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 一週間以上が過ぎたのに両親と相変わらず連絡が付かない。電話が繋がらない、家にいない……絶対避けられてる。そんなに後ろ暗ければ、こんな事しなければ良いのに! 別に一ヶ月や二ヶ月会わない事なんてよくあるけど、あんまりだぁ! そのくせして露木さん経由で話が伝わってくるのが、ほんとむかつく。

 とにかく、私の言葉を聞いてもらえないなら、露木さんの方から「こいつとは結婚できない」と思ってもらわなきゃいけない。

 高い買い物で嫌がられよう作戦が失敗したから、今度は、貧乏ったらしい料理にしてやる。……高い材料買ったからもったいないとか、別に思ってないし。

 ということで、この前買った食料もだいぶなくなってきたし、買い出しに行ってきた。

 買った物は、豆腐とあげともやしと鶏皮と鶏ガラとささみと安売り卵! …………大豆と鶏肉ばっかりとか言わない。

 私の残り少ない手持ちのお金でも、あんまり痛くない千円以下の買い物だ。

 まずは鶏皮と鶏ガラを下ゆでする。ゆで汁はそのままスープの素に流用で、浮いた脂は炒め物用だ。

 この前買った大根とにんじんの皮を厚めにむいて残してあったから千切りにしてごま油で軽く炒める。そこに油抜きしたあげの千切りと、茹でた鶏皮を食べやすい大きさに刻んだものを投入して合わせた後、砂糖と醤油みりんと酒で味付けして、水分が飛ぶまで炒める。最後にごまをかければ余り物きんぴらのできあがり。うん、質素!!

 次に茹でた鶏皮を塩こしょうで味付けしてから、片栗粉をまぶして少し多めの油でかりっかりになるまで焼いて、鶏皮の唐揚げにする。これ、パリパリ感が好きなんだぁ。

 それと、この前買った大根の頭にちょっと長めに付いてた葉っぱを小さく刻んで多めの塩とごま油でさっと炒める。水分が出てきたら火を止めてから軽く絞ってご飯に投入。塩を少し追加して熱々のうちに混ぜれば、大根菜ご飯。よし!貧乏ったらしい!!

 味噌がないから、スープは鶏皮のゆで汁を醤油で味を調えてから、もやしとあげと豆腐を具にいれるだけ。最後に鶏皮ガラスープのだし巻き卵を作って、ザ・質素!!

 朝食のような晩ご飯のできあがりだ。

 ということで、一気に一食当たりの食費を落としてみた。

 あと、料理できない疑惑を払拭させてやろうという私のプライドも込みだ。料理はじめてしばらく経ってるし、もう、さすがに思ってないとは思うけど、毎回、素材ばっかり褒められるのはむかつく。そしてあの男がこの料理を馬鹿にしたら、エコという物について、こんこんと説教してやろうと、闘争心がめらめらしている。……別にそれほどエコに対して思うところがあるわけじゃないけど。

 と、迎え撃つ気満々で、もうすぐ帰ってくる露木さんを待つ。

 テーブルに食事の準備が終わったとき、ドアが開く音がした。

「ただいま」

 と聞こえてきた声に、玄関までかけてゆく。

「お帰りなさい、まってました! ご飯食べましょう!」

 あの粗食ご飯見てどんな反応されるか楽しみで、顔がめっちゃ笑ってしまう。早く食べさせたくて、うきうきしながら露木さんの袖を掴んで引っ張った。

「あ、あぁ……」

 戸惑ってるみたいだけど、気にしない!

「はーい、バッグ預かりますね。上着かけときますから、着替えてきて下さい」

 全力で急かしていると、露木さんの困惑する顔が見えたけど、見てない、見てない。

「ほら、急いで下さい、ゆっくりしてたら、ご飯、冷めちゃう」

 着替えに行ったのを確認して、熱々のスープをいれてスタンバイオッケー!

 着替え終わって椅子を引いた露木さんに、満面の笑顔で、「今日の晩ご飯はこれでーす!」と両手を広げて披露する。

 戸惑いながら座った露木さんは、料理を見て一言。

「へぇ。うまそう」

 な ん で す と ?!

 予想してた反応と違う!! 「なんだこのしょぼい晩飯」とか言うかと思ったのに!!

 今朝だって、今日は友達と遊びに行くからちょっと気合い入れて準備してたら「なにその、無理して大人のフリしてますって感じ。似合わねぇ事してもみっともないぞ」とか言って、せせら笑ったくせに!! 確かにいつもより大人っぽい服にしてたけど!ちょっと化粧の気合い入ってたけど! そんなに変な格好してなかったのに!

 いっつも大体そんな感じで、すぐ馬鹿にしたようなことすぐ言うくせに、時々、ぽろっとこの人褒めるんだよ!! なに、やっぱりこの人ギャップ萌えでも狙ってんの?! バッカじゃないの?!

 感心したように食卓を見て座る露木さんに、悔しくてお箸握りしめたまま、ギリギリしてしまう。ぼろくそに言ってやるつもりだったのに、これじゃ言えない……!!

 いただきますって、ちゃんと手を合わせてるし。そういえば、この人、私の作った物を雑に扱ったり、残したりしたことないなとか、そんなことなんか急に気付いたりなんかして……。

「……露木さんは、一人暮らし、長いんですか」

「ああ、十五の時からだから、十年以上になるな」

「じゃあ、ご飯、自分で作ったりとかも……」

「最近は作ることはないが、仕事が軌道に乗るまでは、嫌でも自分で作らないと食えなかったから、それなりに料理はした。こんなにちゃんと作ることはほとんどなかったが……たいした材料も使ってないのに、いろいろ出来るもんだな」

 そう言って何気なく浮かべた笑みが、思いのほか優しそうに見えて、なぜだか、息が詰まるような感じがした。

「で、でも、露木さんなら、彼女とか、いたんじゃないですかっ そしたら、料理とかしてもらったりとか……っ」

「……そうだな、ずいぶん手の込んだ物なら食べたことがある。……ただ、こんな家庭料理じゃ、なかったかもな」

 ………やっぱり、これ、馬鹿にしてるよね。何か優しそうな顔して言ってるけど、絶対これ、歴代彼女とは料理の腕が違うって馬鹿にしてるよね?!

「か、家庭料理を、馬鹿にすんなー! 世のお母さん方に土下座して謝れ!」

 叫んだとたん、「は?」と眉間に皺を寄せられた。「何言ってんの、コイツ?」みたいな顔だ。

「被害妄想ひどすぎだろ。毎日食べるならこっちの方が気楽でうまい」

 溜息をつかれ、そのまま露木さんは黙々と食べ始める。

 これは、慰められたのか、馬鹿にされたのか。くそぉ。なんか負けた感半端ない。

 結局言い返せず、私もギリギリしながらご飯を食べた。

 鶏皮の唐揚げ、おいしい。


 今朝はドライイーストじゃなくて酵母を使った食パンと、ささみを使ったサラダにスクランブルエッグ、それと、鶏皮ガラ出汁のわかめスープだ。

 朝は基本的に、空腹で動けなくなる前に食事を作らないといけないからあんまり手をかけない。でも、しっかり食べる。でもパパは朝からがっつりと食べる人だったし、男の人からすると足りないんじゃないかとか思ってたけど、露木さんから今のところ文句が出たことはない。

 露木さんの帰宅は、遅くても8時で、朝も8時頃に出発と、朝晩ともに顔を合わせる。

「ねぇ、パパとママ、露木さんトコと業務提携で忙しいんでしょ? 露木さんトコは忙しくないの?」

 露木さんが帰ってきた後で連絡をしても、捕まらない両親が不満で、毎日顔を合わせる露木さんに八つ当たりする。この人こそ、忙しくて顔を合わせずに済ませたいのに。

「帰ってから仕事してるだろ。北澤さんとこの預かりもんだから面倒見るためにお前に合わせてやってる」

「はぁ?! 面倒見てるの、私の方だし!!」

 食後にと私がいれてきたコーヒーに口を付けてる露木さん。朝ご飯では座りっぱなしで、洗濯も片付けも掃除も、全部私がやってるんだけど!! どう考えても、私が世話してるんだけど?!

「……ま、そうだな。これからも頼む」

 いきり立った私をちらりと見て、さらっと流された。

 むっかー!!

「……また、粗食飯にしてやる!!」

「楽しみにしてるよ。あ、帰りは7時半頃には帰れると思う」

 鼻で笑って「よろしく」と適当に流された。

 人が腹立ててるのに、いっつもこんな調子で流される。大人の余裕ってか?! あー!! もう!!


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