かう。
試着室の前にあるバッグ、これ天之川のバッグだけど……なんでここに
「スカートだけがあるんですかね?」
多分投げたのかどうかなのだがこれ、結構離れている。なぜこれだけをここに置くのかな?
そんなことを疑問視していると、
「きゃっ!」
セーラー服の上だけ着た少女がカーテンごと倒れこんできた。
「いたたたた……」
頭をさする彼女。もしかして打ったのかもしれない?
「大丈夫ですか?」
「ふええぇっ!?」
いきなり後ずさりされる……が巻き込んでいるためそのままひっくり返る。
「ひゃうっ!」
とりあえず抱き起してみる。
「ひっ! み、みないでっ!」
「うん、わかった。」
背を向け、バッグを彼女の方向に向ける。
「これ、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます……」
物音がやんだころに振り向く。
「はしたないところをお見せしました……わたくし櫻田紅葉と申します、助けてくれてありがとうございました。」
そう言って身なりを整えた彼女は綺麗なお辞儀を見せる。
「で、では失礼します……つぅっ!?」クラッ
「おっと!」
急いで立ち去ろうとしたみたいだが、立ちくらみなのかいきなり倒れこんできた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、だいじょうぶですからっ……!」
虚勢を張るようだが、顏が紅くなっているしやっぱりどこかぶつけたのかもしれない。
「いえ、打撲かもしれません!外に車待たせてますよね!?」
さっき櫻田って名乗ってたし店の前の高級車に櫻田の家紋があった。
「ほんとうにだいじょうぶだからっ……!」
「気にしないでください!」
緊急時だしお姫様抱っこで抱え抱きして駆け出す。
「○▼※△☆▲※◎★●・・・・・・!」
櫻田紅葉、現在15歳。人生初のお姫様だっこは暁誠一の下から見た真剣な顔で記憶にしっかと残された。