第1話 現状把握
「は!?…夢か。」
目の前に薄い水色の画面が見えた。
「俺車に轢かれた…すごいな、ほぼ傷がない。」
*発生中クエスト
と書いてある。
「良かった…こんなところで死んだら死んでも死にきれない。」
*発生中クエスト
・近くのコンビニにいる暁誠一と友達になる
・入院中の鳳胡桃の連絡先を聞き出す
「よし、彼女作るぞ…ってあがっ…頭がっ…!」
突然の痛みで自分の意識を手放すと共にこう呟いた…
「…あいつ、ぜってーぶっ殺す…!」
◆―――◆ ◆―――◆ ◆―――◆ ◆―――◆
「…にしても、イケメンだな…」
数分後、来るときと同じ速度で頭痛は引き、病院の鏡に向かっていた。
「ほんとに自分か?誰だこいつ…」
安心する顔と言うのだろうか、優男系のれっきとしたイケメンが自分を覗き込んでいた。
「にしても…サポートって凄いな。」
さっきから視界に映る変な何かに改めて目を向ける。自分が思うように動かせるようだ。
「周りの地図だとか人の鑑定だとか…ゲームみたいだ。」
ARが発展したらこのようになるのかなと呟きながらヘルプを確認していく。
「自分の意思で動かせて、目を閉じても見えるのか…ハイスペック過ぎだろ。」
人間の状態把握に特化した何か、が一番正しい。
「にしても主要人物…ね、俺はモブ扱いってことか。」
*主要人物とは暁誠一と、及び暁誠一の彼女になる可能性が高い女性の総称である。
電話番号や誕生日などの暗記能力から心情の具体的把握、状況によって場所の無条件把握などが可能である。
「超能力ってレベルじゃねぇな…あったこともない人間の名前と場所が分かる?犯罪まっしぐらだな。」
*発生中クエスト
・近くのコンビニにいる暁誠一と友達になる
・入院中の鳳胡桃の連絡先を聞き出す
「クエストねぇ…これが彼女を作らせる最短ルートなのか?ここまで分かってるなら神様もっと頑張れよ…」
しかもこの機能、自分のためだけになると使えないようだ。
とことん恋愛サポートのためだけに生まれた何かである。
「いやいらなくはないですよ?ですけど…」
個人的にこの暗記機能に教科書全部入れて何も持たないカンニングとか出来たら凄い便利そうと思いました、まる。
そしてわざわざ大文字で一番目立つところに書いてある、もはや縛りとしか思えない一文。
゛恋愛をする事を禁ず゛
「理由が…想い人が被るのを防ぐため…?」
…。(^ω^♯)
馬 鹿 に し て ん の か ?
「ふざけんのもいい加減にしろよクソが!何ですか俺だけお預けですか!?青春ブラックアウトとか俺のスクールライフを返せよ!」
しかも片想いも禁止らしい。理由は気付かれたら遠慮されるから。
「知 ら ね ぇ よ!!ってか協力はすると言ったがこれぜってー詐欺だろ!くそがあああぁぁぁ!!!…はぁ…はぁ…」
暁誠一の居場所を調べると、少なくとも現在地周辺にはいないようだ。
これから導き出せるのは…
「文字通りの最短ルートなのか。強制力はない…けど失敗扱いされるのはな…」
改めて神に沸いた殺意を全力で押さえ込む。
「落ち着けー…何も結婚させろじゃない、彼女を作らせればいいだけ…すぐ終わらせる…よし!(パン!)」
自分の頬を叩き活を入れる。そうとなったらやることは一つ。
もう体は痛くない。別に俺は人見知りではない。つまり行かない理由はない。
「よし行くzあたたっ!?」
どうやら首がつったようだ。ついてない。
しばらく伏していると、突然病室のドアが開く。
「祐介?起きたの?」
多分誰より聞いた声。母だ。
「あーうん起きた…?」
ちょっと待て。
わい現在イケメン
→知らないやつ
→誰お前
→…アッー!
「ごめん今首つっちゃって頭上がらな…」
「上がるでしょ、何いってんの。」
頭を掴んで強制的に起き上がらせられる。オワタ…
「…山田の冒険は終わってしまった…」
「何行ってるの?頭打った?」
…ん?
ちょっと待て。
「母さん?」
「母さんじゃなくて、母上ね?」
いや呼ばないけど。むしろ一度も呼んだことないけど。
違うそこじゃない。
「…俺、どこか変じゃない?」「…やっぱり頭打った?」
凄い哀れむ目を向けられた。解せぬ。
「いや、なんもないなら別に大丈夫。」「…?」
どういう理屈か全く分からんが、どうやら母さんが顔が変わった息子を自分の息子として認識しているようだ。
少なくとも母親に自分を認識してもらえない、なんて事態にはならないようで乾いた息が漏れた。
これは後の話なのだがアルバムやら友達の記憶は全部イケメンverに刷り変わっていた。
そこも手を伸ばしてくれたようだ。正直滅茶苦茶ありがたかった。
「ってことは、もう不安要素はないから今度こそ…」
*発生中クエスト
・最寄り駅の駅ビル喫茶店内にいる高崎綾音に顔を覚えてもらう
・入院中の鳳胡桃の連絡先を聞き出す
「一番近くにいる鳳さん?から行くか…」
目覚めたと思ったらいきなり一人でぼそぼそ呟いている息子に、
「やっぱり頭打ったかしら…」と一人呟くのだった。