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「乃愛、今日まえ言ってたお店行かない?」

「……あー」

 講義が終わって、友達に晩ご飯に誘われて、ちらりと考える。

 今日は露木さんに粗食出すって言ったしなぁ。人にそんなの食べさせて、一人露木さんのお金でおいしい物食べるのも……。

「……ごめん、ちょっと用事があって。しばらく夜は無理なんだよね」

 露木さんの家で世話になりだしてから、友達からの誘いを断るようになった。別に夜に友達と遊んだらいけないことはないんだけど、その時は連絡をいれろと、しつこく言われている。あと、遅くなるときは迎えに行くとも。

 ……行く気失せるよね。

 他人でしかない婚約者(仮)に連絡してまで行きたくないし、婚約者とか絶対友達にばれたくないし、迎えに来られたら最悪だし、ていうか、夜遅く他人に迎えに来るように言うとか、すごいしんどい。

 結局行きたかったお店には今度ランチで行く約束をして友達と別れた。

 ということで、今日の晩ご飯は昨日に引き続き粗食メニューだ。

 昨日は和食よりだったから、今日は残りの豆腐ともやしと鶏ガラの肉をほじってで麻婆にしよう。甜麺醤と豆板醤はまだ持ってきたのが残ってたはずだ。あとは鶏ガラスープにとろみを付けてほじった身ともやしと溶き卵で中華スープにして。

 友達とご飯に行けなかったのは残念だけど、何を作るか考えるのは楽しい。一人だとここまでやらないけど、露木さんがどんな顔をするかと思うと、あれもこれもと、いっぱい作りたい物が出てきて、楽しい。

 今晩のメニューと、残りの食材で何が作れるか考えながらマンションに戻ってくると、エントランスに、すっごい美人のお姉さんがいた。

 顔ちっちゃい。髪がすごくきれいにセットされてて、全体的に上品だけど可愛い。

 別に、自分の容姿がそんなに劣った物とか考えたことはないけど、あんな美人を見ちゃうと、ちょっと気後れしてそわそわしちゃう。

 あんな風にきれいにしてた方が、露木さんはうれしいのかな。あんな美人な大人の女性だったら、露木さんの隣に並んでも、おかしくないのかな。

 ちょっと想像してみたら、びっくりするぐらいお似合いすぎて、なんだかちょっと胃が重くなる。

 私だって、あんなおっさん、嫌だし。意地悪だし、口悪いし、人の言うこと聞かないし。

 そりゃ、ご飯はいっつも何か一言は褒めてくれるけど、寝起きでだらっとしてるのはおっさんくさいけどちょっと可愛いけど、時々優しいけど……。

 マンションに入りかけたその時、美女から声をかけられた。

「もしかして、北澤さんじゃありませんか?」

「……へ?」

「祐馬と……露木さんと婚約している、北澤さんではありませんか? 私、婚約前まで祐馬と付き合っていた野崎と申します」

 美女は、そう言ってにっこりと笑った。


 この状況は何なんだ。

 美人なお姉さんと向かい合わせでコーヒー飲みながら、なんか変な汗が出てくる。

 何度も入ったことがあるからと露木さんの部屋に立ち入ろうとするのを、確認とってない私が勝手にいれるわけにもいかず、近所のカフェというより喫茶店で迎え撃っている。

「……あの……」

 向かい合ったままにっこり微笑んで何も言わない美女を前に、いたたまれずに声をかける。

「ああ、ごめんなさい。祐馬とは二年も付き合ったのに、婚約することになったって、急に別れられたから。……私を捨てて結婚する相手って、どんな子なのかと気になったの。急にごめんなさいね」

「は、はぁ……」

 すっごくにこにこしながらいってるけど、内容がえげつないです、お姉さん。

 あの人、ほんとなにやってんの。こんな美人ふってまで仕事とるとか、頭おかしいんじゃないの。

 もう、私、この状況を切り抜けられるほどの言葉なんて持ってないんだけど。

 大体、私も好きで婚約者になったわけじゃないし。むしろ無理矢理問答無用での状況だし。

 でも、それ言って、このお姉さん、納得しそうにないよなぁ。

「……どうして、祐馬は、あなたのような子供を選んだのかしら?」

 笑顔だけど、目が怖い、怖いです、お姉さん!!

「さ、さあ……?」

 政略結婚って言いたいけど、この様子だと伝えてないんだよね。勝手に言っちゃいけないよね、きっと……。どうしよう……。

「……どんな手を使ったのかは知らないけど、祐馬は、返してもらうわ」

「はぁ……」

 やだもう、このお姉さん、怖い。とりあえず曖昧に頷いて流したけど。

「お話はそれだけよ。そんな余裕を見せられるのは今のうちよ……簡単に祐馬が手に入るとは思わないで」

 野崎のお姉さんはにっこりとそう言って立ち去った。あ、お支払い持ってってくれてる。ラッキー……?

 呆然としばらく座り続けていたけど、七時が近づいているのに気がついて、慌てて家に帰ることにする。


 露木さんの彼女、かぁ……。

 美人だけど、すっごい怖かった。笑いながら小馬鹿にするところは似てるけど、あんなに露木さんは恐ろしくない。でも美男美女で似たものカップルかぁ……。

 そりゃ、あんな美人と付き合ってたら、私の扱いなんて雑になるわな。パパへの義理で相手してるだけなんだし。

 でも政略結婚で仕方なくなのはお互い様なんだし。

 考えれば考えるほどなんだかもやもやする。

 露木さんは、あの人相手には、私あいてみたいに雑じゃなくて、大事にもっとちゃんと相手してたんだろうか。ちゃんと恋人相手らしく、手を繋いだりキスしたりしたんだろうか。もっと先のことも……。

 手すら繋いだことのない現状を思い返す。せいぜいほっぺを伸ばされたぐらいだ。

 何かイライラする。

 あんなに楽しみだった、ご飯作ることが面倒に思えた。

 でも、他にやることなくて、家に帰ってから、黙々と料理を作り続けた。

 帰ってきた露木さんは、豆腐ともやしの麻婆を「悪くない」とか言いながら食べてたけど、あのお姉さんはもっと良い物を作って、もっとかっこよくさらっと褒めてたりとかしたんだろうか。

 なんだか、とってもむなしいなって思った。食卓がしんとしていた。何となく気まずい。

 露木さんが変な顔してこっちを見てたけど、無視した。

 恋人が来てただなんて、宣戦布告していったなんて、そんな衝撃的な出来事をどう言ったら良いかなんて、そんな言いづらいことをさらりとぶつけるスキルなんて、私にはなかったから。


「おかえりなさい、ごはんできて……ます」

「ああ、ただいま。……なぁ、お前……」

 話しかけられたのを聞かなかったふりしてご飯を温めてると、露木さんが溜息をついて着替えの為に自室に入ってゆく。その間にご飯の準備をして、彼が出てくる前にそそくさと自分の部屋に戻った。

 露木さんの元カノ突撃事件以来、何となく、露木さんと話すのが嫌になった。

 家事をちゃんとしていれば文句言われる筋合いないし。

 自室にこもって、ベッドの上に寝転がる。

 なんか、居場所、ない。

 あの日、軽く流した現実が、日を追うごとに私を不安に引きずり込んだ。

 この家に来て一ヶ月近く経つ。両親とは相変わらず連絡が付かない。休日に家に行ってみたけど、やっぱりいない。

 忙しいとかいって、実は旅行とか行きまくってるんじゃないかという気すらしてきた。

 両親にはまるで厄介払いでもされたみたいに男の家に押し込まれ、その男は、元カノがよりを戻そうとしている。

 あんな美人に、敵うわけない。私なんてパパがいなかったら露木さんの目にとまることすらなかっただろう。むしろジャム付けたガキと害虫扱いされかねない。

 仕事上必要だから結婚するって決めただけで、私のことを好きなわけじゃない。むしろ嫌われてて、きっと邪魔に思ってるんだろう。

 私だって、露木さんなんて大っ嫌いだ。意地悪だし、すぐに馬鹿にするし、どうせ私以外にはにこにこと愛想よくしてるくせに。

 でも、こわい。怖くて、必死にここにいても良いって思いたくて家事だけはちゃんとする。

 私の居場所は、どこにもない。

 寂しくて、心細くて、布団にくるまってこぼれそうな涙をこらえた。


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