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序章 従者の目覚めと体験談 01

お久しぶりです。山下しんかです。

なにかもう、小説の書き方忘れるくらいなが~く、なんも書いてませんでした。

色々書きたい話はあるんですが、それなりの年齢なのと、ようやくできた少しのヒマの中で取捨選択を迫られてせっかくの時間を浪費した挙句に、統計見ると結構読んで頂いてる『マレビトの楽園』の続き書いてこうかな~とか思った次第でございます。前作との間には、災害ありビョーキあり、転職ありとか、主人公の性格形成にも多大な影響を与えた出来事が身の回りにあり、もうなんだかね……

まあ、一言で言えば、しょーもない小説ですが、お気に召しましたら読んでやって下さい。かしこ

 意識が浮き上がってくると共に、そのかたの輪郭がぼんやりと見えてくる。

 再びそのお顔を見られた安堵あんどと喜び。

 だが、ほどなくして自責の念までもが浮かび上がってきた。

「ご心配をおかけしました……エラル様」

 はっきりとした視界の中で、自らの主の名を呟いた。

 主は満面を(ほころ)ばせている。だが、その頬には見る間に止めどなくこぼれ落ちていく二筋の軌跡があった。

 従者たる自分に見せる嬉し涙。泣かせてしまったことが申し訳なく、生還を喜んでくれている事が本当に嬉しい。

 だが、いつまでもそんな感慨に身を任せてばかりいる訳にはいかない。エシュマはまず現状認識のために周囲を見回した。

「ここは秘専秘法医学部の病室だよ。エシュマは一週間も眠ってたんだ」

 エシュマの仕草から察したのか、主――エラルは状況を説明してくれた。

「エラル様、私は……」

「お身体は辛くありませんか?」

 言いかけた言葉をさえぎるように、寝台を挟んでエラルとは逆側――左側から、穏やかな声がかけられた。

 言葉の主の気配に気付かなかった事が、エシュマに微かな歯がゆさを感じさせた。

 国際共立大学の敷地のほぼ中央。秘法師専門学院秘法医学部の、病室を兼ねた研究棟。ここが安全だろうことは承知しているが、どんな場所、どんな時であっても主を守る――それがエシュマの生きる意味だ。だというのに。

 先日のあの賊侵入時とはまた違う現状で、気配を殺している訳でもない人物の気配を感じなかった――すなわち、まだ感覚が鈍っているという事が、本当に歯がゆいのだ。

「私は――大丈夫です」

 別に、どこかに痛みを感じる訳ではない。やや頭がぼんやりとしているくらいで、時が解決してくれる問題ではあるのだろう。しかしそれでも、以前のように完全な自分に一刻も早く戻りたいとエシュマは思った。

「いつまでも寝てなんかいられませんね」

 そう言ってエシュマは上体を起こし、左に視線を向けた。

 エシュマの視線の先。そこにはさきほどの声の主である、秘法医見習いの少女が立っていた。金色の髪をアップにし、秘法医見習いの略帽を被った少女は、多数の秘法医の例に漏れず、常人に比して不自由なものをもっている様子だ。両眼をつむっているところから、彼女は盲目なのだと思わせる。

「クリステル・フォン・フェルゲンハウアーと申します。第二階位の秘法医見習いです」

 その名乗りは、エシュマの思考を確かなものとする手助けとなった。

 フェルゲンハウアー家は西の白の国の有力貴族だ。直系かまでは分からないが、縁者えんじゃであろう事は容易に推察できる。

 自分とは比較にならないほど高位の身分であり、そして黒の国と白の国の国情を考えれば、緊張して然るべき存在だ。

「御無礼、ご容赦ようしゃ下さい。エラル・ハシュパカル様付き従者、エシュマ・アルカカルパと申します」

 必要最低限の言葉だけを挨拶に込める。

 主の立ち位置と、黒白両国の関係をかんがみれば、白の国の貴族とは親しくならない事こそが肝要かんようだと思ったからだ。

 だが――

「堅っ苦しいねえ、エシュマあんたは。この一週間、主に診てくれたのはこの子なんだよ? もうちょっと何かあってもいいんじゃないの?」

 不意に横合いから口を挟んだ者がいる。視線を向けると、そこには武専の武術講師兼、大学の治安責任者であるシリンが呆れたように苦笑していた。赤の国の住人である彼女ならば、黒の国に同情こそすれ、白の国の住人を庇う道理はないはずだ。だが、彼女は黒の国の民に引けを取らない自慢の長い銀髪をかき揚げながら、不満を隠そうともしない。

「あ、私はそんな、大層なことは何もしてませんし、秘法医として当然の事をしただけですし……」

 シリンの物言いに驚いたからだろうか。その盲目を見開き、クリステルは慌てた顔をシリンに向けた。女の身で、羨ましくも思ってしまうクリステルの金色の瞳。黒の国では稀有けうな、その瞳の色は、見事な金髪と相まって、エシュマは気圧けおされずにいられない。

「まあ、白黒両国の国情はあたしも知ってるけどね。だからこそ、このダ=インにそれを持ち込んで欲しくはないんだよ」

 ダ=インは四大強国の出資というパワーバランスの中で、自主独立を維持している都市国家だ。ダ=インの中核である国際共立大学と、その各種研究から得られた有益な知識は、等しく各国に還元される。この世界で唯一無二の価値であり、その価値を支えるのは、まがりなりにも四大強国各国の協力だ。そこに各々の思惑があったとしても、少なくとも『四民』平等がダ=インの国是であり、それを貫く努力を重ねるのがダ=インの国情でもある。国共大に属する武専の講師であり、それを代表する一人としてのシリンの言葉は理解できるし、もっともだとエシュマも思う。

「えっと、シリン先生。エシュマは目覚めたばっかりなんです。そこまでの事は考えてませんよ。それに、お礼を言うのはエシュマの主であるボクの仕事です」

 慌て顔で取りつくろうエラルを見て、シリンは意地悪く笑ってみせた。

「冗談だよエラル。ちょっと確認したかっただけさ。まあ、自国の実情を持ち込むなってのは本気だけどね。これからエシュマに訊きたい事は、白の国の賊の事だから、主観が入っちゃ困るっていうのもあるし」

 先日捕縛した、エシュマ誘拐とエラル誘拐未遂ならびに黒の国の秘宝強奪犯である盗賊団。首魁しゅかいには逃げられたが、その構成員は全員が白の国の人間である。この場の全員にそう伝えると、シリンは真顔でエシュマに向き直った。

 その傍らで、クリステルはどこか居辛そうに眉を寄せている。多分、彼女は善良な人間なのだろうとエシュマは思った。だがそれはそれ。エラルの立場を第一に考える事に変わりはない。シリンの考えも理解しているし、だからこそ、これから話す事に外交上の主観を入れるつもりもない。

「そうですね。これから話す内容は、恐らくはこの世界全てと関わりのある事です。それ故――クリステル様」

 エシュマはクリステルに顔を向けた。

「白の国の盗賊が主犯であったとしても、その裏に一人黒幕がおります。別な形で白の国にも危害が及ぶ可能性もあるでしょう。私の事は瑣末さまつな事です。お気になさる必要もございません。むしろ、クリステル様も御用心なさいませ」

「エラルとメイジが出遭った少女と同一人物……かね。まあ、話を聞かせておくれ」

「はい、それでは……」

 シリンの言葉に頷いて、エシュマは口を開いた。

ちょぼちょぼ不定期で投稿していく予定ですが、書きためた分は正月終わるまでに徐々に流していこうかと思います。次回は今夜にでも~

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