第一話 〈赤い瞳〉 前
「バイタル、正常です」
「素晴らしい適合性だ。これならいけるかもしれないな」
堕ちて行きそうな程の暗闇の中、期待と緊張が入り混じった男の声が響いた。
いや……気が付くとぼんやりと灯りが見える。
そして数人の男たち。
彼らは誰で、いったい何をしているのか。
深い霧に包まれた世界の中を、地に足が付かぬまま。
ふわふわと漂う枯葉のようにあてどもなく。
「依然、異常は見受けられません」
「いける! もう成功したも同然だろう!」
「これで我らの地位も揺るぎない物となるでしょう!」
四方から歓声が上がる。頭が割れるように痛い。耳鳴りがする。
「ちょっと待ってください! 予測値をはるかに越えています!」
「エネルギーの流入を遮断しろ! 早く!」
「止まらない! このままでは我々も危ない!」
男たちの歓声が焦りに変わった。
それだけの事に何故かとてもイライラする。
意識が遠のく。
霧はさらに深まる。
まるで肉体から魂を切り離されるがごとく自分自身が散り散りになりそうな……
何モノにも属さない浮遊感。
やがて完全なる闇……
「魔力波が来ます! 総員退避! 退避してください!」
すべてが……闇に飲み込まれて……
――夢?
今見た光景は一体何だったのか、目覚めると俺は何かふわふわとした布にくるまっていた。遠い昔、どこかで嗅いだ甘い香り。あれは一体どこだったのだろう。
「あら、気が付いた? 随分とうなされていたみたいだったから」
声を掛けられるまでどうして気付かなかったのだろう。腰まである桜色の髪を一本の緩い三つ編みに束ね、何かの制服と思われる白い上下を身に着けた女がベッドわきに立っている。年の頃は俺と同じ、いや、少し若いだろうか。
何よりその印象的な赤い瞳が、食い入るようにこちらを見ていた。
「それにしても驚異的な回復力ね。丸二日も経たないうちに起き上がれるようになるなんて」
俺は二日も眠っていたのだろうか、そもそもここはどこなのか。
温かみのある家具や優しい色のカーテンが、知るはずもないこの家をどこか懐かしくさせていた。
「これ父さんの服だから気に入らないかもしれないけど良かったらどうぞ。
まあ、いつまでもそんな格好って訳には行かないから我慢してよね」
女は傍に用意していた服を手に取ると、幾分乱暴にこちらへ突き出す。
今まで気付かなかったが掛かっていた毛布をめくると、俺は何も着ていなかった。と同時に、彼女は大急ぎで顔を背け、月明かりの射しこむ窓に向かって捲し立てた。
「べっ! 別に見てないわよ! 焼け焦げてはいたけど布にくるまってたんだから! 布を取る時は目をつぶっていたし、凄く大変だったんだからね!」
一気にそうは言ったものの何も反応しない俺に、彼女はおずおずと視線を向けた。
「……俺は、誰だ?」
そう、俺は俺自身が誰なのか、全く覚えてはいなかった。
「えっ? いきなり斬新な質問ね……でもそれはこっちが聞きたいんだけど。あんた、ただの民間人じゃあ無いみたいだし」
そう言って苦笑いしながら、女はベッド脇の椅子に腰かける。
「ミンカンジン? 俺の事か? 民間人って何だ?」
「ちょっと、あんた大丈夫? 頭でもやっちゃった? 自分の名前とか思い出せないの?」
「名前? 名前って……」
「え? 記憶喪失って事?」
「記憶喪失……記憶喪失か。わからない、まるで何も思い出せないんだ」
「そういうのが記憶喪失って言うんじゃないの? 私は月白千沙、千沙でいいわ。あんたの事は……まあ、とりあえず『あんた』でいいか」
自分の名前も思い出せない以上何とも反論の余地も無いが、あんたと呼ばれるのは抵抗がある。
「三日前の昼頃、突然謎の大爆発が起こったのは覚えてるかな。私はその偵察に行ってあんたを見つけたのよ。境界付近だったから人間の死体かとも思ったけど、あんた自身に魔力を検知した以上は放っておくわけにはいかないしね。
でも運が良かったわ、味方の私に拾われて。あんた魔力が高いみたいだし、人間に拾われていたら殺されていたでしょうからね」
「魔力? 殺されていた? ……どういう意味なんだ?」
「ほんと、何も覚えてないのね。初めて見た、記憶喪失」
月白千沙と名乗ったその少女は、少しからかう様にそう言った後、視線を逸らし呟いた。
「羨ましいわね」
「えっ?」
「まあ、簡単に言ってしまえば私達は魔法使いで、人間と戦争してるのよ」
「戦争って」
「ある日突然、人間は科学兵器とかいう物を使って攻撃してきたのよ。まあ、最初は魔法の前には成す術なしで大したことは無かったんだけど……」
「言っている意味がサッパリ解らない。魔法って一体何だ? 科学兵器って?」
「うーん。私、めんどくさいもん拾っちゃったみたいね。
ここセイクリッドヴァイスは魔法文明の国。対して、この国の外には魔力を持たざる人『人間』がいる。みたいなの」
「みたいなのって」
「人間は六百年余り前の大戦時、絶滅したとされてきた。でもわずかな生き残りが年月を経て、知らぬ間にセイクリッドヴァイスを凌駕するまでの勢力となっていたって事よ。戦争が始まってもう四年、人間の持つ化学兵器によって既に領土の六割は敵方に落ちてしまったわ」
千沙は終始淡々と話した。だが――
「それじゃあもう勝ち目は薄いんじゃないのか?」
俺がそう言った瞬間、一瞬にして顔色を変えた。
「そんな簡単に言わないで! 有無を言わさず攻め込んで来たのよ? 殺らなければ殺られる。私たちはもう四年もそんな毎日を送っているのよ? こんな理不尽がある? 何も覚えていないくせに! 降伏しろとでも言うの? 故郷を跡形も無く燃やされた人もいる! 家族や友人、恋人を失った人もいる! 教えてよ! 私はどうしたらいいのよ!」
千沙の顔は高揚し、俺に向けられた強い眼差しは潤んでいる。
「ごっ、ごめん!」
「…………」
「悪かった。君の気持ちも考えずに」
それまでの大人びた表情とは一変し感情が溢れ出した彼女は、今にも泣き出しそうな子供の様に見えて俺には謝る以外なす術がなかった。
そして千沙は深く息を吸い少し長めの瞬きを終えると、何事も無かったようにまた冷静に言った。
「……。私も言い過ぎたわ。あんたは何も覚えてないんだものね」
「いや、俺が無神経だった」
「……私、あんたみたいなタイプにあまり慣れて無いの。なんていうか、その……」
「俺みたいなタイプ?」
「物事を頭で考えるって言うか、素直に謝るっていうか……」
「頭以外のどこで考えるって言うんだ?」
「素直すぎてやな性格ね。思ったこと全部口にしなくてもいいのよ!」
「ごめん」
「もういいわ……ねえ。あんた、お腹すいてない?」
* * *
気が付くと、夜もかなり更けているらしく少し肌寒い。千沙の出してくれた白いスープは心地良い温かさだ。
「どう? おいしい?」
「ああ、上手いよ。これはなんていうスープなんだ?」
「え? シチュー……知らないの? やだ、なに首傾げてるのよ。ホントに知らないのね」
俺はシチューと言うスープを知らないのか、忘れてしまっただけなのか。
少し呆れたと言った風におどけた顔をして見せた千沙は、先程一瞬見せた素顔の様な物を誤魔化そうとするかの様に見える。
「いいだろ、名前なんて知らなくても。味はわかる!」
俺もそれに合わせるかの様に、殊更に明るく振る舞った。今はそうする事がきっと正解なのだ。
だが、彼女の様子が明るければ明るい程何故かこの家との違和感を覚えた。
リビングには三人分の椅子や大きなテーブルがあり、間取りから言っても一人暮らしには広すぎる。さりとて他にだれか住んでいる気配もない。そう言えば俺に貸してくれた服は父の物だと言っていた。しかし家具には相当にほこりが積もっており、かすかにカビたようなにおいがする。
飾り棚の上にはこの家の一人娘であろう少女の成長の過程が順に並び、そこに写る千沙がこの家の娘だという事は疑う余地もないと言うのに、この家には生活感が無いのだ。
では、この写真を飾った人物は、どこに行ってしまったのだろうか。
父、あるいは両親共に失ったのだろうか。
今起きている戦争で?
「おかわりは?」
「いや、もう十分だよ、ご馳走さま。それにしても魔法って便利なものなんだな」
「はぁ? なんで?」
「このシチュー、君が何かちょこっとやったら一瞬で出来たろ?」
キッチンのある方とは明らかに違う場所で、何やらぶつぶつと言う声は聴いていた。多分それがこのシチューとやらを作る方法だと思ったのだ。
「残念だけど、これは携帯食料の一種。戦地とか調理出来ない場所での食事のための物よ。熱を発するタイプの魔法で加熱すれば出来上がりってわけ」
「ふーん、そうなんだ」
「何よ! 加熱だってけっこう加減が難しいのよ!」
相槌を打っただけなのに、千沙は何故か怒っていた。
俺はと言えば、その理由がわからずにいる。
「君は料理、出来ないのか」
「いちいち失礼な男ね。料理出来ないんじゃなくて、今は調理している暇がある程呑気な時じゃないのよ」
「戦争しているから……か?」
「まぁ、そうなんだけど事態はもっと深刻かな。ここは明後日には敵が攻めて来るって予言されてるのよね。だからあんたも夜が開けたら一刻も早く、できるだけ遠くへ逃げて欲しいの。ここも、焼け野原になるかもしれないんだから……」
「明後日焼野原って! なんでそんなに落ち着いてるんだ!」
予言とは何なのか、今までに聞いたことがないような気がした。ただ、目の前の千沙の様子からは、それが決定事項を告げるものだという事がわかる。
「そんなに慌てなくても大丈夫よ。今まで一度だって予言師リンネル様の予言が外れた事は無かったから。確かに記憶の無いあんたは飛べないだろうから移動に時間がかかると思うけど、灯りの魔法さえ使えない状態で一人、夜の森を歩いて行くなんて迷子になるだけよ」
「君は逃げないのか?」
「戦うつもりだからこそ帰って来たのよ。だから悪いけど道案内は出来ないわ。
ここを出て東に三十キロ程行くと、まだ攻撃を受けてない町があるわ。そこまでたどり着ければしばらく安全なはずよ、警察の駐屯基地もあるしね」
「軍じゃないのか?」
「軍? ああ。人間達が編制してる戦闘部隊のことね。あんたどうしてあっちの事ばっかり憶えてるの?」
「こっちの事よりあっちの事の方を憶えている俺の何をもって仲間だって確信しているんだ。」
「眼よ」
「……眼?」
「そうよ。あんたの眼、見事なくらい赤いんだもの」
眼が赤い? 俺の眼も赤いのか?
「まぁ、そんな事どうでもいいでしょ。あんたの眼は赤だって事は確かなんだから。私、説明するの苦手だし、あんただって今聞いて何になるのよ」
「俺の眼、赤いのか?」
千沙は黙って窓のある方を促した。
カーテンを開けると、暗闇の中に赤い二つの光がこちらを見ている。
「あんたはかなりの実戦経験があるはずよ、何よりその赤い眼が証拠だわ。それだけの赤になるには、それ相応の戦果を上げないとね。あんたが目覚めた時その眼を見てホントに驚いた、そんな眼今まで見た事ない。深い、とても深い、燃えるような赤い眼……」
「だったら俺も戦うよ。助けて貰ったみたいだし、行く所も帰る所もないし」
自分でも驚くような言葉が口を吐く。だが、千沙はキッと俺を睨んだ。
「あんた馬鹿なの!? 自分が何言ってるか分かってるの? それとも何か思い出したの? 魔力が強いのは間違いないとしても、今のあんたに何ができるの?」
この女はどうしてこうも喜怒哀楽が激しいのだろう。
淡々と話しているようでいて、次の瞬間には激昂する。
なら、俺はどうして戦うなんて言ってるんだろう。
彼女の言う通り、逃げれば済むことなのに。
「でも、君は戦うんだろ?」
「あんたには関係ないでしょ!」
そうだ、俺には関係ないはず。なのに、どうしてこんなにも戦わなくてはいけないと思うのか。そう思った瞬間、体に小さな衝撃が走った。
千沙は俺に向かって右手を突き出している。衝撃はゆっくりと全身を包み込み、今いる世界の意識が途絶えた。
視界には何も映らない、漆黒の世界。
『なあ、お前は何をすべきか憶えているか?』
――若い男の声? お前って……俺か?
『俺たちを踏み台にした、お前の役目だ』
『俺たちを虫けら同然に扱った報い』
『こいつのするべき事はただ一つだろ』
――すべき事?
『復讐だよ』
――復讐? 何に?
『俺達は仲間だ。お前だって奴らをこのままにしておく訳にはいかないだろ?』
――奴ら?
『そうだよ! 一緒に復讐を成し遂げようよ!』
『やれるのはお前だけだ。罰を与えろ』
……ムクイ……フクシュウ……
フク……シュウ……
* * *
気が付くと窓からは朝の光が差し込み、ソファーに横たわった俺に降り注いでいた。
確か夕べ……急に意識が遠のいて……あれから、どれくらいの時間がたったのだろう。
千沙! そうだ、彼女は突然ひどく怒りだして、そこから俺の記憶がない。
「千沙!」
返事は無い。
静まり返った部屋の中で俺の声だけが虚しく響く。
ふと見ると、昨日シチューを食べたリビングテーブルの上に幾つかの携帯食料と手紙が置いてあった。
『手荒な事をしてごめんなさい。でも、私には時間が無いの。
これ以上あなたと議論し、説明し、説得する時間は正直惜しい。
目覚めたら、とにかく逃げてください。話した通り東の町『グレーサー』を目指してください。ここの村民はすでにそこへ避難しています。
私は親衛部隊の副部隊長ですから、やらねばならない事があるのです。
この携帯食は温めなくても食べる事は出来るから持って行って。
飛べないあなたには三十キロは遠いと思います。
村の中に置いて行かれた馬がいたようだから借りて行けばいいと思う。
出来るだけ遠くへ逃げる事が大事です。
それから、余計な事かもしれないけど、記憶の無いあなたには行く所も帰る
所も無いのではなく思い出せないだけでしょう?
同じように戦う理由もないはずです。
大義も決意もないまま誰かの命を奪う事があなたにできますか?
できないなら命を落とすのはあなたの方です。
覚悟が出来たなら私はいつでも歓迎します。でも今はその時ではありません。
どうか命を大切に。 千沙』
手紙の文面から受ける落ち着いた印象は優しく繊細で思慮深い。
夕べ見た彼女とはまるで違う人の様で俺は少し戸惑った。それにしても俺とそうは変わらない年齢に見える、いやむしろ幾分年下であろうと思われる千沙が親衛部隊の副部隊長だったなんて。
だとしたら、この戦争で多くの敵の命を奪っているはずだ。
互いの国が争っていれば有無を言わさず殺るしかない、個人の感情なんて邪魔なだけだ。
自分達と大差ない外見の『人間』を、彼女は何を思って手にかけてきたんだろう。
――殺らなければ、殺られる
あの時千沙はそう言った。
それは千沙にとって日々繰り返し続いている、いわば日常。
まともな神経を保つだけでもかなりの覚悟が必要だ。
生身で戦う以上、命の尽きる瞬間を生々しく感じずにはいられないだろう。それが敵なら達成感が有るのだろうか、それとも自身への嫌悪感?
俺の手は震えていた。戦争がどういうものかさえ記憶から消えていたのか? 今頃こんな事に気付くなんて。
では俺の眼は? 実戦を積んで得たものなのか? だから、記憶が無い事を羨ましいと言ったのか? 俺もたくさんの命を奪ってきた?
俺はなんて間抜けなんだ。
戦争の意味も、命の重ささえも、すっかり忘れていたなんて。
あの時彼女は怒っていたんじゃない、傷ついていたんだ。
千沙は恐らくかなり強いのだろう。でも、心がそれに伴っているとは限らない。俺の不用意な言葉は彼女の行為を責め、ただ祖国を守りたいがため心を殺して戦っている気持ちを深く傷つけたんだ。
例え何も知らなかったとしても、そんな事言い訳にならない。
俺は彼女を傷つけた。それが厳然たる事実だ。
昨夜の彼女の表情が鮮明に蘇る……。
だが、悔やんでいる時間さえも許さないように突然、頭の中に誰かの声が鳴り響いた。
当初、聞き取れなかったそれは次第に言葉として俺の意識に流れ込んできた。
『……事態発令! 緊急事態発令! 予言が外れ、敵は現在、西方向約二キロメートル先より村に向かって進軍している模様! 村にまだ残っている者は至急避難せよ! 繰り返す! 予言が外れ……』
切迫したその声は『繰り返す』と言っては延々と同じ内容を容赦なく送り付けてくる。これも魔法なのか?
明日攻めてくるはずだった敵が今日攻めてきた? しかももう二キロ先にいるなんて話が違う、とにかくここから離れないとならない。
直後、外から轟雷のような音が鳴り響いた。
いや、雷なんかじゃない。……爆発音か? 敵の攻撃が始まった? 二キロ先じゃなかったのか? いや、何か砲弾の様な物での攻撃だとしたら届くのかも知れない。
「くそっ!」
とりあえずここでじっとしている訳には行かない。そう思って俺は外に飛び出した。
「! なんだ、これは……」
爆発が起きていたのは『空』だった。
よく見ると上空には村を覆うようにしてドーム状の赤い光の壁が展開されている。この村に攻撃が来た時のために事前に用意されていた魔法によるシールドだろうか。
さっきから鳴り響いている爆発音はこのシールドに砲弾が当たった音のようだった。
頭上から聞こえてくる轟音は一層激しさを増していく。濃い赤色に光っていたシールドは徐々にその色を失い透明度を増していた、多分防御力が弱まってきているのだろう。
このままじゃまずい。
「うわぁーん」
「!?」
声のした方を見ると、子供が泣きながらうずくまっていた。
村民は全員逃げたんじゃなかったのか? はぐれたのか!
自分自身すら守れない俺がこの子を守れるのか? どうやって?
でも今、この村にはこの子と俺だけだ。……俺が助けるしかないんだ!
気が付くと頭上三メートル弱の所に敵の砲弾が迫ってきていた。
間に合わない!
反射的に目を閉じた瞬間、時間が止まった。
『念じろ』
――え?
目を開けても何も見えない。そこは完全なる闇。
――俺、死んだのか?
『違う! 殺されてどうするんだよ。殺すんだよ!』
落ち着いた感じの老人らしき声の後に、いきり立った若い男性の声が聞えてきた。
この感じ前にも覚えがある。
いったい何が起きているんだ? 頭がおかしくなったのか?
『なあ! 力が欲しいんだろ? あいつらを殺す力がさ!』
――あいつらを殺す……。そうだ。殺さなきゃならない。
村を襲ってきた奴らを……
『冷静になれ。こやつらの言うことに耳を貸すなど愚かなこと。
おぬし、何のために力を欲しておるのだ?』
――何の……ために……
『そんなの決まってるよね。殺すためだよ!』
――え?
『村を襲ってきた人間共を殺すためだ!』
――そう……なのか?
『そうだよ! 殺さなきゃ、お前が殺られるぞ?』
――殺さなきゃ……殺られる……
『そうだ。殺らなきゃ殺られるんだ。だから殺せ! 殺すんだ!』
スローモーションの様に時間が流れ、目の前に激しい閃光がゆっくりと広がる。
『愚かな……』
遠のく意識の中で、かすかに老人の声が聞こえた気がした。