第2話 鳳胡桃
*307 鳳胡桃*
「ここか…」
今、俺は凄く緊張している。
何故って、完全の初対面の人間に対して、電話番号を聞き出さなければならないのだ。
「さすがにハードモード過ぎませんかね…」
病室の前で一人ごちるが状況は全く変わらない、当たり前だが。
「人見知りじゃなくたってそれとこれは別でしょう…」
俺はそんなコミュ力化け物じゃないので、ここまで難易度の高い試練は初めてである。
「やれるできる絶対に…!」
人と言う字を三回書いて飲み込む。あってたっけ…
「よし…!こんにちは…」
入った瞬間、息を飲んだ。
それほどまでに美しかったのである。
テレビの芸能人などとは違う、本物の気品がそこにはあった。
「…誰?」
一瞬固まりながら、話しかけられてるのは自分だと活を入れ、口を開く。
「…はじめまして、僕の名前は…」
…僕?疑問に思いながらも口は止まらない。
「僕の名前は山田祐介、天之川学園高校新一年生…どうもよろしく。」
「天之川学園の新一年?って事は同学年なんだ、よろしくね。」
よかった、この人のコミュ力に助けられた。
「えぇとこちらこそはじめまして、鳳胡桃です。あなたと同じ天之川学園の新一年生よ。」
「はい、知ってます…」
「え、どうして?」
「その春期課題、新一年生のですよね。」
指差したのはその通り春期課題。彼女は高校に入学するにあたり出された課題のうち、数学を広げていた。
「ああ、そう言えば出したままでした、ごめんなさいね。」
さりげなく手で隠すが、その笑顔に陰りが刺した理由は一つしかない。
至極単純な理由、ただし本人にとっては重大な話ッ…!
というか。
「…ほぼ白紙?」
「ううっ…」
精神へクリティカルダメージ!効果は抜群だ!
「ち、ちょっと私数学が苦手で…」
天之川学園の凄いところはただネームバリューがあるだけではない、その実績にもある。
全国模試一位を叩き出す猛者などもいるが、それ以外の生徒のレベルが凄く高い。
幼稚園からほぼ繰り上げで構成されているが、模試の学内平均は全国でも十指に入るそうだ。
その他の教養に日舞や花道なども極めて高い水準を誇り、昔は嫁にしたい婦女子の例としてあげられたほどだそうだ。
まぁこれらを抜きにしても本当に難しい。入学試験よりその後の課題の方が難しい、なんて都市伝説すらある。
「私、繰り上がりもやっとで…出席日数もだけど、点数もそんなに良くないの…」
初対面の人間にここまで言うのはそこまで気にしているからか、それも彼女の人徳か。
もし…
『…もしよければ教えようか?』
「え、いいの?」
「…へ?」
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「おれは 彼女に話しかけるのに戸惑っていると 思ったら いつのまにか思ってもいないことを言っていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも どうしてこうなったのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった… 催眠だとか暗示だとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
…と言うか神様、おれの身体の行動権まで奪わないでください。
内心涙を流しながらも口は調子に乗り出す。
『数学なら人並み以上に出来るから、力になれると思うよ。』
「ありがとう!それじゃこの問題なんだけど…」
そしてこの瞬間に戻った身体の自由。それは無いですよ…
゛0゜≦θ≦180゜のとき、関数y=sin^2θ−cosθの最大値、最小値を求めよ。また、そのときのθの値を求めよ。゛
三角関数全然分からない…無理…
ピコンッ
「…ん?」
ご都合主義のように唐突に現れた水色の画面には、解答解説が書いてあった!
…前言撤回、アフターケア万全っすね。
「cosθ=tと置くと…」
「ふむふむ…」
ってかこの子全く警戒心なくて顔近いんですが可愛いいい臭い綺麗…やめろ何も考えるな!!
「ここはどういう風にやるの?」ズイッ
…新たに現れた説明を読み上げながら 気にしないように心のなかでひたすら2の自乗をする 新技を編み出した !
◆―――◆ ◆―――◆ ◆―――◆ ◆―――◆
「ありがとう!凄い分かりやすかった!」
「それほどでもないよ…」
実際、読み上げてただけだし。
「後は自分でやってみる、ありがとう!」
「分かった、それじゃまた…あ、ちょっと待った。」
「…?」
ここに来た本来の目的。
「…連絡先、教えて貰っていいかな?」
「…うん、大丈夫だよ!」
*ミッションクリア
・入院中の鳳胡桃の連絡先を聞き出す
初ヒロイン登場。
無警戒+良家+黒髪美少女です、なにこれ可愛い