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序章 従者の目覚めと体験談 03

 エシュマの話を聞き終えて、その場の全員が当惑していた。大学内の風聞ふうぶんは耳にしていたかもしれないが、詳細は初めて聞くであろうクリステルも、この中で最年長であり、人生経験が豊富であるはずのシリンも、そして当事者であるエラルは当然に。


「……まいったね。なんだか大仰な事態になってるっぽいし、相手の思惑もまるっきり曖昧だ。これじゃ手の打ちようもないし、それに……」

 困惑を隠すこと無く、シリンは呟いた。

「……『彼』って……」

 話の中にあった、少女の計画を遂行するために必要だと思われる存在。彼――つまり『男』であり、この世界に『来た』者。それもごく最近に、という事なら――。

「……どうしたもんかね。牢屋にでも入れといた方がいいのか、それとも……」

「ま、待って下さいシリン先生。その、メ……彼は」

 言いかけ、エラルはシリンを一瞥すると、クリステルに視線を向けた。

 その様子を見て、シリンもまた苦笑を浮かべる。

 メイジの正体は、今はまだ、ごく少数の者のみが知る秘密だ。少なくとも今は、学長のパウリは秘密にしておくべきだと判断している。だから、メイジと面識のあるクリステルの前では、これ以上の事は話せない。

「……まあ、とにかく学長と話はするさ。私の一存で判断できる事じゃないしね。それじゃエシュマ、しっかり養生しなさい」

 言って、シリンは部屋の外に出て行った。

「あの……ご存知なのですか? その少女が言っていた人物に」

 シリンの気配が完全に消え去ると、それを待っていたかのようにクリステルが口を開いた。

「ちょっとね、学長の許可がないと話せない話だから。ごめんねクリステル。エシュマを診てくれてありがとう。それじゃ、ボクも稽古に戻るね」

 丸椅子から立ち上がると、エラルはもう一度エシュマに視線を向けた。

 とにかく、今はエシュマが目覚めてくれただけで嬉しかった。それ以上の事は望まないし、湧き出た疑問は、直接メイジに訊けばいい。

「エラル様。私もすぐに参ります。もう体の方は大丈夫ですので」

 エシュマにとっても、疑問は幾つも生まれているはずだ。エラルは頷くと、クリステルに会釈をして部屋を出た。

 誰がどんな事を企んでいたとしても、エラルはメイジを信用しようと思う。恩人、という事もあるが、メイジはエラルに隠すこと無く、その特異な身の上を教えてくれた。黒幕だと思われる少女との邂逅かいこうを経た後で、メイジは様子を見るとも言った。なんらかの繋がりがある事も否定せずに。ならば、この件について、エラルはこれからもメイジと話がしたい。メイジと相談した上で、様々なことを決めてゆきたい。

 医学院の廊下を歩きながら、エラルはふと思い付いた事がある。

「あ……そう言えばボク、メイジが秘専に入れたら、エシュマを紹介しようと思ってたんだよね……メイジ、恋人欲しがってたし、エシュマだって、そういう人いてもいいと思うし……」

 影武者が務まるほどに、自身に似た顔立ちの従者。彼女は年上だから、姉という事で紹介しようか。そんな事を考えながら悪戯いたずらっぽく微笑い、エラルは昼休みにでもメイジを訪ねてみようと思った。

次回から一章です

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